剣の神の神殿にて
意識を失ったゼンを治癒してから、僕は剣の神の神殿に担ぎこんだ。
「ご、ごめんエミリア。緊急なんだ」
「アル……ベルト陛下!?」
「ちょ、ちょっと場所を貸して! お願いだから!」
「この憲兵さん血だらけじゃないの! どういうことなの? 説明しなさいよ!」
「あー、うん。えっと、色々ありましてですね」
「全然説明になってないんだけど」
エミリアの的確な指摘を今はスルー。
「け、怪我はもう治癒済みだから、大丈夫だと思う。今は、その、意識が無いだけ」
「治癒済みってまさかアンタ……じゃなかった陛下が?」
「アンタでいいよ。あ、そうそう。今はアルスって呼んでもらっていい? 男爵家三男のアルス・ヴューラー」
「なによそれ」
エミリアのジト目に思わず後ずさり。美人に睨まれるのはとても怖い。
「城下に出るときにはそういう肩書を使ってるんだよぅ……」
「ふぅん。一応正体隠すくらいの配慮はしてるのね。っていうか城下をちょろちょろしてんじゃないわよ」
感心するか怒るかどっちかにして欲しい。
「お説教はじいやだけで足りてるよ」
「そうは見えないけど」
「……勘弁してよ。それにさ、城下をちょろちょろしてたからこの人を助けられた」
傷は治癒してあるのに、ゼンは今も苦しそうな顔をしている。城下でひったくりから鞄を盗り返して、誤認逮捕されかけたけど、そうしてゼンに出逢ってなければ、今頃彼はきっと死んでいた。殺されていた。
「ものは言いようね。で、私は何をすればいいのかしら。ええと、ミスター・アルス?」
「ありがとうございます、剣の巫女様」
「ところで、今日はあのちびすけは?」
ちびすけ、というのはエンズのことだ。仲が悪いせいでお互いの呼び方がとてもひどい。
「いないよ」
「そう」
「荒事になりそうだから召喚しようかな、って思うけど」
「……」
「エミリア、何その顔。変なの」
「うっさいわね。なんでもないわよ」
エミリアは変な顔はそのままで僕を怒った。何故。理不尽。
「それで? 私は何をどうすればいいの?」
「この人、ゼンさんを治癒したのは巫女様ってことにさせてもらえれば」
「は?」
「僕が治癒魔法使えるのは、普通に考えておかしいでしょ?」
「アンタは巫女に嘘を吐けって言うわけ?」
「良い嘘なら神様もお許しになるよ、きっと」
「ンなワケないでしょ。アンタ、無茶苦茶言うわね」
「駄目かな?」
上目遣いにエミリアを見る。
エミリアは僕を見下ろしながら居心地悪そうにした。
「その目やめなさいよ」
「うぅ……、ここしか、エミリアのところしか頼れる場所がなかったんだ。この通り、お願いします」
「ふ、ふーん。そういうことなら仕方ないわね……。いいわ。貸しひとつよ。頭上げなさいよ」
理由はわからないけれど了解してくれた。大変助かる。
「ありがと。借りはいつでも返すからね」
「じゃ、じゃあ今度一緒に――」
エミリアが急き込んで何か言いかけた時、ゼンさんが「う……」と呻いた。
「あ、気が付いた! よかった!」
「……」
「巫女様、また変な顔してますけど」
「なんでもありません!」
あ、また巫女口調に戻った。




