8-2
森の中の、とある広い洞窟。
「――――その、グラファイトに会おうとして、軍の建物の前まで行ったんだ……ん?」
ようやく気分が落ち着き、これまでのいきさつを話そうとした僕の耳に、はためく翼の音が聞こえた。
何だろうと振り返って見ると、それもまた赤いドラゴンだった。
「兄さん、」
さっきまで話していた方のドラゴンがそう言った。地面に降り立ったドラゴンは、こちらへと歩み寄ってきた。
グールもブレイズもグラファイトぐらいの大きさで、広い洞窟とはいえ、少し窮屈だった。
「グール、ここに居たのか。」
「まあな。」
飛んできた方のドラゴンをよく見ると、グラファイトが去っていったあの時のドラゴンなのかもしれない。
自信は持てなかったのだけど、薄らぐ記憶の中で何となく似ていた。
「確か、グラファイトの……。」
やっぱりそうだ。間違いなくあのときのドラゴンだ。僕は肯いた。
「知ってるのか、兄さん。」
「話すのは初めてだな。確か名前は……何だったか?」
「ラグル……です……。」
僕は力なく言った。
もしかして、ラスヴァル国が僕を殺させようとしているのかもしれない、と思うと心苦しくなった。
「私の名はブレイズ。こいつは私の弟のグール。」
「あの……。」
僕は思い切って、ブレイズに向き合って訊ねた。
「僕を、どうする気……?」
ブレイズはぐっと頭を近づけると、暫く僕の顔を見据えた。
上を見上げたまま呼吸がうまくできず、首を絞められたように息苦しい。
グラファイトとは違った威圧感に、僕はたじろいでしまった。
とその時、フフン、と、ブレイズは鼻で笑った。
「私はお前を取って喰うつもりはない。グールが喰わない限り、な。」
「え、……?」
僕は思わず首を傾げた。
ブレイズは首をぐっと擡げた。
「ジオグルス国に居たときのグラファイトの様子が聞きたくてな。それに、お前のこともだ。本当にお前は、グラファイトを誑かしたのか。」
ブレイズは無表情だった。
「違う、そんな事してない、僕は、――――」
―――――
「兄貴、聞いたか?」
我は頭を擡げた。何やら、厭な予感が躯を通り抜けた。
「何をだ。」
「ラグルって奴がここに来たんだってよ。」
「何だと!」
我は身震いした。まさか、あ奴が此処に来たとは……。
奴が誑かしたというのは間違っていたのか。
ぐぬぅ……我は、我は崇高なる竜族だ。一度でも我を誑かせば、罰を受けるに値する。
だが確かに、今改めて考えると、その話を聞いたのは、最も信用ならぬ人間からだった。
……
あの集団の中の一人が、名は分からぬが、人間がやってきた。
さっきまで散々侮辱した、丸々と肥えた餌だった。ラグルが出て行く時機を見計らったようだ。
そいつは檻の向こうから話しかけてくる。
無性に檻を破壊したくなった。
「……何だ、貴様か。」
「ラグルを待っていたのか、化け物。」
「誰が人間などを……」
「だろうな、ずっとお前を騙し続けていたんだからな。」
落ち着いてその攻撃を受け止める。我にはその余裕があった。
「……では、何故奴は我を騙す必要があるのだ。」
「金のためだ。ラグルは貧しい家の出だ。だから、お前を手懐けたらお金をやろうと言ったのだ。」
我はびくりとした。金……
……そうか、金だったのか。ラグルは我を騙していたのか。
怒りを覚えた。つい先程、同じように我が騙されたことを告白したではないか、だのに奴はその我を同じ手法で陥れたなど……。
然もさも同情したかの様に振る舞いおって。
「そしたら奴は喜んで引き受けたさ。結局は奴も、アルドと同じさ。」
アルドと同じ……同じだと……
……
「お前を唆した奴、なんだよな?」
我は、認めなければならぬ気がした。と同時に、我は認めたくなどなかった。
我は分からず、ただ矜持に従って、頷いた。
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