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【完結】底辺ハンター、狩人の大精霊に気に入られる 〜万年G級のおっさんが、魔物を喰らって最強のS級ハンターへ成り上がる〜  作者: 藤枝止木
2章 ハンター、都会へ行く

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第75話 ハンター、獄炎の支配者と戦う(5)


 どうする……!?


 八体のマグマ化した蛇竜(だりゅう)。そいつらに囲まれながら、俺は必死に頭を働かせていた。

 状況を確認するため、改めて周囲を見回す。

 すると蛇竜(だりゅう)の一体は、前の階層に繋がる穴を塞ぐように鎌首をもたげていた。

 退路は塞がれてしまった…… 俺達が生き残るには、こいつらを倒すしかない。


 だが、一体どうやって……?

 討伐隊の士気は最悪だ。この状況に、半数程は呆然と膝をついてしまっている。

 さらに、十二分に用意してきたはずの護符も在庫切れが近い。恐らく次のブレスは防ぎきれない。

 もし八体が同時にブレスを放ってきたら、その時点で詰みだ。


 --いや、俺達は最初から詰んでいたのかもしれない。

 仮に、この階層に満ちるマグマ全てが奴なのだとしたら、俺達は最初から敵の腹の中にいたようなものだ。

 このマグマの海に足を踏み入れた段階で、奴はいつでも俺達を殺せたのだ……!


 そう思い至った時、俺は何故か、異世界ユグドラシアでの水没採掘坑攻略を思い出した。

 あれも環境のせいで苦労した。坑道内を満たす地下水が無ければ、もっと楽な仕事だったのに。


「あっ……」


 そこで、俺は思わず小さく声を上げた。


 水が無ければ……?

 そうだ……! 今の不利な状態で、奴らの相手をする必要はない。この階層を満たすマグマ、それを無くすことが出来れば……!

 方法はある。だが、今の俺の技量では時間がかかり過ぎる。恐らく間に合わない。

 この途方もない量のマグマを短時間で消し去る…… そんなことができるのは、本家のあいつだけだ……!


「--みんな、聞いてくれ。この状況を打破するため、俺は今から少し変わったスキルを使う…… どうか驚かないで見ていて欲しい」


 討伐隊の視線が俺に集中する。

 俺は岩場に膝をつくと、一度大きく深呼吸してから、自身の影に膨大な魔力を込めた。


混沌の使い魔(カオスサーヴァント)…… (いで)よ、カオスウルフ』


「「え!?」」


「ワウ!?」


 その名を知るトモミンとノルフィナ、そしてシロが驚愕の声を上げた。


 ズズズッ…… ゾバッ!


 その直後、俺の影の中から黒い何かが噴き上がった。

 それはやがて形を成し、大きな四足獣の輪郭を帯び、大地に降り立った。


「グルルッ…… オォーーーン……!」


 影より(いで)し巨狼が天に吼える。

 その毛並みは闇よりも暗い漆黒で、双眸(そうぼう)は血のように赤い。

 かつて異世界ユグドラシアで殺し合った、伝説の魔獣との再会だった。


”え…… えぇぇぇぇっ!?”

”絶望的状況過ぎてフリーズしてたけど、今度は意味不明すぎる”

”アイテムボックスって、生き物は収納できないんじゃ……?”

”いや、単に取り出したって感じでもなかった。召喚魔法……!?”

”カリヤマ氏、本当に何者なんだ?”

”どう考えても手札が多過ぎる。チート使ってるだろ”

”いや、チートでも何でもいい! そのカオスなんとかでボスを倒してくれ!”


