地下世界で危険なのは子どもの声
闇。
穴の中は、完全な闇だった。飛び込んでから数十メートルを一気に駆け抜け、ようやく魔王忖度部隊の巨人たちを振り切る。
先を行くのは、何重ものローブを纏った謎の人物だ。
最初は夕日が差し込んでそれなりに明るい道が続いていたが、もう今はほぼ闇に包まれていた。
だが、不安なほど、闇が広がり、どんどん地下へ下っていく。
湿った空気が辺りを包んでいる。
鍾乳洞ってやつだろうか。
「ずっと下りのスロープが続いています。足音を立てずに、着いてきて下さい。しばらく灯りはつけられません」
先導する人物におとなしくついていく。
というか、黒い布に包まれて、引っ張られるように足を進めているだけなのだが。
しばらくすると、待ちきれないという感じの声がした。
「そろそろ、灯りをつけてもいいんじゃないか? 丹波くん」
(丹波……? あの、占い師の?)
かわいらしい声の魔女ヒルデの声が洞窟内に響く。
それに対し、ローブの人物から反射的な声が返ってくる。
「……! ヒルデ様! 子どもの声はいけません!」
次の瞬間、周囲がぼんやり明るくなる。そこは何でも無い、くりぬいたような穴が広がっているだけだった。
ただ、魔女ヒルデの全身が蛍のように光り輝いていた。
「お? そんなに可愛くてプリティな声だったか……?」
魔女ヒルデの姿が光に包まれ、その姿が薄らいでいく。
「サナさん!」
丹波さんの切迫した声。
その隣にいた小さな影が黒の衣を伸ばすが、ヒルデの影をすり抜ける。
「ふふ、ヒーローの次はお姫様か、小さくなってみるものだ。では諸君、ステキな救出劇を頼むよ……」
そうして、余裕たっぷりのお姫様は、あっさりと姿を消した。
全員、あっけにとられる。
「師匠、魔力切れ、本当だったんだ……」
俺のつぶやきにローブの人物が大きめの声で問いかける。
「魔力切れ?」
「さっき、コスプレ魔法を2回使って……」
「またそんな無茶を……! 連れてくるだけでよかったのに」
「えっと、丹波さん……、魔王モール3号店にいた占い師さんですよね? お久しぶりです」
「そう。丹波よ。だけど、詳しく話す暇はないわ。ここ、まだ安全じゃないの」
辺りを警戒した様子で見渡しながら丹波さんが続ける。隣の小さな黒装束もそわそわしている。
「とにかく、子どもはいないわよね? 子どもが声を出すと洞窟の精霊に連れて行かれるわ。危険はないんだけど……」
(え、ちょ。それ完全なフラグ発言ですよ……)
嫌な予感に背筋が凍る。だが、その予感を現実にするのは、いつだって空気を読まない身内だ。
「そんな子ども、いるわけ無いでしょ。にしても魔女ヒルデが生きていたって、どういうこと?」
ルルドナが呆れた様子で呟く。すると。
案の定、先ほどと同じような光が輝く。
「え?」
目を見開くルルドナ。そうだ、ルルドナは、こっちの世界で生まれた存在だ。元AIの魂が、こちらの土人形に転生したんだ。知識はあるけど、子どもと認識されても仕方が無い。
「おいっ」
反射的に彼女の手をつかむと、こちらまで光が広がる。
「この光は伝説の……!」
イゴラくんが近づいて解説しようとする。キャラ的に解説係から逃れられない宿命……! すると、彼も光に包まれる。
(イゴラくんもゴーレムにしてはまだ子どもだ……!)
「みんな、しゃべるな!」
その声を最後に、俺と、ルルドナ、イゴラくんは、その場から――消えた。
最後に注意した俺の声は、どこか学校の先生のような、場違いな雰囲気をもっていた。




