第9話
襲撃は、いきなり正門から始まった。
正面突破――プライドの表れだろう。
そして実際、正門の警備は手薄だ。
理由は単純。侵入されても困らないからだ。
重要な書類はすべて頭の中。実験施設は地下に集約され、出入口は一つ。
そして何より――ここにいるのは全員、化け物だ。
桐生、卓、夏美、花蓮。生半可な魔法少女が勝てる相手ではない。
それは慢心ではなく、事実だった。
――ただし。
「……面白くないな」
卓は小さく呟く。
ゆりがいる。
魔法に慣れていない幼い少女が、この場にいる。
大規模攻撃は使えない。
「夏美」
「わかってる」
言葉を交わす前から、意図は伝わっていた。
「守るくらいできるでしょう?」
「当たり前よ。この子は私が守るの。舐めないで」
「舐めてませんよ」
軽口を残し、夏美はゆりを連れて執務室へと退いた。
桐生はというと――
「ボス、敵襲ですが」
「わかっている」
資料から目も上げない。
「好きに動け。魔法少女など卓で十分だ」
絶対的な信頼か、それとも無関心か。いずれにせよ、余裕しかない。
――そして。
卓は広場で、敵を待つ。
煙の向こうから現れたのは、四つの影。
次の瞬間。
炎と風が、上空で絡み合い、殺意の塊となって落ちてきた。
だが。
卓は、指一本でそれを止める。
「……勿体ない使い方だ」
無属性魔法。
あらゆる力を“弱める”力。
発動回数は一日二回――その貴重な一回を、あっさり使い捨てた。
「ちっ……外した」
「だからやめとこうって言ったでしょ」
姿を現したのは――
越前由梨と、美香。
「おやおや。お久しぶりですねぇ」
卓は笑う。
次の瞬間、両脇へ火焔砲を放つ。
短い悲鳴。
煙の奥にいた二人――赤城絵梨花と田中さくらが炙り出される。
「囮、ですよね?」
見透かした声。
「一人も通しませんよ」
美香の表情が、わずかに引き締まる。
由梨は無表情のまま。
――戦闘が始まる。
火と風。草と雷。
連携された上級魔法が、次々と襲いかかる。
だが卓は避ける。
時を歪め、位置をずらし、すべてを“後出し”で回避する。
そして――返す。
蔦と雷が反転し、さくらを直撃。
「一人」
続けざまに、絵梨花を沈める。
「二人」
残るは――美香と由梨。
ここからが本番だった。
王級魔法が飛び交う。
業火と濁流。爆風と氷礫。
空間が歪み、地面が抉れる。
拮抗。
崩れない均衡。
(……面倒だな)
卓は舌打ちする。
援軍は来ない。
桐生は動かない。花蓮は地下。夏美はゆりの護衛。
――一対二。
さすがに、楽ではない。
そのとき。
「なーに、苦戦してるの?」
場違いなほど軽い声。
振り返るまでもない。
花蓮だった。
その隣には――里奈。
かつての面影を残しながら、色を失った魔法少女。
「里奈……?」
美香の声が揺れる。
「……何をしているの?」
由梨は冷たい。
「やっておしまい」
花蓮が命じる。
「了解」
短い返答。
感情のない声。
その瞬間――戦場の均衡が崩れた。
「ありがとうございます」
卓は静かに言う。
勝ち筋は見えた。
「勝ったら、あの子達は私の獲物ね?」
「ええ、どうぞ」
即答。
卓は由梨へ。
里奈は美香へ。
「――第二ラウンド、開始ですね」
次の瞬間。
轟音が、すべてをかき消した。




