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【完結】底辺ハンター、狩人の大精霊に気に入られる 〜万年G級のおっさんが、魔物を喰らって最強のS級ハンターへ成り上がる〜  作者: 藤枝止木
2章 ハンター、都会へ行く

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第76話 ハンター、獄炎の支配者と戦う(6)


「レイ…… すまないが、また指揮を頼めるか? 俺が出たら、残りの護符と魔力を全て使って防御体勢に入ってくれ。

 そしてもし俺が戻らなかったら、みんなを連れて前の階層に退避を」


 俺の言葉に、レイ氏が驚いた表情でこちらを向いた。


「カリヤマ。あなた、今度は一体何をする気ですの……!?」


「え…… ま、待って師匠! 危ないことするの……!?」


「カリヤマさん、ご武運を……!」


「すまん、トモミン……! ノルフィナ、行ってくる!」


 二人にそう言い残し、俺は一人で岩場から飛び出した。

 周囲を満たしていたマグマが干上がったことで、ボス階層の景色は一変した。

 俺の目の前には、小さな岩山が無数に点在する、広大な渓谷(けいこく)のような地形が広がっている。

 俺達が足場にしていた岩場は、その小さな岩山の頂上部分だったのだ。


 目標、インフェルノ・ラーヴァドラゴンは、その谷底でとぐろを巻いている。

 落ち着かない様子で谷底に目を落とし、こちらには全く意識を向けていない。

 まだマグマが干上がったショックから立ち直っていないようだ。

 やはり今こそ、奴を倒す最大にして最後のチャンス……! 絶対に無駄に出来ない!


 点在する岩山を蹴って距離を詰めていくと、奴はようやく俺の接近に気づいた。

 お前がこれをやったのか。絶対に許さん。

 そんな幻聴が聞こえた後、奴は激怒の表情と共に尾を振るった。


「ギュァァァァッ!」


 ドパァンッ! 


 途方もない質量を持つ長大なマグマの尾。それが鞭のようにうねり、音速を超える速度で襲いかかってくる。

 俺は咄嗟に岩場を蹴り、奴の尾を潜るように避けた。

 

「あぅっ……!?」


 背中に走った痛みに声が漏れる。

 みんなのいる岩場を飛び出す際に、耐熱防御魔法は起動してある。

 加えてかなり大袈裟に避けたはずなのに、奴の尾と一瞬すれ違っただけで火傷してしまったらしい。

 

 ドガッ!


 轟音に背後を振り返ると、奴の尾が岩山を粉砕したのが見えた。

 粉々になった岩石が、さらに奴の高温によって溶解し、マグマの雨となって谷底に降り注ぐ。

 --あれの直撃を受けたら即死だろう。痛む背中に冷や汗が滲んだ。


「ギュァ! ギュァァァァッ!」


 奴は苛立った咆哮を上げながら、何度も俺に尾を振るった。

 俺は全身に火傷を負いながらそれを(かわ)し、確実に距離を詰めていく。


「よし、十分だ……!」


 そして奴と俺との距離は、もう数十mにまで縮まっていた。

 俺はノルフィナから託されたダガーを握り締め、奴の巨大な頭部に向かって跳んだ。

 間合いがさらに詰まり、奴から放射される強烈な輻射熱が俺の全身を苛む。


「グルッ……!? コォォォッ……!」


 眼前に飛び込んできた俺に対し、奴は巨大な口を開き、眩いばかりの魔力光を発し始めた。

 ブレスの予備動作……! 今発射されたら、俺の体は塵一つ残さずに焼失する。

 だが、大口を開けてくれたのは好都合だ!


 ジジジッ…… ボッ!


 その時、灼熱感が限界を超え、俺の体が発火した。

 身体中に耐え難い痛みが走り、肌が引き攣る。


「ぐっ…… おぉぉぉぉっ!!」


 炎に歪む視界の先、ブレス発射直前の奴の口めがけ、俺はダガーを投擲した。

 圧縮された時間の中、ダガーが奴の口内に入り、赤熱化しながらさらに奥へと飛んでいく。

 あと数秒もすれば、内部のルーン回路ごと溶解してしまうだろう。

 だが、それだけあれば十分だ。


解放(ラース)!』


 --ドバッ!


 ダガーに封じられていた魔法が発動し、刀身から鉄砲水のような勢いで水流が迸る。

 ノルフィナがダガーに込めてくれたのは、ただ水を生成するという最も初歩的な魔法だった。ただ、彼女はそれに残りの全魔力を使った。

 凄まじい高温を誇るボスの体内に、突如出現した大量の水。

 一瞬にして沸点を超えたそれは、その膨大な体積をさらに爆発的に膨張させた。


 ドッーー


 視界が白く染まり、凄まじい轟音に聴覚がいかれる。

 そして体がバラバラになりそうな衝撃を感じたところで、俺の意識は途切れた。






***






 --ペロペロペロペロ……


 顔に濡れた感触を感じ、俺は目を開けた。


「キューン…… ワフ……!? ワンワン!」


 すると、嬉しそうなシロの顔が視界いっぱいに広がった。

 背中にゴツゴツとした岩場の感触を感じながら、俺は彼の頭を撫でた。


「あぁ、シロ…… おはよう、もう朝か…… ん……? みんなは!? ボスは!?」


 直前の記憶が蘇り、慌てて体を起こす。

 すると俺の周りには、討伐隊のみんなが集まっていた。欠けた顔は無く、全員がほっとした表情をしている。

 その事に俺も安堵の息を吐く。どうやらここは、みんなが足場にしていた最初の岩場らしい。


「安心なさぁい。ほら、あれを」

 

