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復讐の炎



 ゼンの所属する第三憲兵隊詰所は王都の目抜き通りから数本外れた位置に存在していた。


「戻りました」


 所属している憲兵は基本的には市中警邏のため出払っていることが多く、詰所に人はあまりいない。今しがた帰ってきたゼンの他は第三憲兵隊の隊長ロベルトがいるだけだった。ロベルトはデスクでの書類仕事からちらりと顔を上げると、


「警邏任務ご苦労だな、ゼン」

「お疲れ様です。隊長、先日報告した件ですが」


 ゼンは挨拶もそこそこにデスクの前に移動、気を付けの姿勢を取った。

 ロベルトはふっと息を吐いて、ペンをデスクに置いた。


「――盗賊団のことかね」

「はい。報告書に挙げた通り、連中の次の狙いはマリシャール商会とイゾルデ商会のいずれかです。張り込みをして一網打尽にするのが最善と考えます」

「ゼン、君はどうして盗賊団の次の標的を名言できるのだね?」

「連中の標的には共通点があるんです」

「ほう?」


 ロベルトは眉をピクリと動かした。

 ここぞとばかりにゼンは第三憲兵隊の最高権力者に自分の考えを申し伝えた。

 報告を聞き終えたロベルトは真面目くさった顔ではっきりと一度頷いた。


「なるほどな。君の意見はよくわかった。だが、偶然そうなっているだけではないかね?」

「そんなはずは――」

「いずれにしろそれだけでは証拠として弱い。人手が足りていないのだ。ひったくりや恐喝といった犯罪が急増しているのは君も知っての通りだろう。今、市中警邏を疎かにするわけにもいかんのだ」

「……はい」


 ゼンは不承不承頷いた。

 これ以上食い下がってもどうにもなるまい。ロベルトは一か八かの大手柄よりも通常業務を問題なくこなすことを優先しているように思えた。


 詰所を後にして、自宅への帰路で、ゼンは覚悟を決める。

 ――自分ひとりでやるしかない、と。







 ゼンが憲兵になった理由はふたつあった。ひとつは単純に食い扶持を稼ぐため。もうひとつは復讐のためだった──


 憲兵の仕事は楽ではない。少なくとも俸給に見合ってはいない。


 どれだけ暑かろうが寒かろうが市中警邏の毎日だ。犯罪者と相対することもまれではない。ちょっとした怪我は日常茶飯事であるし、同僚の中には重傷を負って憲兵隊を去った者は何人もいる。


 ゼンは新人の頃からどんな些細な違反や犯罪も取り締まった。生真面目などと言われるが、そういうことではなかった。犯罪者が憎かった。赦せなかったのだ。復讐するべき相手が本当は別にいることもわかっていた――自分のすべてを奪った盗賊団に然るべき報いを与えたかった――が、手がかりは何もなかった。その代わりといってはなんだが、憲兵の仕事をしていれば復讐の矛先を向けて構わないと思える犯罪者には事欠かなかった。


 軽犯罪に手を染めるつまらないチンピラや子悪党ばかりを相手にする日々が続いた。ゼンの中の復讐の炎は日常という薄い(もや)のようなもので徐々に小さくなっていったが、完全に色褪せてしまうようなことはなかった。燃え残った炭のようにじりじりと心の奥深い場所で燻り続けていた。


 ある日のこと、あの“蛇の爪(スネイル)”が復活した。王都に帰還し、再び商会を荒らしはじめたのだ。その手口は数年前に実家の商家を襲ったのとまるで同じ。商会丸ごと皆殺しにして金品を奪っていくというものだった。


 ゼンの復讐心に火が付いた。

 憲兵になった理由を改めて思い出す。

 両親の、商会の、自分の人生の仇を。


 必ず復讐してやる。

 この復讐は俺のものだ。


 必ず見つけて。捕まえて。この手で。罰を下してやる。

 そう心に誓った。


 ……絶対に、殺す。


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