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邪竜と軟弱者  作者: なが
第2部
33/35

17-2


しばらく経って、吐き出してもらった。

体中が唾液に塗れてべたべただ。

目の前に木造の建物が現れた。アルドの家だ。


「早く、入れ。」


隣でグラファイトが、静かに促した。僕は促されるままに、血腥い臭いのまま、玄関を開けた。

ガラガラと音を立てて開いた扉、その奥には、あの時と同じ光景だった。

エキゾチックな雰囲気のその先に、アルドが立っているような気がした。その筈は、ないのである。

とりあえず、風呂場を拝借してべたべたになった体をきれいにした。

更に、アルドの服まで拝借してしまった。他に方法が無かったから、仕方がない。



家中を、ゆっくり見て回る。

2階の部屋に白い封筒が一つ、茶色の机の上に乗っていた。

それだけだった。

ほかの部屋を探しても、全てがきれいに整頓されているだけだった。


「どうだったのだ。」


前の時と同じ縁側に座って、僕は手紙を開いた。


「これしか無かった。あとは整頓されていたよ。やっぱりアルドは気付いてたんだね。」


グラファイトは顔を背けた。

何も自分の言葉は掛けられず、手紙を広げた。


「読んで、いい?」


僕は声を落として、尋ねた。グラファイトは何も言わなかった。


「読んでやれ。」


グールが言った。僕は文字を軽く目で追って、読み始めた。




――――きっと僕は、グラファイトに殺されて、死んでいると思います。だけど、誤解しないでください。ラグルがきっと此処に来ると信じて、このような遺書として残したので、必ず最後まで目を通して下さい。――――


ちらとグラファイトの方を見上げると、目があった。

気まずくなって、僕は手紙の方に目をやった。と同時に、グラファイトも顔を背けていた。

僕は一枚目をめくって、二枚目を読み始めた。


――――死ぬと分かっていてグラファイトに会いに行ったのは、僕の懺悔のため、そして自殺のためです。グラファイトと離れ離れになったのは、明らかに僕のせいです。付け加えて、グラファイトの現状を聞いたときに、僕はどうしようもない罪悪感に苛まれたのです。グラファイトの暮らしを、僕のせいで、すっかり曲げてしまったのです。気位の高いグラファイトのことだから、僕を許さないでしょう。

だけど僕は、こんな愚かであるくせに、グラファイトのことが忘れられないのです。グラファイトのことが好きで好きでたまらないんだ。その2つに挟まれた僕は、身動きが出来なくなったのです。僕がこのように人目を避けて生活し始めたのは、この葛藤と戦うためでした。――――


二枚目をめくった。

グラファイトの唾を飲み込む音が聞こえた。


――――葛藤した結果、僕はグラファイトに殺されることを望みました。僕がグラファイトに殺されることは、生きる価値のない僕の唯一の望みなのです。もしグラファイトが許したとしても、僕はグラファイトに殺してくれと頼むと思います。なので、このことで気負いしたり、グラファイトのことを責めたりしないで下さい。

グールにはお世話になりっぱなしで、その上、ノルデン隊長をはじめ、軍の同僚にも迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳ないと思っています。最期の身勝手を、どうかお許し下さい。――――




「これで、全部だよ。」


グラファイトは低い声で、返事のような言葉を呟いた。何と言ったのかは聞こえなかった。

それ以降、会話が無くなった。

僕の心がきゅっと握りつぶされる心地がした。

グールが急に、どこかへ飛び去ってしまった。

砂の上に、蹴った足跡がくっきりと残されていた。


2人きりになって、余計に気まずくなった心地がした。

グラファイトは一切こちらを見ず、ただ周りの山を見上げていた。

僕はもう一度手紙を見た。上手い字とはいえないけど、一字一字がぶれずに、丁寧に書かれている、ということはよく分かった。

ふと三枚目の手紙の裏を見てみると、まだ続きが書かれているのに気付いた。


――――追伸;機会があれば、グラファイトに真実を話してあげて下さい。そして、グラファイトのことを、よろしくお願いします。


「あの、さ。」


ぱっと、僕の方を見下ろした。同時に上から水滴が降ってきた。

思わず見上げると、グラファイトは侮蔑するような鋭い目つきで見下した。


「アルドから聞いた話、聞きたい?……本当の、話。」


僕はグラファイトの目をじっと見つめた。逸らせば、負けのような気がした。


もとより、そのつもりで来たのだ。早く話せ。」


グラファイトは、語勢を強めて言い放った。




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