 一人だけ憮然とした表情のレイ氏が、岩場の外を指差す。

 そちらに視線を向けると、ちょうどボスが居たあたりに、直径数百mはありそうな巨大なクレーターができていた。

 周囲を見回しても、ボス本人の姿は無い。この階層に満ちていた殺気や威圧感も消失している。

 さらにクレーターの中心付近に目を凝らすと、バランスボールほどもある真紅の宝石が転がっていて、周囲には鱗やら肉片らしきものも散らばっている、

 巨大な魔石にドロップ品…… ということは……! 俺が期待を込めてレイ氏の方を振り返ると、彼女はやはり不機嫌そうに頷いた。


「ええ、あなたはやり遂げたんですわぁ。わたくしに面倒を押し付けて、一人で危ない橋を渡って、ね……」


「うっ…… す、すまない…… その、一応その後のことを聞かせてくれないか?」


「ふん…… よろしくってよ。あなたが岩場を飛び出した後、わたくしたちは指示通り防御を固めておりましたわぁ。

 で、あなたが火だるまになった直後、ボスが内側から弾けるように爆発しましたの。

 幸いこちらに被害はありませんでしたけど、あれを見て分かる通り、凄まじい爆発でしたわぁ……」


 レイ氏がクレーターに目をやりながらしみじみと語る。

 そこへ、ヘルメスが興奮気味に身を乗り出してきた。


「ノルフィナさんから聞きましたよ! ボスの超高温を逆手に取って、内側から水蒸気爆発で吹き飛ばすなんて……! 素晴らしい発想! 素晴らしい胆力です!

 でも同時に、とても危険な方法でしたね…… 爆風に吹き飛ばされたあなたを回収した時、本当にひどい状態だったんですよ?

 シロちゃんがいなかったら、とても助からなかったでしょう」


「そうか…… シロ、いつもありがとうな」


「ワオン!」

 

 シロのふわふわの毛並みを撫でていると、俺の中にじわじわと勝利の実感が湧き上がって来た。


「つまり、俺達は倒せたんだな…… 炎獄(えんごく)(ぬし)、インフェルノ・ラーヴァドラゴンを……!」


 俺が噛み締めるように言うと、ベンケイとキンジが大きく頷いた。


「うむ……! まさにあっぱれ! 流石はカリヤマ殿だ」


「だなー。火だるまからの爆発落ち…… 見せてもらったぜ、お前さんの芸人魂をよぉ……!」


「い、いや。決してウケを狙ったわけでは無いんだが……」


 キンジのズレた発言に、小さな笑いが起きる。

 すると、トモミンがぶつかるように抱きついてきた。


「うー……! 師匠! もう、馬鹿師匠! 死んじゃったかと思ったじゃーん!」


「トモミン、ろくに説明せずに飛び出してしまって悪かった。だが、あの機を逃すわけにはいかなかったんだ……」


「グスッ、分かってるけどさぁ…… 視聴者さん達も、すっごい心配してたんだよ?

 あ。コメントがたくさん! みんな、師匠のことをちょー褒めてくれてるよ!」


 トモミンが、自身のスマートグラスを指しながら教えてくれた。

 俺が装着していたものは、先ほどの爆発で吹き飛んでしまったようだ。 


「ああ、視聴者のみんなもありがとう。この通りボロボロだが、俺は生きてる。これで、この国はもう大丈夫だ」


 超S級の強さを誇ったボス、インフェルノ・ラーヴァドラゴンは討伐した。

 後はダンジョン核を回収すれば依頼達成だ。

 ボス階層を満たしていたマグマも消失したので、核もすぐに見つかるだろう。

 帰還にもまた二週間ほどは要するだろうが、帰りは安全重視で--


「カリヤマさん……」


 今後について考えを巡らせていると、ノルフィナが俺の側へ静かに座った。

 魔力切れのせいか少しふらついていて、その表情は少し硬い。


「ノルフィナ……?」


「おっと。んふふ、交代交代っと」


 すると、トモミンが俺との抱擁を解き、ノルフィナにウィンクしながら離れていった。な、なんだ……?


「本当に、本当にご無事でよかったです……! そしてすみません。やはり、あんな作戦を提案するべきではありませんでした……!」


 ノルフィナが沈痛な面持ちで頭を下げる。

 俺はそんな彼女の肩に手を置き、静かに語りかけた。


「謝らないでくれ。きっと、あれが最善だったんだ。今俺達が生きてるのは…… ボスを倒せたのは、君のおかげだ。

 本当によくやってくれた。ありがとう、ノルフィナ」


「カリヤマさん…… あ、あの……! でしたらその…… 例の約束を履行して頂いても、よろしいでしょうか……?」


 顔を上げ、ズイと身を乗り出してくる彼女の顔は、真っ赤に染まっていた。


「ん……? あ、ああ。言うことをきくって奴だよな。もちろん、俺ができることならなんでもーー」


 ガバッ!


 そう言った瞬間、俺はノルフィナに押し倒されていた。


「おわっ……!? んーー!?」


 彼女はそのまま俺の唇を塞ぐと、その口内を蹂躙し始めた。

 普段の彼女からは想像もつかない、貪るような舌の動き。

 驚愕のあまり、俺の思考と動作は完全に停止した。


「え…… ちょ、ちょっとノルフィナちゃん!? 激しい! 激し過ぎるよ! 僕、そこまでやるなんて聞いてないよー!? ねー!?」


 トモミンの悲鳴のような声と、ノルフィナの荒い息遣い。

 そして俺達を囃し立てる討伐隊みんなの声が、(あるじ)の居なくなったボス階層にこだました。


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