06.歩み
ラミダの説得はなかなかに手こずったが、グロワールの協力もあり、なんとか成功した。
グロワールとラミダの年齢は前世の俺と同じくらいだ。
俺は二人を親だと完全には思えていなかった。
前世の記憶が有るとか無いとか、そういう以前に、俺はアルバーシア・アフォーレルという一人の人間で、二人の息子だ。
今回二人と話せて、父と母を知れて良かった。
二人の元を離れる前に、二人のことを知れて良かった。
前世でも両親と話をしておけばよかった。
二人は本当に俺を邪魔者だと思っていたのか、病院に来なくなったのには何か訳があったのではないか。
今となっては、もう、分からない。
何でもっと話をしなかったのだろう。
知ろうと思わなかったのだろう。
結局、病気の所為にして、周りから逃げて、親から逃げて、自分からも、生きることすらも逃げていたのは俺自身だったのだ。
きっと今世は、ずっと逃げて来た俺に与えられた、最後のチャンスだ。
もう逃げるのには飽きた。
というか、逃げる場所などもう無いのだ。
今世ではもう、何事からも逃げずに生きていくのだと、そう誓った。
¨¨¨
半年が過ぎた。
俺は今日、この家を出る。
あれから両親との仲は前よりもずっと良くなって、家を出ることの名残惜しさが前よりもずっと強くなった。
ラミダの腹も膨らんできて、弟か妹かは分からないが、成長しているのだと実感できて嬉しかった。
ただ、この子が産まれるときに俺は傍にいれない。
この子の成長を見守れないというのは、なかなかに寂しいものである。
荷物を持ち、玄関を開けると、外にはログロースが待っていた。
自分とログロースの荷物の量から、この旅の長さを、離れる距離の長さを感じる。
グロワールとラミダ、それにメイド達が見送りに出てきてくれた。
「王都に着いたら、しっかり手紙を出すんだぞ?」
「はい、父様」
「身体に気をつけていってらっしゃい。この子が産まれたら私たちからも手紙を出すから」
「はい、母様」
一方は笑顔で、もう一方は半泣きになりながら、なんとも対照的な二人だ。
ただ二人とも、俺のことを思ってくれている。
メイド達との挨拶も済ませ、ログロースのもとへ行く。
「しっかり話はできたか?」
「はい、おかげて前よりずっと仲良くなりましたよ」
「そうか。それならよかった」
ログロースの半歩後ろを付いていき、王都のある東の方向へと歩み始めた。
ここから、ようやく始まる。
何からも逃げることの無い人生がようやく始まる。
¨¨¨
「アルバーシア!お前、走るの遅ぇよ、死ぬぞ!」
「これが全力疾走だよ!六歳舐めんな!」
何からも逃げない(キリッ、なんて言っておきながら、早速俺たちは逃げている。
何からって?
ドレイクの大群からだよ!
このバカエルフがこっちの方が近いからって、危険地帯に突っ込むから!
「お前第三位階魔術師なんだろ、こんなやつらさっさと蹴散らせよ!」
「この量を一人でどうにかできる訳がないだろ!だいたい俺は非戦闘員なんだよ!」
長時間の逃亡の末、なんとか撒くことには成功したが、もうその日に移動する体力は残っていなかった。
「ハァッ、ハァッ、どうするんだよ。次の待ちまでまだあるのに、俺はもう歩けないぞ」
「ンハァッ、ハァッ、どうするって、野宿するしかないだろ」
俺は今、このログロースというやつを尊敬していない。
魔術関連以外は。
旅が始まって、まだ1ヶ月。
だが、たった1ヶ月で、週一会うようでは分からなかったコイツのダメさ具合を、身をもって知ったのである。
俺たちは基本、街から街へと移動して王都を目指している。
だがこのアホエルフは、行く待ち行く待ちで問題を起こすのだ。
主に喧嘩。
コイツは酔いやすい上に酒癖が悪い。
その癖、どの街に行っても酒場に行きやがる。
ダメな大人の尻拭いをする六歳児の身にもなって欲しいものだ。
そして、どうにか連れ帰った宿で始まるダル絡み。
聞いてもないのに語り出す武勇伝。
おまけにいびきがうるさくて隣で寝れんのだ。
寝相も悪いし。
いよいよ本当におっさんなのではないかと思っている。
だが、魔術に関しては本当に尊敬している。
一緒に旅をすることで、週一回だった授業が毎日のように行われる。
おかげで俺の魔術の腕も、アテラスにいた頃とは比べものにならない程に良くなった。
すると、魔術師ログロースの凄さというものが嫌でも分かってしまう。
この旅の中で、何人もの魔術師と会った。
だが、その誰と比べてもログロースは規格外なのだ。
魔力量や魔力コントロールなど、どれを取っても。
今日は、久しぶりに酔っていないログロースと話ができる夜だ。
「どうだったよ、アル。この1ヶ月は」
「そうだな…」
焚き火を囲んで二人で話をする。
長いようで短い、そんな1ヶ月だった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
これにて幼少編は完結となります。
次回からは道中編です。
家を出た後、旅のはじめから書くつもりです。
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