第74話 ハンター、獄炎の支配者と戦う(4)
「ぬぅっ、面妖な……! しかし、やるべきことは変わらぬ!」
「だな! 流れは俺らに来てる! このままぶっ倒しちまおうぜ!」
ベンケイとキンジは頷きあうと、護符の耐熱防御魔法を起動させ、俺達のいる岩場から飛び出した。
向かう先は勿論、マグマの化身と化したインフェルノ・ラーヴァドラゴンだ。
「ま、待て、二人とも!」
その二人を俺は必死に制止したが、間に合わなかった。
二人はそのまま奴へと間合いを詰め…… 突然発火した。
「「……!?」」
討伐隊の全員が息を呑む。
馬鹿な……!? 耐熱防御魔法は起動しているのに……
今の奴は、それが意味をなさないほどの高温なのか!?
「あのお馬鹿達……! 戻りなさい! 早く!」
レイの鋭い声が響く。
しかし、燃える人影と化した二人は引かなかった。
なんとそのまま間合いを詰め、ボスの胴体に武器を振るったのだ。
ドドッ……!
マグマの大河のようなボスの胴体を、二人の斬撃が切り裂いた。
よくぞあの状態で…… 流石は百戦錬磨のS級ハンター。凄まじい気迫……!
二人はようやくボスから離れ、倒れ込むように岩場へ帰還した。
「ノルフィナ! 水を!」
「は、はい!」
俺の鋭い声にノルフィナが水を生成し、人型の松明と化していた二人にぶっかけた。
火はすぐに消えたが、二人の装備は焼失し、その全身は焼け爛れていた。
「うわっ…… シロ、二人を治してあげて!」
「キュゥーン……!」
トモミンの指示に、シロがすぐに二人へ駆け寄る。
彼が二人の体を必死に舐めると、清浄な白い光と共に焼け爛れた皮膚が回復していく。
その様子にみんながホッと胸を撫で下ろした。
「ベンケイ、キンジ、無茶しすぎだ! けど、よく一撃を入れて戻ってきてくれた……!」
「ぐぬぅ、辱い…… カリヤマ殿、注意召されよ……! 彼奴の熱量、変身前とは比べ物にならぬ!」
「あつつっ…… うげ、やっぱりな…… おい、みんな見ろ! まるで水を切ったみてーな感覚だったぜ……!」
キンジの声にボスへ視線を移すと、二人が決死の覚悟で切りつけた奴の胴体には、傷一つ残っていなかった。奴のあの体、やはり……!
戦慄しながらボスを睨んでいると、今度は俺の隣にヘルメスが立った。
「ちょっと試してみましょうか」
彼女はそう言うと、他の魔法使い達と息を合わせながら、その体に魔力光を漲らせた。
『極大螺旋岩!』
ドパァッン!
分厚い氷に覆われた音速の巨岩が、ボスに向かって射出された。
だが、その砲弾を覆う氷の層は瞬時に蒸発し、中の岩塊も赤熱化して溶け散っていく。
そして着弾する頃には、砲弾の大きさは半分以下になっていた。
ドッ……!
「「おぉっ……!」」
奴のマグマの体に穴が穿たれ、討伐隊の面々から希望に満ちた感嘆が漏れる。しかし……
ズズズズッ……
穿たれた穴は、すぐに元通りに塞がれてしまった。
それを目にした全員が喉を詰まらせ、その表情を引き攣らせる。
「ふむ、やはり駄目ですか。着弾前にかなりの質量が溶け散ってしまいますし、損傷もすぐに修復されてしまいます。いや、損傷してすらいないのか……
こちらの熱対策が役に立たない程の高温に、物理攻撃を無効化する流体ボディ…… 全く、とんでもないですね……!」
ただ一人、冷静に状況を分析していたヘルメスだけが、ボスを見据えながらニヤリと笑った。
流石は『東の賢者』。こんな時でも楽しそうだ……
しかし、どうする……? 今の奴はまさに無敵の状態だ。正直、倒す方法が全く思いつかない。
ここは作戦を練り直す必要が--
ズンッ………!
しかしその時、ボスが強烈なプレッシャーを放ちながら、その体から眩いばかりの魔力光を発し始めた。
奴はこちらを見据えながら、その口を大きく開けている。この予備動作は……!