 突然現れたカオスウルフに、止まっていたコメントがスマートグラス上に高速で流れ始める。

 予想通り、視聴者はかなり驚いているようだ。

 そして、それ以上に混乱しているのは討伐隊の面々だ。

 

「ちょ、ちょっとカリヤマ! なんですのその魔物は……!? そんなのスキルを持っているなんて、わたくし聞いていませんわよ!?」


 レイ氏が険しい表情で詰問してくる。彼女の視線とレイピアは、俺の側に立つカオスウルフに向いている。

 超S級の気配を放つこの魔狼に、討伐隊の全員が警戒を露わにしている。


「す、すまない。今回の討伐作戦では使う機会がないと思っていたんだ。だが落ち着いてくれ。彼は敵じゃない。 --多分な」


「多分て、あなたねぇ……」


 呆れたように呟くレイ氏から視線を外し、立ち上がってカオスウルフと視線を合わせる。

 彼は暴れることもなく、じっと俺を見下ろしていた。


 混沌の使い魔(カオスサーヴァント)は、俺が過去に喰らった魔物を使い魔として呼び出すスキルだ。

 今はカオスウルフの他に、スチールベアという魔物も召喚中だ。後者については、ノルフィナの故郷で門番をしてもらっている。

 そしてこのスキルの消費魔力は、呼び出す魔物のレベルに比例するのだ。

 

 B級のスチールベアは、召喚しっぱなしでも問題ないほどの消費量だった。しかし超S級のこいつはヤバい。

 現在進行形でゴリゴリと魔力が削れていく。この感じだと、戦闘させたら十分程で魔力切れしてしまうだろう。

 この燃費の悪さが、強力なカオスウルフを召喚しなかった理由の一つだ。

 だがそれよりも遥かに大きい懸念材料は…… この魔狼が、俺の制御を受けつけるかどうかだ。

 

「久しぶりだな…… 見ての通りピンチの状況だ。少し、手を貸してくれないか?」

 

「……」


 俺の言葉に、カオスウルフは全く反応を示さない。只々睨むような視線を向けてくるだけだ。

 --あ、これはダメかもしれない。

 スチールベアの時に感じた、命令が通る感覚が無い。


「ね、ねぇ師匠。だいじょーぶなの……? なんかすっごい睨んでるよ……?」


「カリヤマさん! あの混沌の魔獣が、人間に大人しく使役されるわけありません! 危険です! 早く戻して下さい!」


「ヴゥーッ……!」


「い、いや、待ってくれ。この状況を打開するには彼の力が-- あっ」


 『ヘイムファレンダ』のみんなと言い合っていると、カオスウルフはくるりと背を向けた。

 そしてそのまま岩場の際まで進むと、マグマ化した蛇竜(だりゅう)の内の一体、インフェルノ・ラーヴァドラゴンの本体を静かに見上げた。


「グルッ……? グルルルルッ……!?」


 一方インフェルノ・ラーヴァドラゴンは、カオスウルフを見下ろしながら困惑している様子だった。

 それはそうだろう。自分に迫る力を持つ魔物が突然現れ、しかも敵である人間側に立っているのだから。

 マグマの蛇竜(だりゅう)と影の魔狼。先に視線を外したのは、後者の方だった。

 カオスウルフは首だけで俺の方を振り返ると、クイ、とシロの方に顎をしゃくった。


「……! シロ! とびきり強力な照明を頼む! 早く!」


「ワ、ワウ……!? ウゥ〜…… ワオン!」


 カッ!


 僅かな逡巡の後、シロは大きな光球を生成した。

 地上に出現した太陽のようなそれは、目を焼く烈光を放ち、カオスウルフを背後から照らした。

 その影が長く伸び、岩場を超えてマグマの海にまで落ちる。


「オ゛ォォーーーン!」


 カオスウルフが再び天に吠え、禍々しい漆黒の魔力光を漲らせた。すると、変化はすぐに訪れた。


 ズッ…… ズズズズズッ……!


