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邪竜と軟弱者  作者: なが
第2部
32/35

17-1



肌に触れる、ぬめっとした気持ちの悪い感触。うっとくる鼻を突く臭い。

グラファイトの口の中だ、と直感で気付いた次の瞬間、ずっと掴んでいた舌がうねり始めた。

また内蔵がこねくり回される心地がした。

血腥い臭いに加えてくらくらとし始めた意識が、あの時の嘔吐を思い出させて仕方がない。

僕は何とか堪えようと舌をぐっと掴んだ次の瞬間、とどめに上下のうねりを見舞われた僕は、また盛大に体内のものを外に追いやってしまった。


「グガァッ!?」


唸り声が口内に轟いたその時、僕は何かの力に押されて、盛大に外へと追い出された。


「グハッ!ガハッガハッ――」


ガサガサ、という音と共に衝撃に打たれた。視界が木の葉で包まれる。

木に引っかかって宙吊り状態になっていたのに気付いた。

狭まった視界の真ん中に、グラファイトが口から吐瀉物にまみれた唾液を吐き出しているのが見えた。それを最後に、意識は遠くへ去ってしまった。





苦しい、息苦しい、――


「ぶはっ!はぁ、はぁ、……」


僕は勢いよく上半身を起こした。ザバァ、と盛大に水が跳ねた。

湖の中に沈められていたんだ。危うく死ぬところだった。

視線の先で口を濯いでいたグラファイトが、ぱっと振り向いた。

僕が新鮮な空気を求めて深呼吸している中、グルルゥと唸り声をあげて、僕の方へ歩み寄った。


「軟弱者如きが我が口の中で吐き散らすとは何事だ!」


グラファイトは大声で叫んだ。

思い出した。臭いと揺れに酔って、吐いてしまったんだ。


「だって、酔っちゃったから……。」


僕は湖水から立ち上がり、グラファイトの元に歩いた。ずぶ濡れの重たい服がまとわりついて、こけそうになった。


「ぐぬぬ……この崇高な我を穢すなど以ての外だ、言語道断だ!」


「ごめんなさい。だけど僕だって吐きたくて吐いてるんじゃないんだよ、」


僕は弁解をしようとしたが、グラファイトは牙を剥き出しにして、今にも襲いかかりそうだった。

暫く動けずに睨まれ続けていると、


「誰の声だよ、全く……静かに寝ていたのに邪魔をしたのは誰だ。」


上の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

ぱっと上を向くと、青空に一頭、見慣れた赤いドラゴンが羽ばたいていた。


「あっ、」


赤いドラゴンはゆっくり旋回しながら、地上に近づいてきた。


「誰だ。」


「グール、ブレイズの弟だよ。」


「ブレイズの弟……ふむ。」


グールは荒々しくドシンと音を立てて着陸すると、グラファイトを嘗めるように見回し始めた。グラファイトは大儀そうにグールのことを睨みつけた。


「無礼ではないか。」


グラファイトの鋭い視線に気付いたのか、一歩後ろに下がった。


「おっと、すまない。俺の名前はグール。なるほどな、オーラが凄まじいな。噂に聞いた通りだ。」


「何のオーラだ。」


「邪竜の、さ。」


グールがにやりと笑うと、グラファイトもいかにも悪役な面持ちで口角を上げた。背筋を悪寒が一気に駆けていった。


「ククッ、グールも邪竜なようだな。口の端に人間の血を付けているドラゴンは、久々に見たぞ。」


「そうだ。褒めてもらえて光栄だな。えっと、名前は、グラファイトだよな?」


「ああ、我が名はグラファイトだ。」


「あの、」


僕は我慢しきれず、間に入った。


「アルドの家に、行かないの?」


「それは……そも、軟弱者が家の場所を覚えておらぬのが問題だ。」


「仕方ないよ、だって、ずっとグールに喰われたままだったから……。」


「そうだお前、散々俺の口の中で吐きやがって、」


「何だ、グールも吐かれたのか。」


「グラファイトもか?」


二頭はお互いに見合って頷いて、そして、僕の方を、邪な笑みで見下し、睨みつけた。二頭の邪竜に挟まれて、僕は無意識のうちに一歩後ずさった。


「とと、とにかく、アルドの家に行こう、ね、ねっ、そうだ、グール、案内してよ。僕達、道が分からなくて、困ってたんだ。」


「じゃあ、対価として、お前を喰わせてもらおう。」


グールは顔をぐっと近づけ、真っ赤な舌を見せつけた。


「何故、喰うことに拘るのだ?」


グラファイトが横から尋ねた。グールは頭をぽりぽりと掻いた。


「そうだな……半殺しにしといて、弄ぶのが楽しいからか。とにかく、人間を支配するのが楽しくってしょうがない。」


「では、惨めな人間の顔を見なくても良いのか?」


話が逸れ始めた。僕はジャンプしながら「行こう」と言って、何とか話を止めさせようとしたが、努力も虚しく、グールはそのまま続けた。


「獲物がもがく感触を楽しんでるのさ。確かに顔も見たいが、それよりも、こんなひ弱な人間が、」


グールの前脚が、僕の体をがしっと捕まえた。僕は慌ててもがいたが、もちろんびくともしない。


「真剣にもがいてるのに、何も痛くも痒くもないんだ。特に喉を通り抜ける時は、逆に気持ち良いぐらいだ。それに、人間のひ弱な抵抗を感じていると、どうも自惚れちまうんだ。」


グラファイトは眼を見開いて、そして、より邪な笑みになった。


「なるほど、ククッ、それは実に面白い。捕食は死刑の手段のみではない、と云うことか。良いことを聞いた。」


な、と付け足して僕の顔を見たグラファイトの表情は、余りに残酷だった。


「とにかく、行こうよ。」


思わず声が震えた。グラファイトはぐいと顔を近づけた。僕の顔は、更にひきつった。


「ククッ、つまり、後でならばいたぶっても良いと云うことだな。」


恐怖はあったが、僕は頷くしかできなかった。


「よしよし、いい子だ。」


グラファイトは邪な笑みを浮かべているはずなのに、僕の心はなぜだか知らないけど、確かに喜んでいた。何だろう、この感覚。

僕はただどうしようもなく、グールに掴まれたままでいた。


「では、行くぞ。」


グラファイトはそう言うと、地面を蹴った。

グールもそれに続いて、僕を忘れたまま空へと飛び出していた。

僕は慌ててゴーグルをかけると、ようやくグールは気が付いた。

「こいつ、どうする?」

グールがグラファイトに尋ねると、「お好きにどうぞ」と言った。

僕はもう諦めた、と同時に体が宙に浮いて、


はぐっ……


僕は血腥く蒸し蒸しした空間に、放り込まれてしまった。





今度は、吐くことはなかった。

手加減をしたのだろうか、分からないが、舌の動きが激しくなかった。

逆に、僕の体を優しく受け止める舌に、心地よささえ感じてしまう。

臭いも既に、鼻がおかしくなっているせいなのか、嫌な臭いだと判別できないでいた。

舌に丸め込まれて、どうしても楯突く気が起きなかったのだ。

きっと、アルドの事を考えてぼんやりしているのだろう、と自分に言い聞かせておいた。


「随分と大人しいな。抵抗しないと呑み込むぞ。」


グールに言われてぎくりとした。僕は何とか嘘を思いついて、「とにかく吐かないようにしているんだ」と答えておいた。



主人公がMになってる……元からかな(笑)


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