表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪竜と軟弱者  作者: なが
第2部
25/35

13-2

二度目です。お気を付け下さいませ……




僕は一つ息を吐いて、檻の中へと入った。

扉を閉めると、ブレイズと目が合った。

ブレイズはどこかそわそわとして落ち着いていない、ような気がした。


「グラファイト、」


「グルゥ……」


顔を地面に伏せたまま、僕の方をじっと睨みつけて唸っている。

僕はグラファイトの元まで歩み寄った。


「今日は、どうしても会って欲しい人が居るんだ。」


「我に何の用だ。」


「誤解を解いてもらおうと思って。」


檻の外にいるブレイズを一瞥した。ブレイズは頷いて、アルドを呼んだ。


「な、……」


檻の向こうに現れたアルドに、グラファイトは眼を大きく見開いた。

しばらく見据えた後には、それは殺気の籠もったものに変わった。


「何故連れてきたのだ!」


グラファイトは頭で僕を投げ払った。

腹部と背中に鈍い痛みが走る。遠くで息をのむ音が耳に入ってきた。


「グラファイトに、アルドのことを誤解したままで居て欲しくないんだ、本当のことを知って欲しいんだ!」


痛みに負けじと、僕も大声を出した。

僕を脅そうとし身構えていたグラファイトが、一歩退いた。


「本当は、アルドは、グラファイトのことを捨てたくて見捨てたんじゃない。せめて話だけでも聞いて。」


僕はただ、グラファイトをじっと見つめて言った。

アルドは檻の外から、心配そうに身を乗り出すようにして見ていた。


「裏切り者とは話さぬ。」


「本気で言ってるの?本気で、アルドが裏切り者だったと言ってるの?」


「な……、何故お前は、いつも余計なことをするのだ。」


グラファイトは一瞬、言葉を呑み込んだ。僕は何だか、哀しくなった。

痛む体に何とか、前へ進めと命令した。


「僕は、本当のグラファイトに戻って欲しいんだ。アルドと接していた時のように、……。」


僕はグラファイトの前に立ち上がり、その顔を撫でた。

グラファイトはゆっくりと眼を閉じ、そして、かっと見開いた。


「貴様に我の何が分かる!」


また顔で、今度はもっと強く体を押され、そして地面に転がった僕の腹の上に前脚が振り下ろされた。


「うぐぁっ」


あまりの痛みに声を漏らしたその時、「待て」というブレイズの声がして、ガシャガシャと檻の揺れる音がした。

まさか……




「ラグルを殺すのなら、代わりに僕を殺せ。」



僕のすぐ隣で、アルドがグラファイトと向き合っていたのだ。

アルドと違って、僕は震えていた。


「駄目……、離れて……」


「僕のこと、恨んでいたんだろう。その怒りを、ぶつけてくれよ。」


アルドを見上げると、その目から涙が、今にも滴りそうだった。


「……良いだろう。」


「駄目、駄目だ。グラファイト、止めて、」


譫言のように言葉を連ねた。

このままでは駄目だ、グラファイトを止めないと……

それでも、僕の体は、じんじんと責め立てる痛みと、グラファイトの前脚のせい動かすことが出来なかった。

僕はただうんうんと唸っているばかりだった。


「止めぬ。」


グラファイトは僕の上に載せていた前脚をどけて、アルドを押さえつけた。


「うぁっ」


アルドは呻いた。僕は咄嗟に「止めて」と口にしたが、無駄だった。


「我はこ奴に誑かされたのだ。我の全てが狂ったのは、こ奴のせいなのだ!」


グラファイトは、叫んだ。

僕は胸をぐっと掴まれたように、苦しくなった。


「でも、アルドを、殺しても、何も、変わらないよ……。」


「お前には、我の気持ちは分からぬ!分かってたまるか!」


グラファイトは牙を剥き出し、アルドの体を強く押さえつけた。

これ以上僕が何か言えば、グラファイトはもっとアルドを虐めるだろう、何も出来ずに、僕は黙ってしまった。


「貴様は、我を何年も痛めつけた。」


僕は何か言おうとして、唇をぐっと噛んだ。結局、何も出てこない。

何も出来ないことが苦しい。


「そうだ、僕は……僕は、グラファイトのこと、今までずっと痛めつけた。」


