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邪竜と軟弱者  作者: なが
第2部
17/35

9-2





気付くと吐き出され、仰向けに寝ていた。

空高く、コンクリートの天井が見える。

ひんやりした地面、これまたコンクリートの上で、僕はしばらくぼーっとしていた。

ブレイズが「着いたぞ。」と呼びかけたのをきっかけに、僕は上半身を起こした。


「左の檻だ。」


グラファイトは、と急いで左に向くと、そこには、眼を見開いて僕を見据えている、黒竜がいた。


「グラファイト!」


僕は思わず立ち上がり、そしてグラファイトの居る檻にしがみついた。

グラファイトはすぐに眼を逸らす。


「何故此処に来た。」


「誤解を解いて欲しいんだ。僕は――」


「黙れ! ……我は戯言など、聞きたくなど無い。」


グラファイトは唸って僕を睨みつけた。

唾液にまみれた体のまま、僕は立ち上がってグラファイトの元へ歩き始めた。


「確かに危険手当が出るけど、それは目的じゃないよ。僕は、僕はずっとグラファイトのことを思って……だからここに来たんだ。お金の為なんかじゃない、僕はずっとグラファイトのことを……。」


グラファイトの眼が揺れた。


「グラファイト、許してやったらどうなんだ。」


後ろからブレイズも加勢してくれた。僕は檻をがしゃがしゃと揺らした。


「我に構うなと言った筈だ。」


グラファイトは僕を睨みつけて、すぐに背を向けた。


「……。」


僕が何か言おうとして黙っていたその時、どたどたと音が聞こえてきた。

はっと扉の方を見ると、重厚な扉がギギギと音を立てて開いた。

まずい、と思って、後ずさったものの、やっとグラファイトに出会えたんだ、まだ諦めたくなかった。

そして奥から、ラスヴァル国の兵士が現れた。

僕が焦って後ずさりしている最中も、ブレイズは動揺した素振りを見せない。

まさか、こうやって僕を陥れようと画策したのか……。


「ラグル・ヴァイルトよ、」


兵の集団の奥から、一人の男が現れた。

話し方といい、肩に大きく紋章がついていたのを見て、ただの一兵士でないのはすぐに分かった。

後ろをちらと見ても、その先に扉は見当たらなかった。

僕はこのまま捕まえられて、牢屋にぶち込まれてしまうのか……。


「どうやって、ここに入ったのかね。」


「あの……その、……」


思いの外柔らかい口調に、少し驚いていた。

ブレイズの方を見ないように気をつけた。これ以上、ブレイズに迷惑はかけられない。

頭の中で適当な言い訳を探してみたものの、何も見つからなかった。


「ノルデン隊長、私がここまで連れてきました。」


僕は思わずブレイズを見上げた。

ブレイズはただ無表情でじっと隊長(とブレイズが言ったからそうなのだろう)の方を見据えていた。


「あくまで敵兵だ。それを我々の軍に連れ込むなど浅はかだ、と言いたいところだけど、我々もグラファイトの扱いには困っていてね。すっかりジグリオス国でしごかれたようで、我々にも手を着けられない状態になってしまった。ラグル・ヴァイルト、貴方はジグリオスではグラファイトの世話係だったそうだね。」


僕は恐る恐る、首をすくめて肯いた。


「グラファイトの世話をしてやってくれないかね。」


すると横でガシャンッと檻が音を立てた。

その奥でグラファイトが僕の方を睨みつけていた。


「我は人間とは関わらぬ。そう何度も言った筈だ!」


グラファイトは低く唸っていた。


「僕は、グラファイトの世話がしたいです。グラファイトの側に居させて下さい。おねがいします。」


僕は頭を下げた。ガシャンと檻が音を立てた。


「じゃあ……、よろしく。そうだ、何かあればこのギルベルト君に頼むと良い。あいにく、他の竜騎隊員は出払っているから、帰ってきたら紹介しよう。いいね。」


そう言って、隊長の後ろに立っていた男の人の肩を叩いた。

その男は無言で頭を下げた。僕も慌ててすぐに頭を下げた。






それから兵はぞろぞろと帰ってしまい、最後に残ったのはギルベルトだけだった。

ぼうぼうに生えた無精髭が目立つ、30代ぐらいの男だった。

ここではかなりのベテランなのだろう。


「私はギルベルトだ。」


「あ、ぼ僕はラグルです。よろしくお願いします……。」


「お前、ブレイズに食われたのか。」


ギルベルトの目力に引き込まれて、何も疚しいことは無いのに、何だか気後れしてしまう。


「ここまで運んでもらったときにね。」


「シャワー、浴びるか。案内する。」


「あ……」


そんな気遣いは……と言おうとした僕の手を、ギルベルトは既に引っ張っていた。

ふと後ろを振り返ると、ブレイズが苦笑いしていた。

ドラゴンが苦笑いをしていても分かるものなんだな、と、何だかおかしく思えた。



シャワーを終えると、ギルベルトはいつの間にか青いバケツを持っていた。

中を覗くと、布切れ数枚とブラシが入っていた。


「あの、これは……?」


とギルベルトに話そうとしたが、さっさと歩き始めていた。

……もしかして、僕のことを気に入っていないのかもしれない。

僕はこう見えても一応、敵国の兵なんだから。

グラファイトとブレイズの元へたどり着くまでずっと、気まずい無言だった。



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