表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/87

不名誉な実績解除


 空は高く、蒼く、澄み渡っていた。

 日差しはほどほどで、緩やかな風が通りを抜けていく。

 天気が良いと気分もよくなる。

 王宮を抜け出した僕は、城下を軽い足取りで歩いていた。


 今日はひとりだ。

 シャルもエンズもいない。

 こう言っては申し訳ないけれど、とても気楽だ。


 王に即位しても王宮を抜け出すのはやめられない。王になったからこそ、かも。

 いっとき自分の身分を忘れてする散歩は、最高の気分転換だ。


「帰ったらいっぱいお説教だろうけど」


 じいやとシャル、エンズの怒った顔がちらつくけれど、ひとまず忘却の彼方へ。

 今の僕は、アルベルト・リーデルシュタイン国王ではなく、田舎の男爵家の三男アルス・ヴューラーなのだから。


 屋台や露店、人の賑わいを眺めながらただ歩く。

 ひとつひとつの生活が集まって王都は形作られている。

 それを間近で感じられる、僕にとっては貴重な時間だ。


 それなのに、


「ひったくりだ! 誰か! そいつを捕まえてくれ!!」


 いい気分を台無しにされてしまった。


 犯罪を根絶することは難しい。

 王都のような国一番の都会では尚更だと思う。

 なんとかならないだろうか。

 いや、なんとかするのが(ぼく)の務めなんだよね、と現実に引き戻される。


 そんなことを考えている間にも、ひったくりが近づいてくる。

 こちらに走ってくるのは目付きの悪い男。

 細身の長身のその男は奪った鞄を抱えて、空いた手に握ったナイフを振り回して人混みを遠ざけようとしていた。


「どけコラァ!」


 怒鳴り声をあげて周囲を威嚇。周りの人たちは皆、さっと道を開けた。まあ誰だって怪我したくはないだろうからそうなるのも無理はない。


「テメエもどけやガキィ!」


 僕のことだった。


 一歩も動かなかったから、僕ひとりが道の真ん中でぽつんと通せんぼをしているような状況になっていた。動かなかったのは王としての責任感が半分と、足が震えて逃げ遅れたのがもう半分。〈王の器〉があってもビビリの性根はそう簡単には変わらない。それはそう。


 避けなければ確実にナイフで斬られるか、よくて突き飛ばされそうな勢いだ。

 その数歩手前で僕は予見(フォーサイト)を使用。

 男の進路を正確に読み切った。


 ナイフを持つ手と逆方向に半歩だけズレる。

 回避成功。

 それだけで済ませるつもりはない。


 可能な限り冷静に、落ち着いて「クラス:拳闘王(チャンピオン)」を有効化(アクティベート)


 半歩ズレながらもわざと残しておいた右足をひっかける。

 そして《足払い》。

 拳闘王のスキルはただの《足払い》とは思えない威力で男の軸足を刈り取った。


「ぐあっ!?」


 前のめりに地面に激突し、走っていた勢いのままゾリゾリと石畳で顔面をすり下ろされていく。うわぁ、すごい痛そう。犯罪者相手とはいえやりすぎだったかも。いや、自業自得かな。うん。


 僕は宙を舞う鞄をキャッチ。持ち主の男性のところまで行って返却する。


「ど、どうぞ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!!」


 涙混じりに何度も頭を下げる中年のおじさん。

 ちゃんと持ち主の手元にもどって良かった。それにしても昼間から物騒極まりないなあ。王都の治安悪すぎじゃないか……?

 国王(ぼく)の威厳が足りないから犯罪が増えてるんだろうかと、一抹の不安を覚える。


「あ、いえ、そんなに頭下げたりしないでください」

「是非とも御礼をさせていただきたいのですが!」

「いえそんな」

「いえいえぜひとも」

「いえいえいえ」

「いえいえいえいえ」


 ふたりでペコペコと頭を下げあっていると、警笛の音が耳を貫いた。


 直後、駆けつけてきたのは憲兵の青年だった。僕より少し年上くらいだろう。憲兵隊の所属を示す紋章が胸にあった。

 その憲兵の青年は僕の姿を認めるなり、


「おい貴様!」

「えっ?」

「ひったくりの現行犯で逮捕だ!」

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

「つべこべぬかすな犯罪者め!」

「ぬ、濡れ衣なんですけど!? 犯罪者は僕じゃなくてあっちの――」


 あ、逃げてる。

 遠くなる真犯人の後ろ姿は、すぐに雑踏に紛れて見えなくなった。


「言い訳無用だ!」

「ええぇ……」


 リーデルシュタイン王国の千年の歴史にあっても憲兵に誤認逮捕された王様は僕ひとりだろうな、きっと。千年にして初の実績解除(トロフィー)。快挙だ。いや快挙じゃない。嬉しくもないし。


 結局、ひったくりに遭ったおじさんが僕の無実を証言してくれて、どうにか事なきを得たのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