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邪竜と軟弱者  作者: なが
第1部
11/35

6.

ちょっと注意です……





傘を閉じて建物の扉を開けたとき、何か不吉な予感が体中を駆け抜けた。

僕は慌ててグラファイトの元へと走っていった。

きっと気のせいだろうと、僕はそう思い込んだ。



「グラファイト、」


僕は檻の前まで辿り着くと、グラファイトの姿はあった。やっぱり気のせいか。

……しかし、グラファイトは何も反応しなかった。

ぴくりとも動かなかった。


「グラファイト……?」


僕は南京錠を開けて、グラファイトの元へ駆け寄ったその時、体に強い衝撃を受けて、気付くと足から地面が離れていた。

そしてそれを理解する前に、僕の体は勢いよく地面に強く叩きつけられた。


「痛っ!」


背中から落下して、頭は何とか無事だったものの、体の至る所が痛い。


「貴様……我を騙したな。」


グラファイトは確かにそう言った。僕は何を騙したのか分からない。


「な……何のこと……?」


「とぼけたふりをするな!」


グラファイトは僕を強く睥睨した。

長官に怒ったときのそれと、よく似ていた。

さっきまでは良い感じにお互いを理解し始めていた、筈だったのに……。


「貴様も結局目的は金だったのか!」


「え?」


一瞬間思考が停止したのも束の間、すぐに危険勤務手当のことだと理解した。

このタイミングということは、きっと大臣や次官らが嘘も交えて大げさに伝えたに違いない。


「今まで、この崇高な我を誑かしおって!」


「違うよ、勘違いだって!」


「勘違い?貴様はお金が欲しいのだろう、所詮は下等生物、金に溺れるのだな。やはり貴様もあいつと同じだったのだな!」


ドンッ!


グラファイトは尻尾を地面に叩きつける。その一瞬間の、僕が狼狽えた隙につけ込み、グラファイトの前脚の下敷きになってしまった。


「止め…!がぁっ……」


ぐりぐりと前脚を強く擦り付けられて、体全体が酷く痛む。

自分の体から今まで聞いたことのない、骨がギシギシと軋む音が、恐怖を後押しした。


「どうした、苦しいのなら抗ってみろ。出来るのならな!」


目の前の世界が歪んだ。

どうして僕とグラファイトはいつも擦れ違ってしまうのだろう。

声にならない声を発しながら、僕は何度も何度も僕に打ち寄せてくる痛みを、我慢した。


そして意識が朦朧としてきた頃、それを見計らってか、前脚の束縛から解放された。

解放されたと同時に、今まで以上に涙が溢れ出した。


「苦しいか、辛いか、何か言ってみたらどうなんだ。」


グラファイトは鼻息を荒々しく吐いた。


「何も言えぬか。今まで騙してきたくせに、死ぬのが怖いというのか。」


声を大にして言いたかった、悲しいって。

本当のグラファイトはこんな邪竜じゃない、僕は心の底からグラファイトのことを気にしているんだ。

それだけは、何もかも傷つけられた僕であっても、正しいと言えることだった。

するとまた前脚が迫ってきた。上手く体が動かない。視界に鋭く白い爪が映った。僕は身を硬くした。

そしてとうとう、僕の目の腕に載せられた。僕は緊張で微動だに出来ない。そして次の瞬間、鋭く白い刃物は僕を傷つけた。


「うわぁっ!」


上腕に赤い筋が入り、そこから鮮血が溢れ出した。

どうしようもなく痛い、痛い。

今まで大きな怪我をしたことがない僕にとって、その長い傷は物理的にも精神的にも僕の心を虐めた。

グラファイトは血の付いた爪を舐め、ぴちゃぴちゃと音を立てて味わっていた。

そして今度はその巨口を近づけ、そしてぬらっと妖しく輝く肉厚な舌で、その赤い筋を舐めとった。


「ひゃぁっ!」


心の準備が出来ていない中、血腥い臭いと唾液が染みて、痛みがずきずきと僕を傷つける。少しずつ流れていく血を見ていると、頭がぼーっとしてきた。

絶対的な力の差の前で、僕はもう抗うことを諦めた。


「次は足を折ってやろう。安心せい、貴様は死ぬ運命にあるのだからな。じっくりと死に追いやってやる。」


とグラファイトの手が僕の足を掴んだ、その時。


ドゴン!!

ガラガラガラッ!!


僕はすぐに何か起こったのか分からなかった。物凄い振動と音に思わず体が固まってしまう。ただ、天井に見えた穴から灰色の空が見えると、天井が崩れたのだと気付いた。


ウゥーーー!侵入者!侵入者!


遠くでサイレンが聞こえる。軍の敷地内に侵入者が来たときの放送だ。つまり、この天井を破ったのは…その侵入者。

グラファイトが見つめる先に、侵入者らは居た。


「兄貴!助けに来たぞ!」


その穴から顔を覗かせていたのは、2頭のドラゴンであった。

その明るくも力強い声の主は、そのうちの緑色の鱗に覆われたドラゴンだった。


「……遅すぎる。」


ドラゴン達は穴を広げていき、あっという間に檻の中の天井一体がめくられてしまった。


「しゃーねーだろ、……そいつは?」


さっきの緑竜が僕の方を指さして言った。上を向いているグラファイトの顔を拝むことは出来なかった。


「我を誑かした奴だ。処刑しようとしていたところだ。」


4つの鋭い眼が、穴から覗いてくる。視線は全て僕に集まった。さっきの緑竜がまた叫んだ。


「てめぇ……俺の兄貴に何をした!」


僕は違う、と叫ぼうとして、声が出なかった。代わりに冷たい雨と混じった涙が垂れてくる。


「待て。」


その声の主は、一緒にいた赤いドラゴンだった。声の重厚さは、グラファイトによく似ていた。


「おいおい、復讐の一つもさせてくれねぇのかよ。」


「……早く逃げなければ、囲まれて捕まってしまう。」


「じゃあ、こいつも一緒に――――」


「落ち着け。グラファイトの奪還が最優先だ。」


「……しゃーねーな。じゃあ兄貴、飛べるか?」


「当たり前だ。」


赤いドラゴンはじっと僕の方をじっと凝視してくる。意図はよく分からなかった。


グラファイトは翼を広げた。雨に濡れて、よりいっそう神々しく輝いて見えた。


「待って……」


僕を置いていかないで、僕はグラファイトに近づこうとしたが、グラファイトはちらりと一瞥した次の瞬間、力強く地面を蹴って、灰色の空へと飛び出していった。

それに続いて2頭のドラゴンも翼を広げて飛び立っていく。


「グラファイト……」


雨に濡れながらも、僕は穴の開いた空へ紅く染まった手を伸ばした。

行かないで、何度そう思ってもそれは声にならず、ただただ涙が溢れていた。

それは雨と混じって体を伝い、地面へと流れ落ちていく。

僕の心は虚しさで埋め尽くされていた。


どうしていつも、グラファイトとすれ違ってしまうのだろう。


僕はただ、虚空を掴み、泣いた。




「ラグル、ラグル!おい、大丈夫か!」


教官の声だ、そう思ったところで、僕の意識は途切れてしまった。

腕からは真っ紅な鮮血が血腥い臭いを残して、まだ垂れていた。








第1部終了でございますm(_ _)m

次話から第2部の始まりです!

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