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第11話

最近見てくれている人が多くてありがたい限りです。

移転命令が出てから、わずか三日。

組織の本部移転は、驚くほどあっさり完了した。


以前は奥多摩。今回は長野。


書類はほぼ頭の中。実験器具も最低限。そのため引っ越し自体はかなり楽だった。


花蓮が、


「引っ越しばっかりじゃ白けちゃうわぁ」


などと文句を言っていたが、行動だけはやたら素直だった。

移転が終わるや否や、里奈と美香を連れて地下へ消えていったほどに。


「そういえば、ここ誰が見つけたんですか?」


卓が何気なく尋ねる。


「私よ。他に誰がいるっていうの」


夏美が胸を張る。


「軍服ちゃん、ご機嫌ナナメ?」


「その呼び方やめて!」


即ギレだった。


「あと別に機嫌悪くない!」


頬を膨らませたまま、ぷいっと隣室へ消える。

直後。


――ゆり、長旅大丈夫だった?

――うん!お姉ちゃんがいたから平気!

――そっか〜、さすが妹!

――血繋がってないよ?

――そんなの気にしなくていいの!


賑やかな会話。

卓は一人、静かに取り残されていた。


「……ボス」


「知らん」


「まだ何も言ってない」


桐生の返答は異常に速かった。

しかも書類から目すら上げない。


冷たい。

鬼である。


卓は、薄々思っていた。

都合よく地下施設付きの建物が見つかるのもおかしい。夏美が部屋配置を完璧に把握しているのもおかしい。


だが卓は気づかない。

なぜなら、


夏美がそんな有能なわけない

という偏見と、

卓が極度の方向音痴

という致命的欠陥があるからだ。


本人だけ知らない。

卓は暇だった。

本当に暇だった。


「ボスの部屋、僕の部屋、夏美とゆりの部屋、花蓮さんの部屋、地下……」


数えてみる。

終わった。


施設探索、終了である。

ゆりに特訓でもつけようと思ったが、


「今日は引っ越し初日なんだから休ませてあげて!」


夏美に怒られた。

仕事、消滅。


仕方なく地下へ向かう。

すると、


美香の断末魔が聞こえた。

卓は即Uターンした。


関わってはいけない。

本能が告げている。


「何をしてらっしゃるのですか、卓様」


「うわっ」


いた。

里奈である。

完全に背後を取られていた。


「えっと……里奈ちゃん?」


「里奈で結構です。」

距離が近い。

怖い。


「花蓮様に何か御用ですか?」


ズイッ。

近い。

圧が強い。


「いや、ただ散歩を……」


「……なら問題ありません」


一歩下がる里奈。

安心したのも束の間。


「ですが、花蓮様の邪魔をするなら卓様でも容赦しません」


「はいはい、わかりましたよぉ」


適当に流す。

すると里奈は、頬を赤く染めた。


「……もしかして私に見惚れてます?」


「は?」


「でもダメです……♡ 私の初めては花蓮様に――」


「ストップ!!」


卓、全力制止。

危なかった。

たぶん聞いたらダメなやつだった。


「……変な卓様」


「変なのはそっちだよ」


卓は逃げるように地上へ戻った。

そして悟る。


暇だ。

絶望的に。

そこで卓は閃いた。


「軍服ちゃん、デートしましょう」


「…………は?」


夏美の思考が停止した。


「ゆり連れてきてもいいですよ」


「な、な、な……!」


顔が真っ赤になる。


「何言ってんのバカぁ!? デートって二人でするものでしょ!? それに――!」


限界だった。

恥ずかしさが処理落ちしている。

そこへ。


「お姉ちゃん、照れてる」


ゆり、追撃。


「わーっ!聞こえない聞こえない!」


夏美、うずくまる。

卓とゆりは顔を見合わせた。


――ただ暇だっただけなんだけど。

――お姉ちゃん照れ屋さんだから。

――意外と乙女だねぇ。

――ねぇ。


「二人で行く?」


「いいね」


「もう知らないっ!」


夏美、拗ねた。

めんどくさい。

非常にめんどくさい。


「本当に二人で行きますよ?」


「お姉ちゃんの座、奪っちゃうよ?」


「どーするの?」


「どーするの?」


二人で追い打ち。


夏美、限界突破。


「わかったわよ!!行けばいいんでしょ!!」


バン!!

卓の肩にパンチ。

普通なら吹き飛ぶ威力。


「痛っ」


「これはデートじゃないから!ゆりが心配だからだから!」


早口だった。

めちゃくちゃ早口だった。


そのままゆりの手を掴み、逃げるように部屋を飛び出す。

卓は笑いながら追いかけた。


――そして三人で散歩した。

散歩中、卓は虫や鳥の名前をゆりに教えた。


なお、夏美は最後まで“デート”を認めなかった。


「この鳥は風属性っぽいね!」


「おぉ、確かに」


ゆりは大喜び。

一方夏美。


「私はついてきてるだけだから」


ずっとこれ。

しかし途中。


「楽しくない!」


ゆりが突然怒った。


「二人とも、手繋いで!」


「は?」


「え?」


強制執行。

卓と夏美、接続。

夏美、硬直。


卓はニヤニヤした。

夏美は茹でダコみたいに真っ赤になった。


「……死ぬ」


「まだ生きてますよ」


調子に乗った卓は、そのまま恋人繋ぎした。

次の瞬間。


「ッッッ!!!???」


握力。

万力。

骨が悲鳴を上げた。


「ちょ、待っ、折れる折れる折れる!!」


「知らないっ!!」


涙目で叫ぶ夏美。

妖狐の怪力を真正面から受けた卓は、本気で死を覚悟した。


(女性って怖い……)


心からそう思った。

散歩は二時間ほど続いた。


ゆりは知識をたくさん覚えてご満悦。

卓も暇潰しにはなった。


そして夏美だけが、

最後までずっと真っ赤だった。

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