08.酒
半日歩いてようやく街に着いた。
アテラスと比べて小さく、簡素な街だ。
比較的最近できた街らしく、アテラスのような城壁や検問所は無かった。
最初に宿場に行き、部屋を借りる。
二部屋借りる余裕はないので二人同室だ。
大金を持ってたら目を付けられるからと、両親には最低限のお金しか貰わなかった。
だから金銭面はなかなかにカツカツだ。
遊んでる暇などないし、今日は飯を食ったらすぐに寝…
「そんじゃぁ、アル。飲み行くぞ」
晩飯を食い、宿に戻り、床に就こうかという所でログロースが言った。
「そんな楽しむようなお金ないですよ」
「使った分は稼げばいいだろ?」
うーむ、一理ある…か?
いや、無いな。
というか、そもそも…
「そもそもですね、僕は未成年ですよ?お酒は飲めません」
「お前は飲まなくていいんだよ、ただ、話し合い手になってくれれば。それとも何だ?お前はこの可憐な少女を夜の街で一人にする気か?」
これは何を言っても無駄そうだ。
そう悟り、渋々了承しログロースと二人、夜の街に繰り出した。
¨¨¨
「あぁん?なんだ、お前。やんのかぁ、こら!」
「ちょっ、ログロースさん、落ち着いて!」
俺はログロースの腕を引っ張り、どうにか止めようとする。
酒場に着き、早速飲み始めたログロース。
相当なしゃべり上戸で、数杯のんだ後に口が止まらなくなった。
その声が余りに大きいもんだから、酒場に居た他の客が絡んできたのだ。
こんな時間に女子供がどうたらこうたら、あるあるなやつだ。
売られた喧嘩を、買わずにはいられないのがこの女。
酒のおかげで頭は回らないが口は回るもんだから、言い争いが始まって、遂には手まで出そうになっている。
「このっ、おりゃあ!」
俺の拘束を解いたログロースが右を一発、男の鼻に食らわせる。
男は赤くなった鼻を抑える。
「へっへーん、どんなもんじゃい!」
ログロースは勝ち誇ったかのような表情を浮かべる。
俺から見てもウザったいこの表情を見て、殴られた本人は黙ってはいられないだろう。
「この野郎ッ!」
男の反撃はログロースの腹部に直撃する。
反動でログロースは後ろの客のテーブルまで飛ばされる。
グロワールと同じくらいデカい男のパンチだ。
食らったら一溜りもないだろうな。
事実、ログロースは伸される一歩手前のようにフラフラとしている。
「カッチーン、ログロースちゃんもう怒っちゃったもんね」
そう言ったログロースが詠唱を始めた。
あっ、やばい。
こりゃぁ、まずい。
せめて俺一人だけでも逃げねば。
俺は店の出入口へ向かってと駆ける。
西部劇のようなそれに手を掛けた瞬間、発動した。
第六位階炎魔術…、名を爆発。
俺は手に掛けたスイングドアと共に酒場の外へと飛ばされた。
まったく、何をやっているのだ。
喧嘩にしては少々やり過ぎではないか?
大爆発でないだけマシだが。
酔っているとはいえ、そこんとこの区別はついていたようだ。
煙立ち上る店内へと入り、中の様子を伺う。
ログロースと男を含めて、客は全員伸びている。
さて、今のうちに逃げてしまうか。
「ログロースさん、起きて下さい。早くて逃げましょう」
水球をログロースの顔にかけて起こす。
「ぅん、、うん?」
どうやらまだ意識はハッキリしていないようなので、どうにか担いで店を出て逃げるように宿へ帰った。
いや、実際逃げた。
ごめんよ、神様。
もう逃げねぇって言ったのに、早速逃げてしまったよ。
¨¨¨
六歳児の朝は早い。
日の昇り始める前に宿を出る準備を整える。
昨日の夜は散々な目に遭った。
宿に着いた頃にはもうヘトヘトで、ログロースに布団を被せてさっさと寝てしまおうと思ったのだがそれができなかった。
なぜって?
「んごっ、ふぅん、ぐごぉぉぉぉ!」
隣から聞こえるこの鳴き声の所為だ。
これのおかげで一時間も寝れていない。
他の部屋にも迷惑を掛けてしまっているだろう。
「ログロースさん、もう出る時間ですよ」
だらしない格好で寝ている少女をなんとか起こす。
二日酔いの所為か、嗚咽をしながら準備をしていた。
酒なんて俺は前世でも飲まなかったが、あんなになるのにどうして飲むのだろうか?
宿を出て次の街へ向かって歩きだす。
宿を出る前に何度か吐いていたが、ログロースの顔はいまだに真っ青だ。
「体調、大丈夫ですか?」
「あぁ、全然。もうバンゼ、んぷっ」
「大丈夫ではなさそうですね…。でも今日はゆっくりできませんよ。なんたって次の街までは丸一日かかるんですから」
ログロースが何か文句を言いたげな顔をしていたが無視する。
今日のスケジュールも昨日の酒も言い出したのはログロースで、自業自得なのだ。
それに、どうせ次の街ではゆっくりするのだから今日くらいは無理をしても良いだろう。
グロワールたちから貰ったのは最低限のお金。
だから自分達でどうにか資金を得ながら旅をしなければいけない。
その関係で次の街ではどうしても数日滞在しなければいけない。
どうやって金を稼ぐかだが、そこんとこはログロースが…
「当てがあるから大丈夫だ。任せとけって!」
と言っていたので大丈夫だろう。
…大丈夫、か?
いや、まぁでもログロースは第三位階魔術師で、王宮魔導師だし。
それにグロワールだって、信頼できないやつに息子を預けようとは思わないだろう。
ふと、グロワールとの会話を思い出す。
旅について話が固まってきた頃だっただろうか。
「ログロースと二人旅か…、心配だな」
「大丈夫ですって。そんなに心配要りませんよ」
「いやぁ、でもなぁ。そうだ、俺も付いていってやろうか?」
「それでは、母様や産まれてくる弟か妹が可哀想ですよ。父様は傍に居てあげて下さい」
「うーん、そうか」
グロワールは王都に行って、魔術を習うこと自体には賛成してくれていたが、最後まで二人で旅をすることを渋っていたっけか。
王都までの距離や旅の過酷さを考えてくれていたのかと思っていたが…。
今思えばログロースと二人ということを渋っていたのかもしれない。
いや、まさかな。
そんなことを考えながら今日も歩んで行く。
ぎりぎり間に合いました。
多分明日も上げれると思います。
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