根っこワークと最後のシューマイ
――ノームたちは、魔法が消えることを予想していた。
「魔王が、魔法サーバー事業に手を出し始めて、格安で魔法を売り始めた頃から、ノームたちは予想していましたじゃ。そこで、レジスタンスを結成しましたじゃ」
山盛りの料理を運ぶのをようやく終えて、得意気に話すノームの爺さん。
「え、でも、この世界の全員が、魔法が使えないんですよね」
ノームの爺さんは頭をとんとんと叩く。
「知恵を働かせれば、魔法なんていらんですじゃ」
……地下経済の本来の意味、知らないくせに。
「ノームってもっと穏やかな種族だったような……」
「イメージを逆手にとったですじゃ。ギャップ萌え戦略ですじゃ」
(そんな戦略が……! ……戦略か、それ?)
「にしても、魔法無しでどうやって?」
俺の問いに、ノームの爺さんはテーブルの上で手を組んで言う。
「ふ、しれたことですじゃ。魔王も経済で勝負を仕掛けてきた。我々だって……!」
嫌な予感しかしない。
「経済で勝負、ってワケですか……。でもショッピングモールを2つも見てきましたけど、そんなに生ぬるい相手じゃないですよ。何より物量が違いすぎます」
「ふ、我々には根っこワークがありますじゃ」
「根っこワーク?」
ますます嫌な予感しかしない……。
「この世界の地下には、地上の人間が知らない根っこが張り巡らされていますじゃ。それは、瞬時に情報を運びますじゃ」
それ、インターネットじゃん。
「めっちゃすごくないですか?」
「ですじゃ」
「でも、正直なところ、それでも勝てる気がしません」
「そのとおりですじゃ。だから今、地下で経済圏を作り、強力なレジスタンス仲間を集めていますじゃ。あなた方もその一員ですじゃ」
やっぱり、レジスタンスの一員として認識されていた。
ただ、何となくこうなるだろうな、と予感していた俺はシュウマイを黙って口に運んだ。……うまい。
***
先ほどから生気の無いイゴラくんがノームの爺さんに尋ねる。
「あの、ボクたちは、どうなってしまうのでしょう……?」
(どうなる?)
やたら心配してるけど、どうしたんだろう?
「ゴーレムは魔力を無くしてほとんど動けなくなる可能性があるですじゃ」
「……!」
俺は思わず目を見開き、イゴラくんを見る。
「そんな……」
彼は呆然としてレンゲを見つめる。
「体内魔力が残っているうちは、動けるじゃろうが……。魔法がなくなるとはそういうことじゃ。正確には、魔力が魔法にできなくなる状態じゃから、魔法で動く生物は、ほとんどそうなるですじゃ」
「そんなの、どうすれば……?」
「こればっかりはもう、決まったことですじゃ……」
ノームの爺さんはここにきて初めて言い淀んだ。
「ちょっとまって。私も……?」
「あんたもかわいらしいとはいえ動く原理はゴーレムと同じですじゃ。おそらく、動けなくなるですじゃ」
「うそ……」
自分の両手を見つめるルルドナ。その手はこの世界に来て初めて震えているようだった。
俺は箸を置いて爺さんに抗議する。
「ちょっと待って下さい。彼女は俺の作ったハニワから生まれたんですが……。こっちの魔力の影響をそんなに受けるんですか?」
「……その点も含めて、話をして下さる方がいらっしゃるじゃ。地下に潜って何百年も研究して下さっている、地底の賢者様ですじゃ」
「地底の賢者……!?」
この世界に来て、魔女にも魔王にも会ったけど、そういえば賢者には会っていない。
(地底の賢者という響き……期待できるかもしれない)
「賢者様は、魔力稼働の者がいたら優先して連れてくるように、と言われてましたじゃ」
「二人とも、安心しろって。何百年も研究してる賢者様がいるんだ。絶対にどうにかしてくれるさ」
魔力で動いている二人は、不安な表情を俺に向ける。だが俺は「大丈夫」と自信満々に二人を見つめる。まったくらしくないことをしているな、と自分でも思いながら。
(こういうとき、嘘でもいいから、肯定してくれる奴が必要なんだ。昔の俺にはそんな人が誰もいなかったから、せめてここは、俺が)
そう見栄を張った、その瞬間だった。
入り口のドアが勢いよく開いた。
入ってきたのは、少し若い黒髭のノームだった。
「村長! 大変です! 地熱発魔炉が……!」
(この爺さん、村長だったの!?)
「どうしたですじゃ?」
「一人、倒れました! 人手不足で交代がいません!」
……人手不足、こっちでも深刻なんだ。
(どうやら、まずは肉体労働らしい)
瞬時に悟った俺はもう一つシュウマイを口に放り込んだ。
……うまい。
ゆっくりと飲み込み、静かに箸を置いた。
次回、俺は思い知ることになる。地底商店街の――地下経済のすごさを。そして、ノームたちの恐ろしさを……!




