第10話
魔法少女と、元魔法少女。
その戦いは――激戦だった。
閃光と爆風が交錯し、花蓮や夏美でさえ目で追えない。氷の礫が降り注げば、それを喰らうように火龍が現れる。氷柱の雨と炎の盾が正面からぶつかり、爆ぜる。
「私よ、美香よ!お願い、戻って!ねぇ、正気に――」
「うるさい」
即答だった。
「私の主人は花蓮様。あんたら政府の犬になんて戻らない」
言葉は届かない。
その様子を、花蓮は満足げに眺めていた。
「かわいそうにぃ。振られちゃいましたね♪」
「自分の心配でもしたらどうです?政府に仇なす愚弄さん」
卓が軽く煽る。
その隙を突くように――
「隙あり」
由梨の声。
同時に、小型の竜巻が襲いかかる。内部には風の矢。
直撃すれば終わりだ。
「……ほう」
卓は笑みを崩さない。
「閃風に風矢を仕込むとは。殺意が高いですねぇ」
風で押し返す。
だが由梨は冷静だった。
「その余裕も、いつまで持つかしら」
「それはあなたも同じでしょう?」
卓の声がわずかに低くなる。
「さっきは二対一。今は一対一です」
「――逆に、遠慮なく暴れられるわね」
「ポジティブですね」
(……やりにくい)
由梨は乗ってこない。言葉で崩せる相手ではない。
仕方なく、力で押す。
だが――決定打がない。
見切られる。防がれる。避けられる。
膠着。
退屈すら感じ始めた、そのとき。
――バキンッ!
氷の槍が、炎の槍を砕いた。
里奈の一撃。
美香が吹き飛び、壁に叩きつけられる。
動かない。
戦況が、崩れた。
「攻勢逆転ですね」
卓が淡々と告げる。
「三人失って、まだやります?」
「……バカなのかしら」
由梨の一言。
その意味を考えるより早く――
里奈が由梨へ向かう。
その瞬間。
「ダメよ!」
花蓮の叫び。
次の瞬間、里奈が拘束される。
草の蔦。そして雷撃。
「攻勢逆転?笑わせないで」
「私、死んでません!」
「……お姉ちゃんに手を出した。許さない」
さくらと絵梨花。
倒れていたはずの二人が立ち上がる。
(……やられた)
完全な油断。
卓は舌打ちした。
「油断しましたね」
「あなたもでしょう?」
短く言い返される。
卓と花蓮は視線を交わす。
そして――同時に決めた。
「……共闘、ですね」
「せっかくのおもちゃ、壊されたくないものぉ」
目的は一致。
里奈の確保。そして排除。
「――本気でいきますか」
卓の姿が揺らぐ。
人の枠を外れる。
花蓮もまた、姿を変える。
白い花嫁衣装が裂け――人狼へ。
赤い瞳。牙。耳。尾。
次の瞬間。
四人が固まった、その一瞬の隙を突き――
里奈が消えた。
「……え?」
気づいた時には、花蓮の腕の中。
速すぎる。
理解が追いつかない。
「この子が最優先よぉ?」
花蓮が微笑む。
「お気に入りなの」
「珍しいですね」
卓が肩をすくめる。
里奈は、うっとりとした目で花蓮を見上げる。
「花蓮様……♡」
「「「「は?」」」」
完全な困惑。
空気が一瞬、止まる。
その隙に――現実が戻る。
「……撤退する」
由梨が静かに言った。
「里奈は奪えない。相手も本気。勝てない」
冷静な判断。
さくらと絵梨花も頷く。
「次がある」
「……そうね」
決断は早い。
だが――
「残念ですが」
卓の声。
すでに距離は詰められている。
「ただでは帰しませんよ」
緊張が走る。
全員が構える。
――だが。
「この子だけ、いただきます」
気づけば。
卓の腕には、美香。
「ボスの命令でしてね」
「それ、私にくれるわよね?」
「直談判をどうぞ」
軽く言い捨てる。
そして――
風が唸る。
炎が巻き付く。
「風王級魔法――風矢炎龍」
巨大な炎の竜が、風に乗って襲いかかる。
四人は回避に専念するしかない。
その隙に――退却。
静寂が戻る。
それは。
政府にとっても、魔法少女にとっても――
最悪の敗北だった。
「また増えましたね」
「おもちゃが♪」
花蓮は楽しそうに笑う。
「里奈、この子を運んで」
「かしこまりました……花蓮様♡」
里奈は美香を抱え、地下へ消える。
「……まだあなたのものではありませんよ?」
「どうせ情報だけ抜けって言われるでしょ?」
聞く気もない。
花蓮は去っていく。
残されたのは、崩れた施設。
そして卓。
(修復、報告……面倒ですね)
そう思った――が。
「……移転?」
桐生の指示は簡潔だった。
この拠点は放棄。
新たな場所へ。
卓は小さく息を吐く。
(……嵐は、まだ終わらないか)




