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神剣、邂逅す


 王の居室というにはいささか以上に手狭な感のある部屋に、我――聖魔の神剣エンズは居た。三十余年という長らくの期間(あいだ)、異空間に保管(放置)されておったゆえ、娑婆(シャバ)の空気は心地良い。


 良いが。


「此度は部屋に放置とは。この国の王どもは我の扱いが粗雑過ぎるんじゃが? じゃが!?」


 信じられんことに新たな我が主は、この我を置いて出かけてしまいおった。

 呆れて物も言えぬ。


 この神剣エンズを、

 置き去りにするなど、

 ありえんのじゃが???


 あまりに手持ち無沙汰なため、剣の姿から只人(ただびと)の姿へ変化する。細っこい身体つきの幼女の姿になってしまうのは我の意思ではない。勝手にこうなるのだ。我としてはもっと神々しくも威厳ある姿が好ましいのだがな。ままならんものよ。


 さて、暇を持て余した神剣の遊戯(あそび)としては少しばかり物足りぬではあるが、我が主の部屋の探索でもしてみるとしようかの。艶本はどこにあるやら。見つけたら机の上に綺麗に陳列しておいてやるとしよう。


 フフフ、と闇属性の笑みを浮かべていると、部屋のドアを叩く音がした。

 我が主ではないな。自室のドアをノックしたりはすまい。


 では誰か。

 答えはすぐに解った。

 こちらの返事も待たず扉が開いたからの。


「アル兄さま!」


 部屋に飛び込んできたのは金髪碧眼の少女であった。只人の姿の我よりも僅かに背丈の高いその少女は、我の姿を認めるや動きをびたりと停止させた。瞬間凍結か時間停止の魔法でも食らったかのような硬直ぶりであった。


 対する我も少女の姿を見て――ほんの数瞬ではあったが――思考を停止してしまった。ドワーフの名工に槌で頭を痛打されたと錯覚するほどの衝撃を、視覚から得たのだ。この顔貌(かおかたち)。そして声色。


「何者じゃ?」


 我は一言そう問うのがやっとであった。


「なにものか、はこちらのセリフです。アル兄さまのおへやに入り込んで! へいをよびますよ!」


 アル兄さま、と声を発するということは我が主の妹か。ならばこの容姿と声は……血縁ゆえ、か。


 毅然とした態度、凛とした声。

 年端もゆかぬのに大した胆力。

 我は礼を尽くすべき相手と判断し、恭しく一礼をした。


「失礼した。我はアルベルト陛下の剣、エンズオブエデンと申すものじゃ」

「つるぎ、ですの?」

「左様。我は剣。万物を断つ神なる剣じゃ」


 右の手だけを刀身に戻した。

 闇に濡れた漆黒の刃に少女は驚愕するも声は挙げなかった。


「して、妹御よ。そなたの名は?」

「わたくしはシャルロット・リーデルシュタインです」

「シャルロット殿か」


 丁寧な挨拶を返されて、我は知らず口元を綻ばせていた。こんな気分になろうとは、此度の浮世は悪くない。全く悪くない。


「えんずおぶえでんさんはどうしてアル兄さまのおへやにいらっしゃるの?」

「我を呼ぶならエンズで構わぬよ、シャルロット殿。我は置いてけぼりを喰らってしまっての。手持ち無沙汰なのじゃ」

「あなたもアル兄さまにおいて行かれたのですね」

「シャルロット殿もか。奇遇だな」

「ふふふっ」


 笑い顔も、よく、似ている――


「どうかなさったの?」

「いやなに、シャルロット殿が知己に瓜二つでな」


 そう。かつて我が身を預けた王と生き写しであった。もっともあやつはシャルロット殿ほど礼儀を弁えてはおらなんだが。


「もしも時間があるのであれば、しばし話し相手になってはくれまいか」

「はい、よろこんで!」


 置いて行かれたことは気に入らんが、此度の邂逅はそのおかげ、か。もっとも、今でなくともシャルロット殿にはいずれ近いうちに逢っていたであろうがな。


 ともあれ今回ばかりは我が主の無礼な扱いを大目に見てやっても良いかもしれぬ。


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