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邪竜と軟弱者  作者: なが
第2部
26/35

14-1






……


目が覚めた。もう見慣れた、白い天井。

僕が気付いたときには、アルドの死から1週間が経っていた。


「アルドのことは気にするなと言っただろう。どうして“檻の間”に連れて行ったんだ!」


ギルベルトの声だ。

僕は目を合わせないように天井を見ていた。

あそこの部屋は“檻の間”と呼ばれているんだ、ということだけを無理矢理何度も納得していた。それ以外に何も考えたくなかった。


「お前のせいで、お前の軽率な行動のせいで……アルドは死んだんだ。」


ギルベルトは重々しく言った。胸を直接握りしめられた心地がした。


「こんな事になるなんて、思ってもみなかったんだ。グラファイトが、アルドのことを許せないなんて、僕には理解できない。」


「……お前はグラファイトのことを、全く理解していない。お前はまだまだ未熟者だ。」


「理解って、何だよ。あんな邪竜をどうやって理解しろって?」


自分をくしゃくしゃに丸めて棄ててしまった。

それでも良かった。僕は邪竜に裏切られたんだ。

こんな分かりやすい罠に騙されるなんて、僕は本当に未熟者だ。


ギルベルトが僕の視界に現れた。


パチンッ!


右頬が痛んだ。ギルベルトが右頬を力一杯打ったのだ、と分かった。

僕は思わずギルベルトを睨もうとしたが、その顔を見た途端、どうしても、睨めなくなった。

ギルベルトの目から、涙が滴っていたのだ。

嗚咽もなく、泣き叫ぶことも無く、ただ声も出さずに、双筋ふたすじだけが流れていた。

ギルベルトは一度だけ肩で息をして、くるりと後ろを向いて、そのまま走り去っていってしまった。

僕はただ、何も言えずに、ガンと勢いよく音を立てて閉じた扉を見つめた。



胸の骨に少しひびが入っていた、というのを後から聞いて、恐ろしくなった。

グラファイトのおぞましい笑みが脳裏を掠めた。

僕は必死で振り払おうとした。でも、その笑みは、いつしか柔和なものにすり替わって、追い返せずにいた。

何故なのだろうか。

その問いから逃げ出そうと、何か他にする事を探した。

暇のままでは、またグラファイトのことをぐるぐる思い出さなければならない。


「あ、」


そうだった、ノルデン隊長のことを思い出した。

カーバイト符号でも覚えよう。

僕は紙を広げて、『・』と『―』で書かれた符号を覚えようとした。

しかし、ただ単に覚えようとしただけじゃあ、全く頭に入らなかった。

28種類といっても、符号がどれもこれも似たようなものばかりなせいで、どれがどれだか分からなくなる。


「あぁ、もう……。」


早々と紙をポケットにしまった。頭が痛い。

とりあえず、寝ることにした。寝ている時間が一番幸せだと思い始めていた。














何も考えないように過ごして一週間弱、誰も見舞いに来ず、僕はただただ、ぼーっとしているばかりだった。

何も考えたくない、何も考えない方が幸せだと思っていた。


「失礼するよ。」


声が聞こえてきた。僕は慌てて上半身を起こした。


「おっと、無理しなくても大丈夫。」


ノルデン隊長だったのだ。僕は頭を下げた。


「体の調子はどうかね。」


「はい、何とか……。」


ノルデン隊長はベッドの側の椅子に腰掛けた。


「カーバイト符号はもう覚えたかね?」


「いや、まだです……。」


「急がなくても良い、こんな状況だからね。それと、覚え方のコツと言ったらいいのか分からないけど、よく使う単語は簡単に表されているから、そういった言葉の配列から覚えるといいね。私はそうして覚えたからね。」


「そうなんですね。教えてくれて、ありがとうございます。」


そういえば、と思い出した。


「隊長、他の隊員たちは出払ってるっていってましたよね。もしかしてどこかへ戦いに行っているのですか?隊長は行かなくて良かったのですか?」


「そうか、ジグリオス国とは仕組みが違ったね。私どもの国では、隊長と隊員の一組以上は残らなければならないんだ。」


「それは……、此処を攻められたときの対策ですか?」


「そう。そして遠征先では、副隊長が指揮を執る。」


「なるほど……。」


「ジグリオス国でいう長官の立場は、こちらでは将軍と呼ばれる。それぞれの隊における隊長を統帥している。」


「あの、その“隊”というのは、いくつぐらい有るのですか?」


「あぁ、それは、竜騎隊が1、陸軍隊が45、海軍隊が19だ。海軍隊は海沿いの軍基地にいるから、関わりは少ない。」


「ドラゴンは何頭居るのですか?」


「グラファイトを含めると、7頭だね。ジグリオス国は6頭。グラファイトが相手国の手に渡れば、不利な状況になる。」


グラファイト、という単語を聞いて、僕はぴくりと反応した。


「そうなんですね……」


「おっと、不安を煽るつもりは無いよ。ごめんね。」


「あ、いえいえ、……」


本質とは違っていたが、とりあえず相槌を打っていた。


「ところで、隊長にはバディが居ないんですか?」


「ああ、それは……」


隊長は言葉を濁して、口元に力を込めていた。

まずいことを聞いてしまったみたいだ。


「ああ、ごめんなさい。」


「いやいや、良いんだ。……おっと、もうこんな時間か。機会があれば話そう。私はこれで、お大事に。」


ノルデン隊長はさっと立ち上がると、会釈をして歩き去ってしまった。

僕はまた元のように、体を横たえた。



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