「まずい……! 今度こそブレスだ! 前衛は護符を! 後衛は防壁を!」
「「応!」」
俺の悲鳴のような声に、全員が即座に動いた。
前衛が岩場に積み上がったルーン装備の山へ走り、護符を手に取って叫ぶ。
『『解放!』』
解放の言葉により、護符に封じられていた魔法が展開された。
ボスと俺達の間に、強固な岩壁が出現し、分厚い氷壁が立ち上がり、烈風が渦巻く。
そうして幾層にも重なった防壁に、対応する属性の魔法使い達が強化を施す。
さらに火属性の魔法使いが身構え、奴のブレスへの干渉を試みる。
これが、奴の強力なブレスへの対策として俺達が準備しておいた策だ。
あらかじめ防壁の魔法をストックしておき、一気に多重展開するのだ。
最精鋭である対策局の上級ハンター部隊でも、奴の黒い熱閃を防ぐことはできなかった。
だが、彼らの何倍もの防壁を同時展開すれば、防げるはず……!
「ふん……!」
ズンッ……!
俺は最後に、暗黒空間から特大の盾を取り出した。
城門のようなそれを構えながら、背後に庇った討伐隊のみんなに向かって叫ぶ。
「全員盾の中へ! 来るぞ!」
ドゥッ!!
大気を揺るがす発射音。
直後、大盾に塞がれた視界の端で、多重展開した防壁が一瞬で吹き飛んだのが見えた。
ジュバァァァァァッ!
「ぐぅぅぅぅっ……!?」
黒い熱閃が大盾に直撃し、俺の体を途方もない圧力と熱が襲う。
それに必死に抗いながら、今にも溶解しそうな盾を金属操作魔法で再構成し続ける。
駄目だ…… 持たない……!
「カリヤマさん……! 『過冷水流!』」
「師匠……! 頑張って!」
ノルフィナが盾に過冷却水をぶつけて冷まし、トモミンが俺の背中を支えてくれた。
おかげで、少しだけ喋る余裕ができた……!
「二人とも、助かる……! みんな! 護符を使って防壁を張り直せ! 使い切っても構わない!」
「こ、心得た!」
「よっしゃ、じゃんじゃん使え!」
「出し惜しみはなしでしてよ!」
「後衛組はすぐに防壁の強化を!」
前衛が次々に防壁を張り直し、後衛が防壁を強化する。
張り直された防壁は、奴のブレスの前に一瞬で消し飛ぶが、その一瞬の隙に俺が大盾を修復する。
そんなギリギリの攻防が数秒、あるいは数分続いた後、ようやく黒い熱閃は止まった。
「ぶはっ…… はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
殆ど消失してしまった大盾を放り、俺はガックリと膝をついた。
「カリヤマさん!」
「師匠!」
ノルフィナとトモミンが駆け寄り、俺の体を支えてくれた。
--魔力と体力がごっそりと減っている。チラリと後ろを伺うと、岩場に積み上がっていた護符の在庫も無くなりかけていた。
なんとか耐え切ったが…… 次はもう防ぎきれない……!
「グルルルルッ……」
一方、こちらを睥睨するボスは平然としていた。
あれほどの攻撃を行った直後だというのに、まだ余力が見られる。
「撤退…… 撤退だ! 前の階層まで撤退する! 全員、背後の穴に逃げ込め! 奴もブレスの連発はできないはずだ!」
「「応……!」」
俺の声に、討伐隊の面々が悔しげに頷く。
そうして全員が走り出そうとした瞬間、さらなる絶望が襲いかかってきた。
ドバババァッ!
「「……!?」」
俺達のいる岩場を囲むマグマの海。その水面が爆発するように吹き上がった。
爆発が起こったのは、岩場をぐるりと囲むように七箇所。
吹き上がったマグマの中から現れたのは、マグマの体を持つ巨大な蛇竜だった。
「なっ…… 分裂した……!?」
元の一体も含めると、合計八体のマグマの化身。
そいつらが岩場を取り囲み、憎々しげに俺達を見下ろしていた。
「もう、終わりか……」
討伐隊の誰かが小さく呟く。
この場の全員の心が、絶望に覆われようとしていた。




