12-2
数分して、グールは戻ってきた。
「大丈夫だってさ。」
そう言ったグールの陰から、一人の男が姿を現した。
「初めまして、アルドです。」
ブレイズの言ったことが、納得できた。
青年アルドは、背も顔も体格も、僕とよく似ていたのだ。
鏡に映ったような一致ではないのだが、その雰囲気が、僕と似ていた。
もしかしたら、グラファイトやグールと初めて会ったとき、僕のことをアルドだと思って、驚いていたのかも知れない。
「あ、初めまして、ラグルです。」
「君のことはグールから聞いていたよ。ジグリオス国でグラファイトの世話をしてくれていたんだね。」
「はい。」
僕は少し緊張して言った。
「あの、それで、いくつか聞きたいことが……。」
その途端、やはりアルドは表情が強ばったのが見えた。
「嫌なことを思い出させて、ごめんなさい。でも、僕は知りたいんです。」
「分かってる。そのつもりで、あなたに会ったのだから。とりあえず、家の中へどうぞ。」
昔から空き家だった古民家だそうだ。
木造の平屋建てで、なかなかエキゾチックで風流な家だ。
中もきっちりと整理されていて、いや、何だかあまりに整頓されすぎているような気もする。気のせいか。
「どうぞ、そこの縁側で座って待っていてください。」
「はい。」
やはり、グラファイトを裏切れるような人じゃない、というのは痛いほど分かった。
何か理由があったのだ、と確信した。
ふと縁側の外を見ると、グールとブレイズが庭で伏せていた。
「あ、そうだ。グール、どうしてアルドのことを知ってたの?」
「ん?ああ、お前と同じだ。襲おうとしたら、ブレイズがどうとかこうとか言うから、話を聞いたのが始まりだ。」
「そうなんだ。」
アルドは冷えた麦茶を持ってきた。
「飲みながら話そう。」
僕は頷いた。
そして、話を切り出した。
「僕は、アルドがお金欲しさにグラファイトを売ったと聞いたんだ。けど僕には、そうは思わない。」
「どうして分かるんだい。」
「……勘かな。」
麦茶を一口飲んだ。冷たくて、体に染み渡る感覚がした。
「面白いね、勘だけでここまで来たのかい?」
「う……そうだけど、でも、パートナーなら……あ、バディなら、グラファイトを酷い目に遭わせたいなんて、普通は思わないよ。何か理由があったんだと思った。本当のことを知りたいんだ。」
アルドは一つ溜息を吐くと、僕の顔をじっと見つめ始めた。
どんな話が来るのかと、固唾を飲んで見据えた。
「分かった。
……本当は、ジグリオス国は金だけを要求してきたんじゃ無かった。両親の命と引き替えだった。」
僕はその一瞬、呼吸の仕方を忘れた。
やっぱり、アルドはグラファイトのことを捨ててなんていなかった。
「ほ、本当なの? どうして言わなかったの? 言ってたら、グラファイトだって……。」
「僕だってそうしたかったさ!……でも、ノルデン隊長が、グラファイトには本当のことを言うな、って命令されて……。」
「どうして?」
「……それが、最善策だったんだ。」
僕は首を傾げた。
「もしグラファイトがジグリオス国に従ってしまったら、ラスヴァル国はかなり不利になる。グラファイトはとても強いから。」
「他に、……他にグラファイトが傷つかない方法は無かったの、探さなかったの?」
アルドは目を逸らし、一気に麦茶を飲み下した。
「グラファイトが連れ去られたのを知ったのも、両親が脅されていたのを知ったのも、全てグラファイトがジグリオスに連れて行かれた後だった。僕はお金で釣られていることしか知らなかったんだよ。僕ならグラファイトを敵国に送るなんて、絶対にしない。」
アルドは拳をぐっと握っていた。僕は思わず、その拳を優しく掴んだ。
僕は何とかアルドを諭そうと言葉を探したが、こういう時に限って良い言葉が見つからない。
ブレイズとグールも心配そうにアルドを見ている。
沈黙を破ったのは、ブレイズだった。
「そうだ、グラファイトとの楽しい思い出を話したらどうだい?」
「……僕も聞きたい、グラファイトって、やっぱり昔は優しかったの? そうだ、出会った時はどんな感じだったの?」
僕は明るく繕った。アルドも無理に笑いかけた。
「……元々グラファイトは、軍の中にいた訳じゃなくて、森の中で傷ついていたのを僕が看病してあげたんだ。」
「そうだったんだ。」
「グラファイトは最初、看病するのを嫌がっていたんだけど、強引に傷の手当てをして、何度も通ってたら心を開いてくれたんだ。」
「最初から心を開いていたわけじゃないの?」
アルドは肯いた。
アルドは残っていた麦茶を一気に飲み干した。
「うん。グラファイトには、大きなプライドがあったのだろうね。」
「プライド……。」
「元々は人間を見下していたのだと思う。といっても、ただの餌と思っていたぐらいじゃないかな。憎んだり、そういう感じじゃ無かったし。」
「そうだったのか……」
「ところで、今のグラファイトはどんな様子なの?噂に聞いた通り……?」
「うん、まぁ、そうなんだ。……あれ、グールは?」
ふと庭を見回すと、ブレイズのみになっていた。いつの間に……
「狩りに出かけた。気にしなくていい。」
ブレイズが頭を掻きながら言った。
「と、じゃあ、とりあえず、昼ご飯にしませんか?」
「じゃあ、昼ご飯の間に、今までのことを話すよ。」
台所の方へ歩いていくアルドの後を追いかけていった。




