表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偶然、女装した俺を“女の子”だと思い込んだ先輩に口説かれ溺愛されています!?  作者: 夜天 颯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/12

6.先輩とスイーツを食べるのは危険です

「ねえ唯、今度、甘いもの食べに行かない?」


 その一言で、私は飲んでいたジュースを危うく吹きかけた。


「げほっ……え、え?」


「大丈夫?」


 白瀬凛花先輩が、少しだけ首を傾げる。


 近い。今日も近い。というか、相変わらず顔がいい。近くで見ると余計に良くない。心臓に悪い。


「だ、大丈夫です……」


 大丈夫じゃないです。


 今の誘い方、普通にだいぶダメです。


「嫌だった?」


「い、嫌ではないですけど……」


「じゃあよかった」


 よくない。


 こっちは全然よくない。


 放課後、駅前のベンチ。今日は“朝比奈唯”として凛花先輩と会っていた。待ち合わせした瞬間から、先輩はやたら機嫌がよかった。嫌な予感はしていた。


 そして案の定、こうなった。


「駅前に新しいお店できたでしょ」


「……ああ、はい。なんかパンケーキがどうとか」


「そう。それ」


「……」


 知ってる。


 女子たちの間でめちゃくちゃ話題になってた店だ。見た目が可愛いとか、写真映えするとか、クリームがやばいとか、いろいろ聞いた。


 男の俺がなぜそんな情報を知っているのかは、聞かないでほしい。


「唯と行きたいなって思ってた」


「……」


 やめてください。


 そういうこと、そんな平然と言わないでください。


「返事は?」


「……いつですか」


「今から」


「今ですか!?」


 軽いな!?


