蠢動
その村人が畑にやってきたのは、天気が悪くなりそうだったからだ。
見上げれば分厚い鼠色の雲が空を覆い尽くしている。
陽光は遮られ、まだ昼間だというのにひどく暗い。
空の遠くで、雷鳴が轟いた。
じきに降り出しそうだと思った矢先、雨粒が落ちてきた。
雨粒は大きく、次第に数を増していく。
ぽつぽつと振っていたのも束の間、すぐに土砂降りになった。
畑の脇の用水路はみるみる増水していく。
今にも溢れそうなほどだ。
堰を落としたい衝動に駆られる。
どうしようか、と村人が思った時――、再度の落雷。
今度は近い。
次はもっと近くに落ちるかもしれないと。
村人は堰を落とすのを断念した。
そうと決まればこれ以上ずぶ濡れていても意味は無い。
帰ろう。
家に帰ろうと踵を返した村人の目の前。
そこに、
真っ黒な、
人影が、
立っていた。
ボロボロになった衣服。ただれた皮膚。零れ落ちた眼球。口は片側が裂けて歯が剥き出しになっている。赤黒く、血に塗れた歯が。
動屍体だ。
村人が逃げ出すよりも、悲鳴を上げるよりも、息を吸い込むよりも前に、動屍体は飛び掛かってきた。押し倒され、左肩に噛みつかれ、びくびくと痙攣をして、やがて村人は動かなくなった。
動屍体はふらふらと立ち去っていく。
残されたのはずぶ濡れになった村人の死体だけ。
雷鳴。
雨で煙る畑の傍らで、村人の死体がゆっくりと立ち上がった。
噛みつかれた左肩の動きがぎこちない。
覚束ない足取りで歩き出す。
濁った虚ろな瞳の焦点は合っていなかった。
村人は人のものとは思えない奇声を上げた。
――千年王国オブ・ザ・デッド




