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04.生まれるよりずっと前から

 再び、あの美少女エルフが家に訪れた。


「それじゃあ、一週間の成果を見せてもらおうか」


 着いてさっそく、ログロースは口を開いた。


「では…、大気よりなる湧水よ、我が掌に集いて一つの球へとその形を変えよ」


 俺が口にしたのは水弾(ウォーターバレット)ではなく、水球(ウォーターボール)の詠唱である。

 ログロースの口角が少し上がったのが分かった。


 水球を掌に維持し、そのまま詠唱を続ける。


「清流よ、流れを束ね、彼の者を穿つ弾丸となれ、水弾(ウォーターバレット)


 球体の形状を維持していたのが、水の弾丸へと変化する。

 そして、それを放った。

 それは紛れもなく水弾(ウォーターバレット)だった。


 水弾とは水の()()()()()()()飛ばす魔術。

 水を生成する魔術ではない。

 つまり、水弾を発動する前に一度、水を生成するというプロセスを踏まないと発動させることはできない。


 前世でゲームや漫画に登場する水弾といえば、1.水を生成する、2.水の形状を弾丸状へと変化させる、3.水の弾丸を飛ばす、までがセットの魔術である。

 まさか一つ目の工程がかっ飛ばされて、二つ目から始まる魔術だとは思ってもいなかった。

 確かに水弾の説明を見れば、水を生成するなんてどこにも書いてはいない。


 水源がすぐそばにあるのなら、水を生成しなくとも発動することはできそうだが、生憎、うちの庭には水源になるようなものはなかった。


「うん、合格だ。自分の間違いに良く気が付いたな」

「ありがとうございます。ですが、ヒント無しではきっと気が付きませんでした。自分の力だけではありません」

「そんな謙遜するな!子供なんだから、褒められたら素直に喜べばいいんだよ」


 そう言ってログロースは俺の頭を撫でた。


 うちの父親とは違い、細く綺麗な指。

 やはり、黙っていれば美少女。

 そう、黙っていれば。

 口を開い瞬間、40代半ばのおじさんになる。

 側だけ見れば、天才美少女エルフ。

 ヒロインになれる器だというのに。


「ん?なんだ、その残念そうな目は」

「いえ、何でもありません。それより、水弾も習得したことですし、今日こそ魔術を教えてください!」

「いいだろう。しかし、魔術師とは茨の道。お前にこの道を通る覚悟はあるか?」


 魔術師…、確かに茨の道であろう。

 魔術について知れば知るほど、魔術の欠点というものが分かってくる。

 将来何になるかはまだわからないが、もし父親のように冒険者になるのなら、きっと剣の道を進んだ方が成功するだろう。

 別の道を選んでおけばよかったと後悔するかもしれない。


 だが、しかし、面白いと思ってしまったのだ。

 自ら調べ、自ら実行し、自ら学ぶ。

 この1ヶ月と少し、前世ではしなかった、やりたくてもできなかったこの経験を、面白いと感じてしまったのだ。

 ならば、答えは一つである。


「もちろんです。俺を魔術師にして下さい」


 わかったと、そう言いながらログロースはまた俺の頭を撫でた。

 ログロースの手がさっきよりずっと大きく感じた。


¨¨¨



 魔術を習い始めてから約三年が経過した。

 俺は六歳になっていた。


 あれからログロースには週一回、魔術を教わっている。

 この三年で分かったことといえば、俺は別に魔術の才能があるわけではないということだ。

 確かに、魔術を使い始めるのは早かった。

 ただ、スタートするのが早かったというだけで、三年間と少しで習得できたのは第八位階魔術までである。

 第八位階魔術も少し使える程度で言うなれば、ほぼ第九位階魔術師である。


 確かに同い年の中なら魔術を使える部類ではあるだろうが、それはまだ他の子供達が魔術を使っていないだけであろう。

 成長曲線的に考えればいずれ追い付かれる。


 人生は物語のようにいかないものだな。

 いや、それは生まれるよりずっと前から分かっていたはずだろう?

 才能が有るとか無いとか関係なく、俺は今世を楽しむのだ。


 そんなある日のことである。

 その日の授業が終わり、ログロースが帰る支度をしているとき、彼女は突拍子もないことを口にした。


「なぁ、アル。お前、俺と一緒に住む気はないか?」

「…は?」


 俺としたことが、あまりに急に言われたために、敬意を欠いた返答をしてしまった。

 急に何を言い出すのかと思えば、プロポーズとは。

 さすが、おっさん。

 ロマンチックの欠片も無い。


「いやぁ、な。実は俺、もうすぐ王都に帰らないといけないんだよ。こっちでの仕事も、もうすぐ終わるし。そしたらよぉ、なかなか見れなくなるだろ?お前の面倒。俺もそろそろ助手が欲しいって思ってたところだし」


 あぁ、なんだ。

 そういうことか。

 ここ、アテラスの街は王都から馬で往復3ヶ月掛かる距離だ。

 確かにそう簡単には会えなくなる。

 ただ、俺はまだ六歳のガキだ。

 こういうことを一人で決めて良い歳ではない。

 付いていけば両親とはそう会えなくなる。

 一生会えないという訳ではないにしても、二つ返事で了承してくれるわけがない。


「そうですね…、少し時間をください。両親と話をします」

「俺が発つまであと半年くらいはある。ゆっくりでいいから、しっかり話せ」


 そう言ってログロースは荷物を持って立ち上がる。

 うちの敷地を出ようとする直前、振り返り口を開いた。


「最後に一つだけ。グロワール達の元に残るか、俺と一緒に来るか、お前がそうしたいと思った方を選べよ。周りには流されるな。親にも、もちろん俺にも」


 それだけを言って去っていった。

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