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偶然、女装した俺を“女の子”だと思い込んだ先輩に口説かれ溺愛されています!?  作者: 夜天 颯


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9/12

8.親友のままでいたかったのに、距離がもう戻らない気がします

 朝比奈唯斗は、昔からずるい。


 無愛想で、適当で、面倒くさそうで。


 なのに、たまにだけ、変に優しい。


 それが一番たちが悪い。


「……瀬神」


「なに」


「これ落とした」


「……」


 差し出されたのは、私のペン。


 いつの間にか落としてたらしい。


「……ありがと」


「別に」


 それだけ言って、すぐ目を逸らす。


 ほんとに。


 そういうとこ。


 ずるいんだよ。


 本人は絶対気づいてないけど。


 だから困る。


 親友のままでいようと思ってたのに。


◇


 放課後。


 私は駅前にいた。


 理由は――まあ、なんとなく。


 ……嘘だけど。


「……」


 人混みをぼんやり見ていると、すぐに見つける。


 女装しててもわかる。


 あいつはあいつだ。


「……唯」


 朝比奈唯斗――じゃなくて、“唯”。


 そして、その隣には。


「……やっぱり一緒か」


 白瀬凛花先輩。


 距離、近いな。


 ほんとに。


 普通に。


 いや普通じゃないか。


 あの人、距離バグってるし。


「……」


 なんか、ちょっとイラつく。


 なんでだよ。


◇


「――唯」


「っ」


 後ろから声をかける。


 唯がびくっと肩を揺らした。


「美央……?」


「なにしてんの」


「いや、その……」


 露骨に焦ってる。


 ほんとわかりやすい。


「たまたま会って、ちょっと話してただけ」


 凛花先輩が自然に言う。


 柔らかい口調。


 でも余裕がある。


「ふーん」


 適当に返す。


 でも視線は外さない。


「……美央って、唯と仲いいんだね」


「まあね」


「前から?」


「前から」


 嘘じゃない。


 でも全部は本当じゃない。


「……そう」


 一瞬だけ間。


 ほんの少しだけ。


 でも確実に、空気が変わった。


 気づかないふりはしない。


◇


「で、どこ行くの」


 気づけば聞いていた。


「カフェ」


「甘いの食べる?」


「またですか」


 唯が露骨に嫌そうな顔をする。


 でも断らない。


 そういうとこだよ。


「美央も来る?」


「……」


 一瞬だけ迷う。


 でも。


「行く」


 なんでだよ。


 ほんとに。


◇


 カフェ前。


 並びながら、三人で立つ。


 距離感が微妙におかしい。


「美央って、唯といる時よく笑うよね」


 凛花先輩がぽつりと言う。


「……は?」


「学校で見る時より、今の方が楽しそう」


「気のせいじゃないですか」


「そうかな」


 そうだよ。


 たぶん。


 いや、どうだろ。


「……お前、今笑ってたか?」


 唯がこっちを見る。


「うるさい」


「なんでキレるんだよ」


「うるさいって言ってる」


「理不尽すぎるだろ」


 凛花先輩がくすっと笑う。


 なんなんだよこれ。


◇


 その時だった。


「……あ」


 視界の端に、見覚えのある制服。


 同じ学校の女子。


 こっち見てる。


「……最悪」


 この距離、この状況。


 アウト。


「唯」


「え」


 腕を掴む。


「こっち」


「ちょ、なに」


 ぐいっと引き寄せる。


 そのまま体勢が崩れる。


「うわっ」


「っ」


 近い。


 顔、近すぎる。


 でも今はそれどころじゃない。


 そのまま背中側に隠す。


 女子はそのまま通り過ぎた。


「……セーフ」


 小さく息を吐く。


「……」


 気づく。


 距離。


 近い。


 というかほぼ抱き寄せてる。


「……美央」


「なに」


「近い」


「うるさい」


 即答した。


 でも。


 少しだけ。


 離れたくなかった。


◇


「今の、どういうこと?」


 凛花先輩が静かに言う。


 声は柔らかい。


 でも、少しだけ低い。


「あー……」


 どうするこれ。


「知り合いがいて」


「見られると面倒で」


 適当に繋ぐ。


「……そう」


 凛花先輩が頷く。


 でも視線は私と唯の間。


「美央、唯と仲いいんだね」


「まあね」


「前から?」


「前から」


 また同じ会話。


 でもさっきと違う。


 今度は、少しだけ圧がある。


「……そう」


 ほんの少しだけ。


 ほんとに少しだけ。


 凛花先輩の空気が変わる。


◇


「お前さ」


 帰り道。


「なに」


「さっきの」


「助けたけど」


「それはわかってる」


「ならいいでしょ」


「……ありがと」


「……」


 それだよ。


 それ。


「……そういうとこ、ずるいんだよ」


「は?」


「なんでもない」


 そっぽ向く。


 また顔が熱い。


「お前また赤くなってね?」


「なってない」


「絶対なってる」


「なってないって」


「声でかい」


「うるさい!」


 ほんと最悪。


◇


 夜。


 ベッドに寝転ぶ。


「……はぁ」


 今日のこと思い出す。


 唯斗。


 凛花先輩。


 あの距離。


 あの空気。


 それから――


 自分。


「……」


 わかってる。


 もう無理だ。


 親友のままなんて。


 とっくに。


「……めんどくさ」


 でも。


 それでも。


 隣にいたいと思ってしまう。


 ほんと、どうしようもない。


 夏休み前なのに。


 全然、平和じゃない。


 むしろ――


 これから、もっと面倒になる気しかしなかった。


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