09.冒険者
なんとか日が落ちる前に街に到着した。
ここに辿り着くまでに壮大な冒険があった…訳でもなく、体調の悪いログロースに睡眠不足の俺が鞭を打ちながら、ほぼ休むことなく歩いただけであった。
さすがのログロースも遊ぶ元気はなかったのか、宿に着いたらさっさと寝てしまった。
相変わらずいびきはうるさかった。
というのが昨日の話である。
目を覚ますと太陽はすでに高いところまで昇っていた。
隣を見るとログロースが居なくなっていた。
まさか、こんな昼間から飲みに行っている訳ではないよな?
まさか…な。
身なりを整え、さて俺も街の散策へ出ようと思っていたところ、部屋の扉が開いた。
帰ってきた少女の顔を見るに酒は飲んでいないようだ。
「どこに行ってたんですか?」
「どこでもいいだろって。乙女には人に言えない秘密が一つや二つあるんですぅ」
そう言いながら自分の荷物を漁り、金属でできた板状の何かを取り出した。
「そんじゃぁ、行くぞ。付いて来い」
「行くって…、どこにです?」
「そんなの決まってんだろ」
ログロースがなにやら不適に笑った。
嫌な予感がするのは俺だけだろうか。
「金稼ぎに、だよ」
¨¨¨
連れて来られたのは、鎧やらローブやらをまとったむさ苦しい男たちがいる場所だった。
「冒険者ギルド…ですか」
「そう、今からお前は冒険者になるんだよ」
なるほど、ログロースの言っていた当てとは冒険者のことだったのか。
どうりでログロースの格好がいつもと違うわけだ。
動きやすそうな薄手で少しえっちな格好である。
だかその大部分はローブで覆われているので分かりづらい。
うーむ、なんともモドカシイ。
だが、それが良い!
「あー、このマセガキ!俺で変なこと考えてやがるな?」
「いやいやぁ、そんなこと…、なくもなくもないっていうかなんというか」
ログロースでこんなことを考えてしまうとは…、おじ専にでもなってしまったのか。
「そんなことより、パッパと冒険者登録を済ませてしまいません?」
「それもそうだな」
どうにか話を反らすことに成功し、ギルドの受付へと足を運ぶ。
そして、受付嬢へと話しかける。
「あの、すいません…」
俺に気が付いた受付嬢はニッコリと笑顔を浮かべる。
なんという美女!
ログロースとはこう、ベクトルの違う美しさだ。
「僕、どうしたのかな?」
「冒険者登録をしたくて」
「ああ、そちらのお姉さんが?」
受付嬢がログロースの方を見る。
「いや、違くて…、僕が」
「えぇ、君が?」
信じられないという反応だか、そりゃそうであろう。
最近忘れてたが、俺はまだ六歳なのだ。
こんなガキが冒険者になるって言ったって子供の戯言だと思われるだけだろう。
「あのねぇ、僕。冒険者っていうのはね、とっても危ない仕事なのよ。僕がもうちょっと大きく成って、それでも成りたいって思ったらまた来てね」
優しく諭されてしまった。
そういうことじゃないんだけどなぁ。
この体で何を言っても無駄か。
そんなときは大人を頼れば良いのである。
これは子供の特権だ。
後ろに居るログロースに目配せをする。
すると察してくれたようで、しょうがねぇな、なんて言いながら受付嬢に金属板を見せた。
するとどうだろう、
「こ、これは、大変失礼いたしました!ではこちらにお名前をご記入していただいてもよろしいでしょうか?」
受付嬢が急にペコペコしだしたではないか。
いったい何をしやがったんだ?
疑問を感じながらも指示通りに名前を書いた。
「アルバーシア…、グラハレット様ですね?」
「はい」
なんとも歯切れの悪い確認の仕方だった。
確認が終わると、少し待たされログロースも持っていた金属板を手渡された。
「そちらが冒険者資格証明書になります。そちらがあれば世界中のほぼどこでも冒険者としての活動が可能になります。ただ、無くされますと再発行に時間が掛かりますので大切に保管して下さい」
冒険者証には名前とその横にFと書いてある。
これはFランクということだろう。
「ランク制度のご説明ですが…」
「あぁ、それは俺がしておくから大丈夫」
「かしこまりました。他にご不明な点はございませんか?」
俺は首を横に振る。
「かしこまりました。それでは説明は以上とさせていただき…」
「あっ、ちょっと待って」
ログロースが受付嬢の言葉を遮る。
「俺とこいつでパーティ組むから、登録できる?」
「かしこまりました。パーティ名はどうなさりますか?」
「うーん、おいアル。お前が決めろ」
「えぇ、僕ですか?」
こういうときにだけ話を振るなよ。
急にそんなことを言われたってなぁ…。
「無難にグラハレットでいいんじゃないですか?共通の姓ですし」
「それだ!お前天才だな」
「ではそのようにご登録いたしますね。本日はこのままご依頼を受けますか?」
「いや、今日はいいや。こいつの装備とか揃えないといけないし」
そう言ってログロースはポンッと俺の頭に手を置いた。
ログロースに撫でられるのは久しぶりな気がした。
¨¨¨
色々買った後、ログロースが酒を飲みたいと言ってきた。
まぁなんとく、そう言い出すだろうと思っていたので、前回のように喧嘩をしないという条件で了承した。
「アルバーシアぁ、俺はなぁ、感動したんだよ」
「何にですか?」
今日は前回とは違って泣き上戸だった。
眼に涙を浮かべながらしゃべる姿はどこか滑稽に感じる。
「お前がよぉ、パーティ名をよぉ、グラハレットって提案してくれてよぉ、俺の名前をしっかり自分のものとしてくれてるんだって」
「それはよかったですね」
なんだこれは。
前回より全然めんどくさいじゃないか。
そうして、俺がログロースの話を軽く受け流していたところ…
「お前らさっきからうるせぇんだよ、ここは女子供が来るようなところじゃねぇ。さっさと失せろや」
デジャブを感じる。
「あぁ?なんだ、お前。やんのかぁ?」
うーむ、最悪な展開になってしまったかもしれない。
最近、ヒロインの大切さというものをヒシヒシと感じます。
未だにヒロイン枠が出ていないので、今回のログロースはちょっと女っ気を出させてやろうと思ったんですが、おじさんキャラなので難しかったです。
ついでに補足です。
ログロースの格好がいつもと違っていたのに今回依頼を受けなかったことに疑問を持つ方が多いと思います。
ログロースも最初は依頼を受ける気満々でしたが、パーティ名をグラハレットにしたことで、アルバーシアが自分を家族(同姓)として受け入れてくれた(ログロースが勝手に勘違いしている)ことが嬉し過ぎて、さっさと酒を飲みに行きたくなった、ということです。
かわいいなぁ、このやろう。




