第19話
戦勝ムードも束の間、すぐに次の作戦会議が始まった。
「九州全土、四国全土、そして山口を支配下に置いた。島根や広島でも反乱を扇動し、西日本の支配は着実に広がっている。さらに、現役魔法少女も全員こちらの手中だ。
……だが、安心はできん。」
桐生は地図を睨みながら続ける。
「北関東には、以前卓が任務に失敗したことで稼働を続けている魔法少女クローン製造施設がある。加えて、防革隊は大規模な兵力再編を行い、関東・東北に要塞群を建設中だ。
つまり、ここから先はその場その場で状況を見極める必要がある。」
部屋の空気が静まり返る。
「まずは近畿討伐についてだ。
中国地方の完全制圧後、兵庫・和歌山方面から侵攻する。兵庫には花蓮と魔法少女たち。和歌山には夏美と卓だ。
中国地方の反乱鎮圧が長引くようなら、一ヶ月後に俺が直接動く。近畿攻略は二ヶ月以内。その後、中部へ進軍する。」
そこで桐生は一度言葉を切った。
「……以上だ。ひとまず一ヶ月休め。」
会議が終わるや否や、卓は花蓮に首根っこを掴まれた。
「え、ちょ、なんで!?」
夏美や魔法少女たちへ助けを求めるが、誰一人助けてくれない。むしろ夏美は、ゴミでも見るような目を向けていた。
そのまま卓は、花蓮愛用の地下室へと引きずられていった。
そして――小一時間、説教された。
「……というわけで、分かった?」
「はいはい。つまり、“夏美ちゃんの気持ちにちゃんと向き合え”って言いたいんでしょう?」
「その通り。」
花蓮は満足そうに頷き、眼鏡を押し上げるような仕草をする。
「次また夏美ちゃんを揶揄ったり、恋心を弄ぶような真似をしたら……分かるわよね?」
にっこり笑っているのに圧が凄まじい。
卓はガタガタ震えた。
女って怖い。
「まぁ、頑張りなさい。」
それだけ言い残し、花蓮は去っていった。
悩みの種が増えた卓は、深いため息をつく。
その帰り道だった。
突然、夏美に腕を掴まれる。
「うわっ!?」
そのまま廊下の隅へ引きずり込まれ、尻尾でぎゅうっと締め付けられた。
「ど、どうしたんですかぁ?」
「どうしたもこうしたもないわよ。花蓮さんと何話してたの。全部言いなさい。」
「言わなかったら?」
「締め殺す。」
今日の夏美は妙に機嫌が悪い。
花蓮に連れて行かれる時から、ずっと鬼みたいな顔をしていた。
「リッチは死にませんけど」
「うるさい。早く話せ。」
隠しても面倒そうなので、卓は正直に話した。
すると夏美は、茹で蛸みたいに真っ赤になってその場にしゃがみ込んだ。
耳も尻尾もぺたんと垂れ、顔を全く上げようとしない。
「……そんな話だと思わないじゃない……」
ぼそぼそと小さく呟く。
「花蓮さんに、アンタ取られるんじゃないかって勘違いして……。ていうか、なんでバレてるのよ……。みんなには隠してたのに……」
ぷるぷると首を横に振る夏美。
卓は完全に困り果てた。
花蓮には「向き合え」と言われたものの、恋愛経験どころか人付き合いすら怪しい自分に何ができるのか分からない。
とりあえず逃げようとした瞬間、足を尻尾で絡め取られた。
そのままベッドへ押し倒される。
「逃げんな。」
「逃げようとは……」
「言い訳しない。」
夏美はさらに身体を寄せた。
「花蓮さんに言われて分かってるなら、放置するのはおかしいでしょ。……何も考えなくていいから、今は側にいて。」
それきり、彼女は黙り込んだ。
卓は困惑したまま、二時間近く抱き締められることになった。
ようやく解放された頃には、夏美の尻尾が名残惜しそうに卓へ絡みついていた。
「……まさか毎日これやれって言わないですよね?」
「逆に、これだけで済むと思ってるの?」
夏美はじっと卓を見つめる。
「他の人に怪しまれない程度に、少しずつ大胆にしていくから。」
「マジでやめてくれません?」
「絶対やだ。」
言い切ると、夏美は卓を部屋の外へ押し出し、勢いよくドアを閉めた。
すると。
「お疲れ様。いいスタートじゃない。」
壁にもたれかかっていた花蓮が、こちらへウインクしてきた。
「どこをどう見たら上手くいってるんです?」
卓は心底疲れたようにため息をつく。
「これから頑張りなさいね。報告、楽しみにしてるから。」
「何の?」
「結婚。」
卓はぽかんと口を開けた。
だが花蓮は、それ以上何も言わず去っていく。
しばらくすると、花蓮の猫撫で声と、魔法少女たちの甘えた声が廊下に響き始めた。
「えぇ……」
結婚。
そんな面倒なものを、なぜ勝手に決められなければならないのか。
……だが、夏美は放っておくと危なっかしいところもある。
だったら、自分が守るしかないのかもしれない。
卓は小さく頭を掻いた。
――ひとまず、恋愛というものを勉強してみよう。
そう決意するのだった。
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首相官邸・地下。
「三河くん、どういうことかね?」
総理・河内洞爺は険しい表情で問いかける。
「九州、四国、山口を失い、中国地方では反乱……話が違いすぎる。」
対する三河は、表情一つ変えなかった。
「総理。こちらの見誤りです。まさか桐生本人が前線へ出るとは思わなかった。そして、魔法少女たちがあそこまで容易く寝返るとも。」
しかし彼は、薄く笑う。
「ですが、ご安心を。まだ終わっておりません。奴らは必ず大阪へ攻め込む。そこで叩きます。
魔法少女クローンは百体以上。進化型対人外兵器も完成間近です。北陸や中部の防衛も西とは比べ物にならない状態です。」
洞爺はなおも不安そうだった。
「だが、死んだはずの二人まで蘇った。奴らは実質不死身ではないか……」
「問題ありません。」
三河は静かに言い切る。
「総理は、僕を信じていてください。西日本は必ず奪還します。」
「……そうか。」
洞爺は頷いた。
三河は内心で笑う。
総理は操り人形で十分だ。
その先にあるのは、防革隊――そして自分の時代なのだから。
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その頃。
花蓮は魔法少女たちを連れて、桐生に呼び出されていた。
「以前、お前たちには兵庫方面から攻めろと言った。」
桐生は腕を組む。
「だが政府はそれを読んでいる。京阪神に戦力を集中させている。」
「つまり?」
里奈が即座に聞き返す。
「近畿を正面から攻めない。」
桐生は短く答えた。
さくらが、おそるおそる口を開く。
「あの……北陸とか、東海から攻めるってことですか?」
「そうだ。」
美香と絵梨花は、納得したように頷いていた。
花蓮は肩をすくめる。
「この子たち、ちょっと頭が固いのよねぇ。」
「かまわん。」
桐生は淡々と続けた。
「花蓮。北陸攻略の全権をお前に任せる。卓と夏美も好きに使え。」
「……あら? 急にどうしたの?」
「別件ができた。」
それ以上、桐生は語らなかった。
そのまま六人は部屋を追い出される。
魔法少女たちは各自の部屋へ戻っていったが、花蓮だけは廊下をスキップしていた。
責任の重さ。
そして、“好きに扱える”楽しさ。
その両方に、心を躍らせながら。