 マグマの上に落ちた影。そこを中心に、いつの間にか渦ができていた。

 渦はどんどんその大きさを増し、岩場を取り囲むマグマの海の水位が見る間に下がっていく。


「す、すごーい! 師匠、これって、カオスウルフがやってるんだよね!?」


「ああ……! 暗黒空間(ブラックボックス)に、大量のマグマを収納しているんだ! 流石は本家……! 俺のとは比較にならない程に強力だ!」


 こちらに背を向け、岩場の際に佇むカオスウルフ。今だに彼に命令が通る感覚はない。

 しかし何の気まぐれか、こちらの願いを聞いてくれる気になったらしい。

 この階層全体を満たすマグマの海を消し去る…… 俺の暗黒空間(ブラックボックス)では、一体何十日かかるかも分からない大事業だが、彼にとっては造作も無いことだったようだ。


「ゴルッ……? ギュァ……!?」


 急速に水位を減らしていくマグマの海を、八体の蛇竜(だりゅう)は信じられないものを見るような目で見ていた。

 そしてマグマの総量が減ったせいか、追加で出現した七体の蛇竜(だりゅう)の体は徐々に崩れていき、渦に吸い込まれるように消えていった。

 僅か数十秒。たったそれだけの時間でマグマの海は完全に干上がり、後にはボス本体だけが取り残された。


「「おぉ…… おぉぉぉぉっ!!」」


”す、すげー!”

”ボス階層のマグマ、全部抜いちゃいましたwww”

”ボス…… さっきまであんなに威厳たっぷりだったのに、なんかちょっと可哀想……”

”こんなの反則だろw”


 討伐隊から歓声が上がり、コメント欄も盛り上がる。

 俺だって、こんなに上手くいくとは思わなかった……!


「た、助かった! よくやってくれた、カオスウルフ!」


「グルル……」


 喜色満面で手を振る俺に、カオスウルフが歩み寄ってくる。

 彼は、「手のかかる奴め」とでも言うようにこちらを一瞥すると、そのまま俺の影の中に消えていった。

 か、勝手に還ってしまった。なんて自由な使い魔なんだ…… だが、おかげで状況は好転した……!


「グルッ…… グルルルルッ……!」


 インフェルノ・ラーヴァドラゴンへと目を戻すと、奴は呆然と干上がったマグマの海を見渡していた。

 実に隙だらけだ…… マグマはまた湧いて来るかもしれないし、攻撃を仕掛けるならば今だろう。

 だが、奴の体は今だにマグマの化身状態で、こちらの攻撃は通らない。こちらの装備や残存魔力も心許ない。

 悔しいが、やはり撤退するしか……


「--カリヤマさん。空のルーン武器を一本、私に貸してくれませんか?」


 いつの間に俺の側に立っていたノルフィナが、決然とした表情でそう言った。


「ノルフィナ……? 何か策が?」


「はい……! どうかお願いします。この戦い、あの魔狼ばかりを活躍させるわけにはいかないんです……!」


「わ、分かった。これを」


 ノルフィナの異様な気迫に押されるまま、俺はルーンの刻まれたダガーを差し出した。

 彼女はそれを受け取ると、強烈な青い魔力光を発し、ある魔法を唱えた。

 膨大な魔力が込められた魔法が、封魔(シギル)のルーンが刻まれたダガーに封印されていく。


「っ……! はぁっ、はぁっ……! --どうぞ、カリヤマさん。私の残りの魔力、その全てを注ぎました……!」


 魔法を込め終えたノルフィナが、青い顔でダガーを差し出してくる。

 俺はそこでやっと彼女の意図に気づき、思わず膝を打った。


「そうか……! 確かにその手なら、あの状態のボスにも通じるかもしれない! 流石だ、ノルフィナ!」


「はい……! でも有効活用するにはかなりの危険を伴います。もっと安全な方法を思いつければ良かったんですが……」


「いや、光明が見えただけで十分過ぎるさ。ありがとう。あとは、俺に任せてくれ」


 俺はノルフィナからダガーを受け取ると、マグマの化身、インフェルノ・ラーヴァドラゴンへと向き直った。


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