第73話 ハンター、獄炎の支配者と戦う(3)
ザァァァァッ……!
マグマの海を波立たせ、インフェルノ・ラーヴァドラゴンの巨体が突っ込んでくる。
まるで眼前に巨大タンカーが迫ってくるようだ。
そんな絶望的な状況に、トモミンは全く臆していなかった。
彼女は勢いよく岩場から飛び出すと、ボスに向かって思い切りモーニングスターを振り下ろした。
「えーいっ!!」
ドガァッ!
棘付きの鉄球がボスの脳天に直撃し、衝撃音が響く。しかし、奴の進む速度は殆ど変わらなかった。
当然だろう。いくらトモミンが手練の戦士だとしても、彼女はまだA級だ。
超S級とも言える領域にいる奴を、ただの一撃で止めることは不可能だ。 --普通の武器なら。
「くらえっ、師匠の必殺技……! 『解放!』」
トモミンの声と共に、彼女のモーニングスターに込められた魔法が炸裂した。
ドンッ……! ドガガガガガァッ!
凄まじい衝撃音と共に、ボスの巨大な頭部が弾かれたようにノックバックする。
そして衝撃音は一度で止まず、何度も何度もボスの頭部を揺らした。
「ギュガァァァァッ!?」
ボスが驚愕と痛みに絶叫し、後ずさるが、その間も衝撃波は止まない。
そう。トモミンの武器に封じられていたのは、俺の震脚だ。
彼女の武器には二系統のルーンが刻まれていて、ノルフィナの耐熱防御魔法と、さっきの震脚の二つを封じていたのだ。
これを実現するのに結構試行錯誤が必要だったが、なんとかボス戦に間に合った。
「ゴルッ…… ゴルルルッ……!」
ようやく衝撃波が止んだ頃、ボスは元の位置まで後退していた。
こちらを憎々しげに睨む奴は、額の甲殻が割れて出血しており、若干ふらついているようにも見える。
かなりのダメージを与えられたようだが、致命傷には至っていない。
震脚は、S級のレッドドラゴンや、あのカオスウルフですら仕留めた魔法なのだが……
インフェルノ・ラーヴァドラゴン。やはり尋常な相手では無いらしい。
「「おぉぉぉー!!」」
俺がボスのタフネスに戦慄するのをよそに、討伐隊からは歓声が上がった。
”ト、トモミンすげー!”
”あのおっきなボスを押し戻しちゃった!”
”今のってトモミンの武技? ちょっと強すぎじゃない……?”
”昨日カリヤマ氏が使ってた技に似てる”
”確かに。カリヤマ師匠がトモミンに伝授したのか”
”いや、例のルーン武器の機能じゃね? カリヤマが開発したって奴”
”あー、理解”
”しっかし…… アイテムボックスといい、カリヤマ氏、手札が多すぎでは……?”
さらにコメント欄も大いに盛り上がる。
視聴者の言う通り、ルーン武器は俺が開発したものということにしてある。
もちろん真実は違うのだが、異世界ユグドラシアのことを話す訳にもいかないので……
「ふぅ、たっだいまー! って、あちゃちゃちゃっ!?」
そこへトモミンが帰還し、手に持っていた武器を取り落とした。
見ると、モーニングスターの先端の鉄球が溶け落ち、ただの鉄の棒になっていた。
これが、俺が直接奴に震脚をぶち込まなかった理由だ。
もしレッドドラゴンにやったように蹴りを叩き込んでいたら、俺の足は焼失していただろう。
ちなみにトモミンにお願いした理由は、彼女が討伐隊一の鈍器使いだからだ。
何故か震脚は、刀剣系の武器に込めても上手く発動しなかったのだ。
「うわー…… 一発殴っただけで、ドロドロになっちゃったぁ…… ご、ごめん師匠」
申し訳なさそうな表情を見せるトモミンに、俺は笑顔で首を横に振った。
「いや、謝る必要なんてないさ。それよりよく止めてくれた! 流石だ、トモミン!」
「えへへ……! 師匠のおかげだよ!」
トモミンとハイタッチを交わし、笑い合う。
今の所、俺達の作戦は全て上手くいっている。敵は確かに強大だが、このまま削っていけば--
ズンッ……!
「「……!」」
その時、これまで感じたことが無いほどの激烈な殺気が、俺達に降りかかった。
弾かれたようにボスに目を向けると、奴は凄まじい怒りの形相を浮かべながら、その体から強烈な魔力光を発していた。
その光の色は赤を通り越した神々しい白。目を焼くほどの眩い光だった。
「なんだ……!? 全員俺の後ろへ! 防御体勢!」
脳裏に浮かんだのは、宮内氏らが遺してくれた動画にあった、ブレスの予備動作だった。
しかしそれとも様子が違う。いや、あれ以上の何かが起こりそうな嫌な予感がする……!
討伐隊の面々が俺の背後に移動し、固唾を飲んでボスの様子を見守る。
「ギュァァァァァ!!」
カッ!
咆哮と共に一際強烈な光が放たれ、視界がホワイトアウトした。
そして一瞬の後に視力が戻ると、想定外の光景が目に飛び込んできた。
「あれは…… インフェルノ・ラーヴァドラゴンなのか……!?」
眼前で鎌首をもたげていた巨大な蛇竜。奴は直前まで、顔面や胴体の各部の甲殻が破損し、血を流し、ふらついていた。
しかし今やその巨体は、煌々と赤い光を放つマグマへと変じていた。
例えるならマグマの化身。この階層を満たすマグマの海が、そのまま立ち上がったかのような姿だった。
なんだこれは…… 肉体がマグマに置き換わっている……? あんなの、倒せるのか……!?
甲殻どころか、俺達が与えた傷跡も無くなってしまっているぞ……!?
「グルルルルッ……」
魔物の枠を越え、別の何かへと変貌した奴が、傲然と俺達を見下ろした。




