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第15話

ゆりの消滅によって、政府は桐生たちの情報を得る術を失った。だが、政府側に焦りはない。むしろ、彼らは勝利を確信していた。


卓と夏美――あの厄介な二人を始末した。そう思い込んでいるからだ。

もちろん実際には、二人とも普通に生還している。

だが政府は、人外が“死”すら踏み越える存在だとは理解していない。


残る脅威は桐生と花蓮のみ。そしてその二人さえ排除すれば、全ては終わる。


……もっとも。


花蓮と桐生だけで、普通に国を滅ぼせる戦力なのだが。


卓と夏美は、もともと前線要員というより情報収集担当。だからこそ、二人が一時的に戦線離脱したところで問題はない――というのが桐生の判断だった。


そのため、


「しばらく休んでいても構わん」


という、珍しく人間味のある指示が出たのだが――。


夏美は即座に首を横に振った。


「先に引っ越しを終わらせる。休んでる暇なんてない。」


その返答に、卓は少しだけ安心した。花蓮ですら珍しく気遣うような目を向ける。


「私をそんなチョロい女だと思わないで。」


夏美は吐き捨てるように言った。


「……確かに辛い。でも、クヨクヨしてる暇なんてないの。あの可哀想なゆりのためにも、政府を――由梨って女を、絶対に倒す。」


その瞳は獲物を狙う獣のように鋭かった。

泣き崩れていた割には、立ち直りが早い。

きっとこれまでにも、何度も別れを経験してきたのだろう。

卓は少しだけ胸を撫で下ろした。


__



その後、桐生は全員の無事を確認すると、即座に会議を始めた。


参加者は、

桐生。夏美。花蓮。卓。そして、美香と里奈。


もっとも、美香と里奈に発言権はない。

あくまで“花蓮のペット”だからだ。


だが、


「仲間はみんな同席させなさい♪」


と花蓮が騒いだ結果、桐生が折れた。


現在、花蓮は両隣に美香と里奈を侍らせ、猫でも撫でるように二人の頭を撫で回している。

完全に飼い主である。

そんな状態で、花蓮は真面目な顔をした。



「やっぱり私、前線には向いてないわぁ。」


「……ほう。」


桐生が続きを促す。


「だってぇ、私は尋問役として呼ばれたのでしょう?最初にそう言ってたじゃない。なのに最近、普通に最前線に放り込まれてるのだけどぉ?」


「生き残ったからだ。」


「理由が雑!」


花蓮は机を叩いた。


「しかも、あの対人外兵器。危うく死ぬところだったのよ!?もう嫌ぁ。私、お家でこの子たち可愛がってたい。」


そう言って、美香と里奈の頬を撫でる。

二人は幸せそうに頬を染めた。


「私は花蓮様のご意向に従います。」


「花蓮様のためなら、なんでもします……♡」


「…………。」


桐生の顔が露骨に歪んだ。

そもそも発言権を与えない約束だったのだ。


しかし花蓮は、

「何か問題でも?」

みたいな顔をしている。


なお、桐生はなぜか花蓮には甘い。

卓と夏美は失敗すると即座に酷い目に遭うのに、花蓮だけは妙に扱いが違う。


理不尽だ。


だが、卓も文句は言えない。

花蓮は桐生と桁違いに長い付き合いなのだ。

おそらく卓や夏美の想像もつかないほど昔から。

何か契約のようなものでもあるのかもしれない。


……聞いたら死にそうなので誰も聞かないが。


ともかく。


花蓮は、


「大規模攻撃が来るまでは地下に籠る」


と宣言し、引っ越しには全面賛成した。


要するに、

「私はもう危険な場所に行きたくない」

ということである。


__



次に発言したのは夏美だった。

彼女は腕を組み、真剣な顔で言う。


「逆にここに残って迎え撃つべき。」


どうやら、ゆりの件と死にかけた件でかなり頭に血が上っているらしい。

しかし桐生は即座に却下した。


「ダメだ。構造が割れている。見ろ、建物もボロボロだ。修復中に襲撃されたら終わる。こちらは常に万全でなければならん。」


完璧な正論だった。

夏美は悔しそうに俯く。

自分でも感情的になっていた自覚があるらしい。


卓はそんな彼女を見て、つい口を滑らせた。


