側近は二度刺す
誤認逮捕寸前までいったその翌日。
執務室での書類仕事の最中、僕はふと手を止めて傍らに控えているじいやに声をかけた。
「あのさ、じいや」
「はい、陛下。何か御用ですかな?」
「憲兵隊の評価資料ってすぐに出してもらえる?」
「勿論可能ですぞ。憲兵にご興味がおありですかな」
「あ、うん。ちょっとね」
じいやは長年の経験からかなんなのか、僕の要望を察してくれていた。
「その者の名はお分かりですかな?」
「ゼンという名前で、僕より少し年上だと思う」
他に知っている情報は無い。
すると一瞬の間があって、
「――その者は第三憲兵隊の所属ですな」
「え? じいや、まさか憲兵隊の全員覚えてるの?」
「はい」
誇った風もなく、当然のことのようにじいやは頷いた。
「凄いね……。びっくりした」
「はは、こんなものは年寄りの暇つぶしに過ぎません」
暇つぶしってそんな。
驚いている僕に、じいやは視線で先を促した。
そうそう。聞きたいことがあるんだよ。
「ゼンがどんな評価をされているか教えてもらえるかな?」
「勤務態度は実直。遅刻、欠勤は無し。真面目が憲兵服を着たような若者ですな。ただし、上役の評価は芳しくありません」
「理由は? 真面目に働いてるのに評価が悪いって」
そんなことがあるんだろうか。
「上役に対して意見することが多いようです」
「率直に意見を言えるのは美点だと思うけど……」
「それをよしとしない上役なのでしょう」
「うーん」
上役の方が問題な気がするのは僕の考えすぎだろうか。
「しかしながら、人柄と勤務態度から地域住民からは信頼されておるようです」
「そっか。ちなみに過去に誤認逮捕の履歴はある?」
僕の奇妙な質問に、じいやは僅かに首を傾げた。
「ありませんが?」
「……ありがとう」
誤認逮捕されかけたのは僕だけみたいだ。ならよかった。よくないけど。
「彼の担当地区の犯罪発生率は平均よりもかなり低くなっておりますな」
「優秀だね。あ、そうだ。話は変わるんだけど、ひったくり、っていうか軽犯罪の発生率って高くなってない? 僕が即位してからこっち」
「よくご存じで。それもこれも、ご趣味の成果ですかな」
「ゲフンゲフン」
チクリとやられて僕は激しく咳き込んでしまった。
「しっかりと政務に励み王の威光をお示しになれば犯罪の発生も抑えられましょう」
更にチクリと刺された。とても痛い。




