03.勘違い
グロワールが魔術師を一人連れてきた。
「紹介しよう。第三位階魔術師で王宮魔導師のログロース・グラハレットだ」
グロワールが連れてきたのは少し小柄な美少女だった。
第三位階魔術師、つまり第三位階魔術まで使用可能ということだ。
魔術は初級から第一位階までの十の階級に分けられている。
魔術において第五位階から先は才能の世界だと言われている。
魔導師とは魔術史や魔法陣の研究、新たな魔術の考案などを行う前世で言うところの研究者である。
そして、王宮魔導師ということは、国にその研究結果や価値が認められているということだ。
つまり何が言いたいのかというと、この美少女は天才だということだ。
はて、グロワールはどこでこんな天才と知り合ったのだろう。
「おめぇがグロワールのガキか、よろしくな」
「アルバーシア・アフォーレルです。よ、よろしくお願いします」
見た目にはそぐわない乱暴な口調に違和感を覚える。
「そんなちっこいのに挨拶できるなんて、偉いな」
ログロースはガハハと笑いながら俺の頭をワシャワシャと撫でる。
その所作は少女というよりおっさんのそれである。
ふと耳元をみると通常のそれより細長くなっているのがわかる。
先端の尖った長耳。
ファンタジー世界ではお決まりな種族、エルフだろうか?
「あの、ログロースさんは、エルフなんですか?」
そう聞くとよくわかったな、ともう一度頭を撫でられた。
「グロワールには借りがあるからな。特別にこの俺が面倒をみてやる」
オレっ娘おっさん系天才美少女エルフか…、属性盛りすぎだな!
¨¨¨
挨拶はほどほどに、早速魔術をみてもらうことになった。
一番得意な魔術を見せろと言われたので水球を出す。
まぁ、一つしか魔術は使えないんだけどね。
水球を出し、大きさ、形状を変化させていく。
「ほう、これはなかなか。他のも見せてくれないか?」
「えっと、それは…」
ログロースにことの経緯を説明する。
ログロースはふんふんと頷いたあと、試しに見せてみろと言っきた。
「清流よ、流れを束ね、彼の者を穿つ弾丸となれ、水弾」
やはり、使えない。
詠唱は間違えていないし何が駄目なのか。
ログロースを見るとゲラゲラ笑っていた。
確かに水弾は初級魔術であるし、第三位階の彼女からみればそれが使用できない俺は滑稽だろう。
俺がムッとしていることに気づいたのか、ログロースは笑うのをやめ、すまんすまんと軽く謝罪した。
「うーん、そうだなぁ。それじゃぁ、水弾を来週までにできるようにする事。それを宿題にする」
そう言うと荷物を持って立ち上がる。
「んじゃ、来週また来るから」
「待ってください!」
俺の呼び止めに彼女は振り返る。
「教えてくれるんじゃないんですか?」
当然の疑問である。
そもそもそのために雇ったのだから。
「教えるだけが教育じゃねーの。まぁでも、ヒントをやろう。お前は水弾って魔術を勘違いしてるぜ。もっかい魔術書をよく読みな」
そう言うと今度そこ本当に帰っていってしまった。
¨¨¨
俺はログロースに言われた言葉を再び思い起こす。
水弾を勘違いしている、とはどういうことだろか。
魔術書を開き魔術について一から読み直すことにした。
魔力魔術、精霊魔術についての記述、魔法陣、詠唱についての記述、そして水魔法についての記述。
・水球:水の球体を生成する魔術。魔力コントロールにより大きさ、形状を変化させることができる。
・水弾:水を弾丸状に変化させ飛ばすことができる魔術。魔力コントロールにより速度、威力をコントロールすることができる。
こんなところだろうか。
今さら読み返して意味があるのだろうか?
ゲームのように何度も読み返せば書いてある文字が変わる、なんてことはないだろうし。
これまでも何度も読み返して詠唱の差違を確認した。
しかし何度見ても間違えを発見できない。
詠唱では駄目なのかと魔法陣を使ってみたこともあったがやはり発生することはなかった。
もう一度魔術書に目を向ける。
はて、俺は何を勘違いしているというのだろうか。
なぜ水球は使用可能で水弾は不可能なのか。
その二つの違いはなんだ?
水球は文字通り、水の球体を生成する魔術で、水弾は水の弾丸を生成して飛ばす魔術…
どちらも同じく水を生成しているはずだ。
なぜ水弾のときは生成できないのか。
深く考え込んだ後、もう一度だけ魔術書に目を向ける。
水球は水の球体を生成して、水弾は水の弾丸を生成して飛ばす…
否。
水弾の説明はそうではなかった。
なんだ、そんなことか。
確かに俺は水弾について勘違いしていた。
前世の記憶があることでそのままの意味で魔術書を読めていなかった。
一度の経験だけで前世の記憶が何にでも役に立つと勝手に決め付けていたのかもしれない。
今思えばログロースが俺を笑ったのも納得できる。
玉の入っていないピストルの引き金を引いて、打てません困ってますと言っているようなものだ。
俺は自室の窓から魔術を一発外へと放つ。
それは紛れもなく水弾である。
さっきまでの自分を思い返すと笑けてくる。
「ンフッ、フフフ。フヒヒヒ!」
真夜中の家に俺の笑い声だけが響いた。
さて、宿題も終わったことだし、予習にでも取りかかりましょうか。




