16-1
自分の部屋に戻ってきてからずっと、今までのことをぐるぐると思い返していた。
部屋の壁にもたれ掛かって、ただ廻っている時計の秒針を、何となく追っていた。
気になったことがある。
――――そうだ、また機会があったら、家に遊びに来て。
もしグラファイトの気持ちが理解できていたとしたら、戻って来れないことは分かっていたはずだ。
なのにアルドはそういう風に、確かに言った。
そう思い返してみると、こっちに来る前に家の中を整理していたのは、もしかして、死ぬ前に遺品整理をしていたということなのかな。
そして、テスラの言葉。
――――アルド、他に何か言うてなかったか?いや、わっしゃとずっと仲良うしとったから、何か遺言ってか、まぁそんな言葉無かったかなー思うてな。
確かに、それはもっともだ。
もしかして、アルドの家に遺書――――遺書とまで行かなくても何か――――があるんじゃないか?
僕は、そういう結論に至った。
……頭を使いすぎて、何だか眠たくなってきた。
欠伸をしながらふと時計を見ると、既に日をまたいでいた。
「あれ、もうこんな時間……」
思わず呟いてしまった。
かれこれ2時間も考えていたんだな。疲れがどっと出てきた気がした。
とりあえず明日、いや、今日確かめてみよう、と心に決めて、布団に潜り込んだ。
――――――グラファイト、……グラファイト!
起きると、目元が冷たかった。
僕は目元を手で拭って、上半身を起こした。
グラファイトがもがき苦しむ夢だった。
檻の向こうでもがいているのをただ見せつけられる傍観者役は、もう嫌だ。
その光景を思い出すとまた、胸がぎゅっと握られた心地がする。
早く、グラファイトの元に行かないと。
朝食を急いで食べてから、グラファイトの元へ向かった。
「グラファイト、」
グラファイトはいつものように臥せて、ただ僕の方を見据えていた。
何も言わなかったが、何となく、前より表情が穏やかになった気がする。
「今日は一緒に行ってほしい所があるんだ。来てくれないかな?」
「何処だ。」
グラファイトは口だけ動かした。
「アルドが住んでいた家に、ね。」
グラファイトは黙りこくってしまって、微動だにしなかった。
僕は少し不安になった。
「聞いてる?」
僕が尋ねると、グラファイトは小さく口を開いた。
「……そも、どうやって我を外に出すつもりだ。」
……あっ
「これは自分勝手の領域になる。アルドの家に行くのはブレイズから聞いていたけど、勝手に敷地内に部外者を招いたりするのは――」
「部外者という言い方は、無いと……思います……」
言葉を遮ったところで、相手がノルデン隊長だということを思い出した。
僕は目線を足下に逸らした。
「あのね、これは一般化して言っただけで、ラグルの行為が間違っていたとか、そういう話をしている訳じゃ無い。一軍人として、それ相応の行動をしてくれないと困る、ということ。分かっているかね?」
僕は一歩下がって頷いた。ノルデン隊長はふう、と溜息を吐いた。
「今度からはちゃんと“事前に”報告するように。良いね?」
「はい。」
僕は胸に深く刻みつけた。突っ走る前に、報告。
重要な事だ、といつも心がけているのに、いつも勝手に突っ走ってしまう。
それは自分でもよく分かっていた。
「檻全体の錠前も、鍵は同じにしてある。使うのなら使っても良いけども、万が一他国のドラゴンを見つけたら、見つからないよう直ぐに戻ってくること。交戦はしない、といってもまだ戦い方を知らないね。戦い方と言っても、大した事は無いけどね。とにかく逃げる、いいね。」
「はい。ありがとうございます。」
僕は深々と頭を下げた。
これでグラファイトと一緒に行ける。
心躍る中、ノルデン隊長は「あ、」と声を漏らした。
「そうだ。ドラゴンの背に乗ったことはあるかい?」