「ダメ?」


「ダメっていうか急すぎません?」


「急な方が逃げられないかなって」


「怖いです」


 何その作戦。


 凛花先輩は少しだけ笑って、私の顔を覗き込んだ。


「でも、来てくれるでしょ?」


「……」


 ずるい。


 その聞き方、ずるい。


「……行きます」


「うん、知ってた」


「なんでですか」


「唯、優しいから」


 そう言って先輩は歩き出す。


 なんで知ってるんだよ。


 というか、その評価、後で美央に言ったら絶対笑われる。



「でっか……」


 店の前で、思わず声が出た。


 ガラス張りの明るい店内。ふわっと甘い匂い。並んでる女子たち。可愛い看板。どう見ても“映える店”だ。


「やっぱり人気あるね」


「そりゃそうでしょうね……」


「並ぶ?」


「並ぶんですか……」


「嫌?」


「嫌ではないですけど」


「じゃあ並ぼう」


 決定が早い。


 なんなら会話の途中で決定している。


 店の前で並びながら、私はそっと周囲を見た。女子、カップル、女子、女子、カップル。男一人で来る空間じゃない。いや今は女だけど。中身は男だけど。


「唯」


「はい」


「緊張してる?」


「してません」


「嘘」


「してません」


「手、冷たいよ」


「えっ」


 気づいた時には、私の指先が凛花先輩に軽く触れられていた。


「っ!?」


「やっぱり」


「い、いきなり触らないでください!」


「ごめん」


 謝った口で笑ってる。


 絶対反省してない。


「でも、本当に緊張してるんだ」


「してません」


「可愛いね」


「そこに繋げないでください」


 ほんとこの人、なんでも口説き文句に変換するな。



 十分ほど並んで、ようやく店内に入れた。


 案内された席に座る。対面。窓際。逃げ場なし。


「何にする?」


 メニューを開いた瞬間、視界が真っ白になった。


「……多くないですか」


「多いね」


「パンケーキだけで何種類あるんですか」


「幸せな悩みだね」


「私には重いです」


「全部可愛い」


「基準が女子すぎる」


「唯も可愛いから大丈夫」


「会話になってません」


 メニューを睨む。


 ベリー、チョコ、抹茶、季節限定の桃、ブリュレ風、アイス乗せ、クリーム増量。なんだこれ。甘さの暴力だろ。


「決まった?」


「全然です」


「じゃあ一緒に見る?」


「……どうやってですか」


「こう」


 すっと凛花先輩が身を乗り出してきた。


 近い近い近い。


「ちょっと、近いです」


「見えないでしょ」


「見えます!」


「ほんと?」


「見えます!」


 言いながら、顔を上げたせいで思い切り目が合った。


「……」


「……」


 近い。


 やばいくらい近い。


「……顔、赤い」


「先輩のせいです!」


 思わず言ってしまった。


 凛花先輩は一瞬だけ目を丸くして、それから少し嬉しそうに笑った。


「そっか。私のせいなんだ」


「言い方がずるいです」


「唯が可愛いから悪い」


「責任転嫁しないでください」


 だめだ。ペースを握られてる。



 結局、私はいちごのパンケーキ、凛花先輩は季節限定の桃のパンケーキを頼んだ。


 運ばれてきた瞬間、私は現実を疑った。


「……でかい」


「可愛い」


「そればっかですね」


「大事でしょ」


「大事なんですか」


「うん。写真撮る?」


「えっ」


「唯と一緒に」


「撮りません!」


「即答」


「当たり前です!」


 何言ってるんだこの人。


「じゃあパンケーキだけ」


「それならどうぞ」


「ほんとは唯も撮りたい」


「だめです」


「けち」


「けちでいいです」


 先輩がスマホを構えている間に、私はそっと周囲を見た。みんな普通に写真撮ってる。女子ってすごいな。行動に迷いがない。


「撮れた」


「満足ですか」


「うん。次は唯」


「ありません」


「あるよ」


「ありません」


「じゃあ心の中で撮っとく」


「それもやめてください」


「無理」


 無理なのかよ。


 そんなやり取りをしていると、先輩が私の皿を見て首を傾げた。


「食べないの?」


「いや、食べますけど……」


「じゃあ、いただきますしよ」


「小学生ですか」


「唯、そういうツッコミ好き」


「褒められてない気がします」


 とりあえずフォークを入れる。ふわふわだ。思ったより柔らかくて、切るだけで崩れそうになる。


 一口。


「……あ、美味しい」


「ほんと?」


「はい。普通に」


「よかった」


 凛花先輩が嬉しそうに笑う。


「じゃあ、私のも食べる?」


「え?」


「一口」


「……」


 来た。


 この人、絶対こういうの好きだ。


「いえ、大丈夫です」


「なんで?」


「なんでって……」


「美味しいよ」


「そういう問題じゃなくてですね」


「じゃあ私が唯の食べる?」


「だめです!」


 反射だった。


「……なんで?」


「それは、その……」


 言えるわけないだろ。間接キスとか意識してるからです、なんて。


「……」


 凛花先輩がじっとこっちを見てくる。


 その顔やめてくれ。


 見透かしてるみたいで心臓がうるさい。


「……唯」


「はい」


「もしかして、意識してる?」


「してません!!」


 即答した。


 即答しすぎて逆に怪しい。


「ほんと?」


「ほんとです!」


「じゃあ一口」


「論理が飛んでます!」


 ほんとこの人、会話の進め方が強い。



「……ねえ」


「はい?」


 パンケーキを半分くらい食べたところで、凛花先輩が不意に頬杖をついた。


「今日、美央と会った?」


「ぶふっ」


 危うく咳き込むところだった。


「な、なんでそこで美央なんですか」


「なんとなく」


「なんとなくで親友の名前出さないでください」


「親友なんだ」


「……まあ」


 言ってしまった後で、少しだけ後悔する。


 でも嘘でもない。


 美央は親友だ。


「仲いいよね」


「そうですか?」


「うん」


 先輩がフォークをくるくる回しながら言う。


「この前も一緒だったし」


「たまたまですよ」


「ふーん」


「なんですかその反応」


「別に」


 別に、の言い方が全然別にじゃない。


「……先輩、美央と仲いいですよね」


「普通に話すよ」


「やっぱり」


「気になる?」


「ちょっと」


 本音が出た。


 凛花先輩は少しだけ目を丸くして、それからまた笑った。


「そっか」


「なんで嬉しそうなんですか」


「秘密」


「またそれですか」


「だって、唯がそういう顔するの好き」


「どういう顔ですか」


「ちょっと拗ねてる顔」


「拗ねてません!」


「そういうとこ」


「どこですか」


「可愛い」


「そこに戻さないでください!」



 結局、私は凛花先輩の桃のパンケーキを一口食べさせられ、先輩は私のいちごのパンケーキを一口奪っていった。


 もうめちゃくちゃだ。


 しかもそのたびにいちいち「美味しいね」「唯の選ぶの好き」「やっぱり甘いの似合う」みたいなことを言ってくる。


 甘いのはパンケーキだけにしてくれ。


 店を出る頃には、私はもうだいぶ限界だった。


「唯」


「はい」


「また来ようね」


「……」


 即答できなかった。


 したら終わる気がしたから。


「嫌?」


「……嫌じゃないです」


 小さく答えると、凛花先輩がぱっと笑った。


「よかった」


 その顔が反則みたいに柔らかくて、思わず視線を逸らす。


 だめだ。


 ほんとにだめだ。


「……先輩」


「なに?」


「その……」


 なんて言おうとしてたのか、自分でもわからない。


 でも。


「……今日、楽しかったです」


 それだけは本当だった。


「うん」


 凛花先輩が、少しだけ目を細める。


「私も」


 その一言で、また心臓が変な音を立てた。



「――で?」


「うわっ!?」


 帰り道、突然横から声をかけられて飛び上がった。


 そこにいたのは、壁にもたれてニヤニヤしている美央だった。


「な、なんでいるんだよ!」


「買い物帰り」


「嘘つけ!」


「半分ほんと」


「半分嘘じゃねぇか!」


 心臓に悪い。


「で?どうだったの、スイーツデート」


「デートじゃねぇよ」


「はいはい」


 流すな。


「……」


 でも、美央の顔を見た瞬間、さっきまでのことが一気に蘇ってきた。


 近かったとか、一口交換させられたとか、可愛い連呼されたとか。


 思い出すだけで顔が熱い。


「うわ、わかりやす」


「うるさい」


「何された?」


「何もされてねぇよ」


「その顔で?」


「だから違うって」


 私が早口で否定すると、美央はふっと笑った。


 でも、その笑い方が少しだけいつもと違った。


「……そっか」


「なんだよ」


「いや、別に」


 そう言いながら、私の顔を見たまま少しだけ黙る。


 それから、ぽつりと。


「……ほんと、ずるいよな」


「は?」


「なんでもない」


 そう言って歩き出す。


「おい、待てって」


「うるさい、早く帰るよ」


「なんでちょっと機嫌悪いんだよ」


「悪くない」


「悪いだろ」


「悪くないって言ってる」


 全然わからない。


 でも――


「……」


 その横顔が、少しだけ赤い気がした。


 夏のせいか。


 それとも、別の何かか。


 よくわからないまま、私はその背中を追いかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