「仕方ないですよ。夏美ちゃん、頭カチカチですし。」


「“ちゃん”付けやめて。」


「フォローのつもりだったんですけど。」


「全然フォローになってない。」


「空気読めなくてすみませんねぇ。」


「もう黙って。」


怒られた。

理不尽である。


__



そして卓の番。

全員が視線を向ける中、卓は一言。


「ボスの好きにしてください。」


丸投げだった。

夏美のジト目が刺さる。


だが卓は面倒なことを考えたくなかった。


桐生も、

「わかった。」

とだけ返し、会議は終了した。


__________



同時刻。

首相官邸・地下会議室。


そこでは別の会議が行われていた。

参加者は政府高官たち、そして魔法少女三人。


高官たちの表情は明るい。


それも当然だ。

長年、自分たちの不都合を暴こうとしてきた桐生一派。その戦力を大幅に削れた――そう信じているのだから。


卓と夏美を始末。対人外兵器の有効性も確認済み。花蓮も撤退。


ならば、残る敵はたった二人。


彼らは完全に勝った気でいた。


由梨もまた、満たされていた。

政府の役に立てた。必要とされた。認められた。


それが嬉しくて仕方ない。

頬を少し赤らめ、高官たちをうっとり見つめる。


まるで父親を見るような。あるいは、それ以上の感情を抱いているような目だった。


政府への心酔は、彼女の中に燻っていた違和感すら塗り潰していた。


――だが。


さくらと絵梨花は違う。


さくらは、卓を消し飛ばした瞬間からずっと胸がざわついていた。

理想の実現。

それは本当に誰かを幸せにするのか。


以前出会った、花嫁姿の女。あの狂った愛情。歪み切った理想。

なのに少しだけ――羨ましいと思ってしまった。


絵梨花もまた迷っていた。


卓を倒したところで、姉は戻ってこない。

政府の正義とは何なのか。

姉を守りたい。

でも、政府の言う通りにしているだけでは、きっと守れない。


むしろ――。


政府は最後には、自分たちすら切り捨てる。

そんな予感がしていた。


__



その空気を断ち切るように、一人の若い高官が言った。


「残る敵は二人。もう君たち魔法少女の出番も必要ないんじゃないかな?」


別の高官が続く。


「いや、油断は禁物だ。徹底的に潰す必要がある。」


さらに別の男が口を開く。


「目的は変わらない。

国家の安定だ。」


そして最後に。


初老の男が静かに立ち上がった。

国防省長官――三河洋一。


かつて“自衛隊”と呼ばれていた軍を、“国家防衛革命隊”へと変貌させた男。


軍事費増強。憲法改正。独自行動権。予算の自由運用。


全てを押し通した怪物である。


彼は低く、重い声で言った。


「我らが行うのは、この国の恒久的平和の維持だ。」


「国外の脅威は消えた。ならば次は、国内の反乱分子を駆逐する番である。」


会議室が静まり返る。


「敵はあと二人。よって魔法少女諸君には、国家防衛革命隊の作戦に参加してもらう。」


空気が凍った。


つまりそれは。


“魔法少女を兵器として正式運用する”


という宣言だった。


すぐさま反対の声が上がる。


「魔法少女は兵器ではない!」


「防革隊が前面に出れば前提が崩壊する!」


「やりすぎだ!」


だが洋一は冷たく切り捨てた。


「国のために何もしない文官風情が、我らに意見するのか?」


そして静かに告げる。


「国家治安法第一条。防革隊の決定に反対する者は、長官であろうと死罪。」


その瞬間。

反対していた者たちは全員黙った。

自分の命の方が大事だった。


こうして。

作戦は正式決定された。


由梨は感動していた。

ついに自分たちは、ここまで必要とされたのだと。


だが。

さくらの迷いは深まり。

絵梨花の不信感は決定的になる。


それでも。

一度回り始めた歯車は、もう止まらない。


復讐と国家崩壊を掲げる桐生たち。

全てを終わらせようとする国家。


そして。


ついに――。

一般市民すら巻き込む、泥沼の戦争が始まろうとしていた。


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