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諫言



 怪我そのものは治癒魔法で塞がれていたものの体力が戻らず、ゼンは数日、憲兵の勤務を休んでいた。


 休んでいる間に、(くだん)の“蛇の爪(スネイル)”が捕まったという噂を聞いた時、ゼンは己の耳を疑った。まさか、と思ったが、どうやら噂は事実らしかった。“蛇の爪”が捕縛されたのがイゾルデ商会で、商会に勤めている者が噂の出所だったのだ。


 誰かがイゾルデ商会で奴らを迎え撃ったということだろうか。

 ゼンの脳裏に一瞬、アルスの顔が過ぎったが、苦笑混じりに首を振った。いくらなんでもそれはない、と。

 



 すっかり復調して第三憲兵隊の詰所へゼンが顔を出すと、かつてないほど苦々しい顔をしたロベルト隊長に「王宮へ行け」と命じられた。


「君はなにをしでかしたんだ?」

「いえ、身に覚えが無いのですが」

「これ以上私に迷惑をかけてくれるなよ。さあ、早く行きたまえ。粗相の無いよう気を付けるんだぞ」


 これ以上迷惑を? 欠勤のことだろうか、とゼンは思ったが、わざわざ機嫌が悪い隊長に聞き返すことはしなかった。




 市中警邏が主任務の憲兵が王宮を訪れることは珍しい。特にゼンのような、役職もない平民出身の憲兵が名指しで呼び出されることは稀有と言えた。


 王宮に着いたまではよかったが、どこから入っていいやらわからず困っていると、


「そこの貴方」


 門番の衛兵に声を掛けられた。


「何か御用ですか?」

「はい。私は第三憲兵隊所属のゼンと申します――」


 とそこまで名乗っただけで、あっさりと通された。衛兵にまで自分のことが周知徹底されていることにゼンは若干の恐怖を覚えた。


 王宮内を身なりの整った老紳士に案内されて辿り着いた先はなんと謁見の間。


「え、あの、私は……」


 どうなってしまうのか聞きたかったが老紳士は笑顔を返してくるのみ。

 そもそも王宮に呼ばれた理由がわからない。


 謁見の間は静寂に満ちていた。

 玉座には誰もいない。


 老紳士に「玉座の前で待機」と言われていたので、そこまで進んで膝をつき頭を下げた。


 誰かの影がゼンの横を通り過ぎた。

 誰か。決まっている。国王陛下だ。


「け、憲兵隊のゼンであるな?」

「は、はい」

「私に諫言(かんげん)があるとのことなので召還した。登城ご苦労であった」

「は?」


 諫言? 俺が? 陛下に?


「憲兵隊の給金について、だったか」

「え……」


 ゼンはそこでようやく陛下の声に聞き覚えがあることに気が付いた。

 反射的に顔を上げようとして思いとどまった。許しを得ていないのに陛下の尊顔を拝するわけにはいかない。下手をすれば首が飛んでしまう。


「あはは。やっぱり真面目ですね。顔を上げてください、ゼン」


 許しを得てゼンは顔を上げ、


「……え、あの、はぁ? しっ、失礼しました!!」

「今は他に誰もいないから、楽にしてください」


 玉座で笑っているのは、ゼンがひったくりと誤認逮捕したアルス・ヴューラーその人だった。だが、玉座におわすということは――


「へ、陛下……?」

「うん。余がリーデルシュタイン王国国王、アルベルトである。ゼンよ」

「ははっ」

「城下でのことは内緒にしててくださいね? それで、ええと憲兵の俸給の話でしたっけ?」

「勘弁してくれ。いえ、勘弁してください、陛下」


第五話はこれで完結です。次回から第六話「千年王国オブザデッド」がはじまります。

引き続きよろしくお願いします。


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