それは違う、と叫びたかった。

グラファイトは、グルァッ、と吼えた。

アルドはただ黙って、グラファイトのことを見つめていた。怖くないのかな……

ふいにグラファイトは、唾液でぬらついた舌を出し、そして右から左へと嘗めずった。


僕の体は固まった。


「グラ……ファイト……正気?」


思わず呟いた。

と同時に、グラファイトは悪魔よりも邪悪な、禍々しい笑みを浮かべた。


「クク……いただきます。」


グラファイトはそう言うと、グバァ、と音を立てて上顎を持ち上げた。

アルドは怯えることなく、じっとしていた。僕の体は震えていた。


「どうして……、」


僕には何もかもが理解できなかった。

その間に、グラファイトは眼を細め、そして目の前の獲物に勢いよく食らいついたのだ。


アルドもグラファイトも、何も声を発しなかった。

ただ、唾液をすする音だけが、部屋の中を響いている。

僕は震える手をグラファイトへ伸ばした。

それをちらとみたグラファイトは、鼻で笑った。


そしてとうとう、グラファイトは首を擡げた。

僕は何をしようとしているか、分かっていた。でも、信じたくない。


ングッ……



僕は今まで、グラファイトに嫌悪感を覚えたことはない。

でも、今回は、違った。

怒りに似た何かが、僕の中で湧いてきた。

それをぐっと堪えようとした。でもグラファイトは悪魔だ、いや、悪魔よりも酷い怪物だ。

僕達を易々と喰い殺すに違いない、違いないんだ。じりじりと後ずさった。


「どうした、我に怖じ気付いたか。」


最後の見せしめに一つ舌なめずりをすると、口の端を緩ませて邪悪な笑みを浮かべて僕を見下す。


「……どうして、どうしてそんな酷いことをするの、酷いことが出来るの?」


「おっと、溶け始めたぞ。ククッ」


微かに、アルドの呻き声が聞こえてしまった。思わず耳を塞いだ。

腹の方を恐る恐る見てみると、腹が動いている。3度揺れて、1度揺れて、2度揺れて、……それから、揺れは消えてしまった。

グラファイトは口元を緩ませた。

命が一つ尽きたのだ、と気付かされると途端に恐ろしくなった。


「さて、奴は我の栄養になってしまったな。クククッ……」


グラファイトは笑みを浮かべて、僕をじっと睨みつける。

僕はいつからか、涙をこぼしていた。


「酷いよ、裏切りたくて裏切ったんじゃないのに、どうしてそんな仕打ちをするの。僕には分からないよ。」


僕はグラファイトの顔を見ずに、体が震えながらもそう呟いた。


「酷い?何が酷いというのだ。」


体の芯まで轟くようなおぞましい言葉に、僕は言葉を失った。

どうしてそんな言葉を口に出来るのか、分からない。


いや、僕は分かってしまった。


「……邪竜、」


「む?」


「……グラファイトは、邪竜だ。ジグリオス国のみんなが言ってた通りだよ。人間のことを見下して、餌としか思ってないんだろう。」


グラファイトは、何も言わなかった。

口元は笑っているものの、じっと僕を見据えて動かない。


「何も返せない、図星なんだろう。そりゃ僕がグラファイトのことを分かろうとしても、何も分からないよ。だって、ただの邪竜なんだからな。僕だってお前の気持ちなんか、分かりたくない。」


そう言った自分に悲しくなった。

グラファイトは僕の悲痛な叫びを聞いている途中でも、何一つ、反省の色さえ見せない。


「やっと分かったのか、軟弱者。」


僕はその一言で会話する気力を失った。

ゆっくりと立ち上がって、グラファイトを背にした。

そして、倒れそうになりながら、とぼとぼと外へ向かって歩き出した。


「ラグル……」


ずっと外で見ていたブレイズが、声を掛けてきた。

ブレイズの側には、さっきまでアルドが使っていたゴーグルが転がっていた。何だよ、と口にしていた。


「ブレイズだって、アルドを止めてたら、……」


そんな言葉を呟きながら、僕は檻の間の外へ、ふらふらと歩いていった。





「ラグル、お前……!」


「ギル……ベル……ト……」


ギルベルトが視界に入って、僕の意識が途絶えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