“蛇”の巣穴
息を切らせながら裏道を走ぬけて、細身で長身の顔中を傷だらけにした男は、王都の外れにあるあばら屋に辿り着いた。
「くそったれが。余計なことしやがってあのガキ」
荒れた息と苛立ちに顔を歪めているのは、ひったくりに失敗した男だった。
じめじめと薄暗いあばら屋の奥から粗野な声がかかる。
「よお、どうしたどうした?」
「どうしたもこうしたも邪魔されたんだよ」
「ははっ、オイオイ。まさかしくじったのか?」
「ほっとけ!」
「ひったくりでヘマするヤツがいるのかよ」
ゲラゲラと嘲笑が響いた。
闇の中には多くの気配があった。
「う、うるせえ!」
顔を赤くして怒鳴り返す男の前に、ゆらりと影が立っていた。つい今まで、誰もいなかったのに、はじめからそこに居たかのような自然さでその影は立っていた。影は研いだばかりの刃物のような視線を向けてきた。
「……」
「お頭!?」
無言の、ただし殺意混じりの視線に男は狼狽した。
「お前は事前のちょっとした小細工も満足にできないのか? おい?」
「いえ、そんなことは」
「言い訳は要らん。現に失敗しているじゃないか。おい?」
「す、すみません!」
「大仕事が待ってるんだ。しっかりしろ。次は、無いぞ」
男の傷だらけの顔はすっかり青ざめていた。
背筋をピンと伸ばし返事をする。
「はいっ」
「あと2軒はどうしたってやらねえといけねえんだ。気合い入れろ。他の奴らもだ。人の失敗を嗤ってるってこたぁミスしねえってことだよなあ?」
「お頭」の言葉が闇の中に緊張をもたらした。
「かなり警戒されてるようだがやることはかわらねえ。はじめてってわけじゃねえんだ。――全て計画通りにやるぞ。根こそぎ奪って、全員、殺せ」
「「おうっ!」」




