第12話
なんやかんやあった。
本当に、なんやかんやあった。
しかし、とりあえず今日も無事に終わった。
風呂だ、ご飯だと騒ぎながら走り回るゆりと、それに振り回される夏美を見届けてから、
卓は自室へ戻る。
「……よし。明日からは有意義に時間を使おう」
小さく呟いた。
もちろん、今日が無意味だったと言いたいわけではない。
決して。
絶対に。
もし夏美本人に聞かれたら膝蹴りが飛んでくる未来しか見えないので、卓は賢く黙っておくことにした。
明日の特訓内容を整理しながら、卓は眠りについた。
__
翌日。
卓は夏美たちの部屋を訪れた。
コンコン。
ノックした瞬間。
バァン!!
「おはよっ!!」
勢いよくドアが開いた。
「今日から特訓でしょ!?早く早く!!」
ゆり、超元気。
テンションが犬。
尻尾があったら確実に振っていた。
「……昨日の夜からずっとこうなの」
部屋の奥で、夏美が死んでいた。
ベッドに座り込み、目は虚ろ。
髪はボサボサ。
狐耳も尻尾も隠せていない。
完全に寝不足の狐である。
ゆりがちらっと夏美を見る。
しかし、
「お姉ちゃんはいいの!早く行こ!」
容赦ゼロ。
最近、遠慮がなくなってきた。
夏美本人は「成長した……!」と喜んでいたが、今の顔を見る限り全然嬉しそうではない。
「……じゃあ復習からやろうか」
「うん!」
夏美を放置し、二人は裏庭へ向かった。
特訓開始。
――そして卓は驚く。
「え、もうできるの?」
「えへへ、自主練した!」
ゆり、めちゃくちゃ成長していた。
基本五属性。
火、水、草、雷、風。
卓が習得に一週間かけたそれを、ゆりはわずか四日で使いこなしていた。
才能の暴力である。
「お兄ちゃんどう!?水魔法すっごく頑張ったの!」
「うん、凄いよ。魔力制御もちゃんとできてる」
卓は素直に褒めた。
しかし。
「またそういうこと言う〜!」
ゆり、不満顔。
「私の全力、簡単に消してる人が言っても説得力ないもん!」
正論だった。
卓は普通に受け止めていたが、そもそもリッチ基準で考えてはいけない。
夏美が「あんた教えるの向いてない」って言ってた気がする。
たぶん気のせいじゃない。
__
気づけば日が暮れていた。
ゆりは魔力を使い果たし、その場でぷすぷすしている。
本日の成果。
――中級魔法習得。
しかも五属性全部。
異常である。
「いや早すぎでしょ……」
夏美がドン引きしていた。
「吸収早いとかそういうレベルじゃないって」
「でも良いことじゃない?」
卓は楽観的だった。
「良くないの!」
即否定。
「だっておかしいもん!怖いくらい早い!」
「心配なの?」
「だってゆりは私たちの……!」
そこで止まる。
「私たちの?」
「な、なんでもない!」
夏美は顔を赤くした。
「とにかく!気をつけてよね!?何かあってからじゃ遅いんだから!」
嵐みたいに言い切ると、そのままゆりを連れて去っていった。
卓はぽかんと見送る。
「……忙しい人だなぁ」
そのまま廊下を歩いていると、
「少し話がある」
桐生に呼び止められた。
__
数分後。
卓は難しい顔で部屋を出た。
「……単独任務、ねぇ」
今回の任務。
それは――
魔法少女クローン施設の破壊。
以前潜入した施設で判明した、クローン計画。
しかも今回は、里奈関連のデータを潰された影響で、警備も厳重になっているらしい。
面倒そうだった。
非常に。
「まぁ、やるしかないか」
卓は支度を始める。
すると。
「お兄ちゃん、どこか行っちゃうの?」
ゆりが不安そうに見上げてきた。
「あぁ、任務でね」
「……夏美お姉ちゃんも、花蓮おばさんも同じこと言ってた」
「花蓮さんは“お姉さん”ね」
卓は真顔で訂正した。
「あの人、おばさんって呼ぶと面倒だから」
命に関わる。
わりと本気で。
「……心配?」
卓はしゃがみ込み、ゆりの頭を撫でる。
「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」
抱き上げる。
ゆり、秒で機嫌が直った。
(ちょろいなこの子)
卓は思った。
口には出さなかった。
賢いので。
__
一時間後。
卓は施設を見回る。
収穫はあった。
夏美は魔法少女の監視。
花蓮は政府施設への潜入。
里奈は、美香の監視とゆりの世話係。
なお、美香はすでに半分くらい堕ちているらしい。
恐ろしい。
「……仕事早いな花蓮さん」
卓は若干引いていた。
そして自分も準備完了。
黒いスーツ。
シルクハット。
本人お気に入りのスタイルである。
なお、女性陣からは不評。
でもやめない。
己を貫く男だった。
施設入口へ向かうと、もう誰もいなかった。
花蓮ですら既に出発済み。
「珍しいな……」
あの拷問大好き人狼が即行動するなんて。
相当重要な任務らしい。
卓も急ぐ。
車へ乗り込み、街へ向かった。
__
一方その頃。
とある一軒家。
そこでは魔法少女たちが共同生活を送っていた。
――表向きは。
実際には、政府直属の作戦拠点である。
「里奈奪還は失敗。美香まで捕まった」
由梨が静かに告げる。
空気は重い。
「でも今度は違う」
由梨の目だけは死んでいなかった。
「幹部たちは散った。つまり各個撃破できる」
「でも前も失敗したじゃん」
さくらのツッコミ。
「お姉ちゃん捕まったの、あんたの作戦のせいでしょ」
絵梨花も刺す。
ギスギスしていた。
当然である。
リーダー不在。
参謀だった里奈も敵側。
チームは崩壊寸前だった。
それでも由梨だけは政府を信じている。
信じるしか、生き方を知らない。
「クローンは投入されるって言われたし……兵器支援もあるって」
「ほんとに?」
「どうだか」
誰も信じていない。
由梨の言葉は、もう響かない。
それでも由梨は前を見る。
見続けるしかなかった。
そして。
桐生の思惑。
政府の停滞。
魔法少女の崩壊。




