7.先輩に好きな人がいるか聞いたら、、、、
「……ほんと、なんなんだよ」
駅からの帰り道。
さっきまでのことを思い出して、思わず呟いた。
凛花先輩とのスイーツ。
距離、近すぎだろ。
普通あんな近くないだろ。
というか――
「……あれで普通なのか?」
わからん。
あの人、基準がバグってる気がする。
「……」
考えても仕方ない。
そう思っていた時だった。
「――朝比奈」
「っ!?」
急に名前を呼ばれて、反射的に振り向く。
そこにいたのは――
「……先輩」
白瀬凛花先輩。
さっきまで“唯”として会っていた相手。
でも今は。
学校の先輩として、そこにいる。
「まだ帰ってなかったんだ」
「……まあ」
距離は普通。
さっきとは全然違う。
「先輩こそ」
「ちょっと寄り道してた」
「そうですか」
知ってる。
とは言えない。
「……」
一瞬、沈黙。
なんか気まずい。
さっきまで一緒にいたのに。
いや、違うか。
“別人”としていたんだよな。
「……」
ちらっとこっちを見る。
すぐ逸らす。
なんだそれ。
「……あの」
「ん?」
気づけば、口が動いていた。
「少しだけ、時間ありますか」
「……」
凛花先輩が少しだけ目を見開く。
「いいよ」
あっさり頷いた。
◇
近くの公園。
ベンチに座る。
夕方の風が少しだけ涼しい。
「珍しいね」
「何がですか」
「朝比奈から話しかけてくるの」
「……そうですか」
「うん」
少しだけ笑う。
やっぱり、この人はこの距離が普通なんだな。
「……」
どう切り出すか迷う。
でも。
なんとなく。
聞かないといけない気がした。
「……先輩って」
「うん」
「好きな人、いるんですか」
言ってから思った。
何聞いてんだ俺。
重くないかこれ。
でも。
「……」
凛花先輩は、少しだけ黙った。
その沈黙が妙に長く感じる。
「……どうして?」
「いや、その……」
理由なんてない。
ただ。
「……なんとなくです」
「ふーん」
先輩が空を見上げる。
その横顔が、少しだけ遠く感じた。
「……」
答えない。
やっぱり変なこと聞いたか。
そう思った時。
「いるよ」
「……え?」
あっさりだった。
「好きな人」
「……」
心臓が、少しだけ跳ねる。
なんでだよ。
「……そうなんですね」
なんとかそれだけ言う。
それ以上、何を言えばいいのかわからない。
「気になる?」
「……」
少しだけ迷って。
「……まあ」
「素直だね」
「そうでもないです」
笑われる。
でも。
なんか、少しだけ悔しい。
「……どんな人なんですか」
「気になるんだ」
「ちょっとだけです」
「ふーん」
凛花先輩がこっちを見る。
じっと。
「……」
なんだその目。
「……優しい人」
「……」
思い当たるやつ、いくらでもいるだろそれ。
「あと」
「はい」
「ちょっと鈍い」
「……」
なんか刺さった気がする。
気のせいか?
「それと」
「まだあるんですか」
「あるよ」
楽しそうだな。
「そういうとこ、ずるい人」
「……」
一瞬、言葉が詰まる。
どこかで聞いた気がする。
さっき。
いや、なんでもない。
「……変わってますね」
「そう?」
「はい」
「でも、好きなんだよね」
「……」
軽く言うな。
そんなの。
「……」
なんか、変な感じだ。
知らないはずなのに。
妙に引っかかる。
「……朝比奈」
「はい」
「どうしたの」
「……」
どうしたんだろうな、ほんと。
「……なんでもないです」
そう言うしかなかった。
わからないから。
「……」
少しだけ沈黙。
でも。
さっきよりは、少しだけ距離が近い気がした。
物理じゃなくて。
なんとなく。
「……帰るか」
「うん」
立ち上がる。
並んで歩く。
さっきまでより、少しだけ自然に。
「……」
でも。
頭の中にはずっと残ってる。
“好きな人、いるよ”
その言葉が。
「……めんどくせぇな」
小さく呟いた。
たぶん。
これ、もう――
気のせいじゃない。




