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偶然、女装した俺を“女の子”だと思い込んだ先輩に口説かれ溺愛されています!?  作者: 夜天 颯


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8.親友のままでいたかったのに、距離がもう戻らない気がします

 朝比奈唯斗は、昔からずるい。


 無愛想で、適当で、面倒くさそうで。


 なのに、たまにだけ、変に優しい。


 それが一番たちが悪い。


「……瀬神」


「なに」


「これ落とした」


「……」


 差し出されたのは、私のペン。


 いつの間にか落としてたらしい。


「……ありがと」


「別に」


 それだけ言って、すぐ目を逸らす。


 ほんとに。


 そういうとこ。


 ずるいんだよ。


 本人は絶対気づいてないけど。


 だから困る。


 親友のままでいようと思ってたのに。



 放課後。


 私は駅前にいた。


 理由は――まあ、なんとなく。


 ……嘘だけど。


「……」


 人混みをぼんやり見ていると、すぐに見つける。


 女装しててもわかる。


 あいつはあいつだ。


「……唯」


 朝比奈唯斗――じゃなくて、“唯”。


 そして、その隣には。


「……やっぱり一緒か」


 白瀬凛花先輩。


 距離、近いな。


 ほんとに。


 普通に。


 いや普通じゃないか。


 あの人、距離バグってるし。


「……」


 なんか、ちょっとイラつく。


 なんでだよ。



「――唯」


「っ」


 後ろから声をかける。


 唯がびくっと肩を揺らした。


「美央……?」


「なにしてんの」


「いや、その……」


 露骨に焦ってる。


 ほんとわかりやすい。


「たまたま会って、ちょっと話してただけ」


 凛花先輩が自然に言う。


 柔らかい口調。


 でも余裕がある。


「ふーん」


 適当に返す。


 でも視線は外さない。


「……美央って、唯と仲いいんだね」


「まあね」


「前から?」


「前から」


 嘘じゃない。


 でも全部は本当じゃない。


「……そう」


 一瞬だけ間。


 ほんの少しだけ。


 でも確実に、空気が変わった。


 気づかないふりはしない。



「で、どこ行くの」


 気づけば聞いていた。


「カフェ」


「甘いの食べる?」


「またですか」


 唯が露骨に嫌そうな顔をする。


 でも断らない。


 そういうとこだよ。


「美央も来る?」


「……」


 一瞬だけ迷う。


 でも。


「行く」


 なんでだよ。


 ほんとに。



 カフェ前。


 並びながら、三人で立つ。


 距離感が微妙におかしい。


「美央って、唯といる時よく笑うよね」


 凛花先輩がぽつりと言う。


「……は?」


「学校で見る時より、今の方が楽しそう」


「気のせいじゃないですか」


「そうかな」


 そうだよ。


 たぶん。


 いや、どうだろ。


「……お前、今笑ってたか?」


 唯がこっちを見る。


「うるさい」


「なんでキレるんだよ」


「うるさいって言ってる」


「理不尽すぎるだろ」


 凛花先輩がくすっと笑う。


 なんなんだよこれ。



 その時だった。


「……あ」


 視界の端に、見覚えのある制服。


 同じ学校の女子。


 こっち見てる。


「……最悪」


 この距離、この状況。


 アウト。


「唯」


「え」


 腕を掴む。


「こっち」


「ちょ、なに」


 ぐいっと引き寄せる。


 そのまま体勢が崩れる。


「うわっ」


「っ」


 近い。


 顔、近すぎる。


 でも今はそれどころじゃない。


 そのまま背中側に隠す。


 女子はそのまま通り過ぎた。


「……セーフ」


 小さく息を吐く。


「……」


 気づく。


 距離。


 近い。


 というかほぼ抱き寄せてる。


「……美央」


「なに」


「近い」


「うるさい」


 即答した。


 でも。


 少しだけ。


 離れたくなかった。



「今の、どういうこと?」


 凛花先輩が静かに言う。


 声は柔らかい。


 でも、少しだけ低い。


「あー……」


 どうするこれ。


「知り合いがいて」


「見られると面倒で」


 適当に繋ぐ。


「……そう」


 凛花先輩が頷く。


 でも視線は私と唯の間。


「美央、唯と仲いいんだね」


「まあね」


「前から?」


「前から」


 また同じ会話。


 でもさっきと違う。


 今度は、少しだけ圧がある。


「……そう」


 ほんの少しだけ。


 ほんとに少しだけ。


 凛花先輩の空気が変わる。



「お前さ」


 帰り道。


「なに」


「さっきの」


「助けたけど」


「それはわかってる」


「ならいいでしょ」


「……ありがと」


「……」


 それだよ。


 それ。


「……そういうとこ、ずるいんだよ」


「は?」


「なんでもない」


 そっぽ向く。


 また顔が熱い。


「お前また赤くなってね?」


「なってない」


「絶対なってる」


「なってないって」


「声でかい」


「うるさい!」


 ほんと最悪。



 夜。


 ベッドに寝転ぶ。


「……はぁ」


 今日のこと思い出す。


 唯斗。


 凛花先輩。


 あの距離。


 あの空気。


 それから――


 自分。


「……」


 わかってる。


 もう無理だ。


 親友のままなんて。


 とっくに。


「……めんどくさ」


 でも。


 それでも。


 隣にいたいと思ってしまう。


 ほんと、どうしようもない。


 夏休み前なのに。


 全然、平和じゃない。


 むしろ――


 これから、もっと面倒になる気しかしなかった。


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