第65話 ハンター、討伐隊のリーダーになる
自宅でゆっくり過ごした翌日。俺達は東京駅近くに空いた大穴に集合していた。
俺達の他に四組のS級パーティーもいるので、総勢約三十名の結構な大所帯だ。
その全員が大穴の淵に立ち、足元の深淵を覗き込んでいる。
ヒュゥゥゥ……
大穴から、生暖かく、わずかに硫黄の匂いが混じった風が吹き上げてきた。
穴底に鎮座する巨大な青い光の渦。S級ダンジョン、炎獄から届いた風だ。
今は魔物の湧出は起きていないようだが、放っておけば、また昨日のような悲劇が繰り返されてしまうだろう……
俺は大穴から顔を上げると、隣に立つトモミンに頷きかけた。
「始めよう」
「りょーかい! 配信開始するね!」
トモミンは元気よく返事すると、事前に待機させておいたドローンカメラの正面へぴょんと移動した。
「よっす! みんなの自慢の友達、トモミンだよー! 今日は、ダンジョン庁さんの公式チャンネルにお邪魔してまーす!
多分、初見さんも沢山いるよね? ふっふっふ…… でも大丈夫! 目が合ったから、もう僕らは友達だよ!」
カメラに向かってトモミンが手を振ると、俺達が装着しているスマートグラス上に早速コメントが表示された。
”よっす! 報道で見たけど、マジで行くんか……”
”トモミンちゃん! 本当に炎獄に潜るの……!? 危ないんじゃ……”
”支援局の最強ハンター部隊が全滅してるからなぁ……”
”炎獄を潰さないとヤバいのは分かるけど、何もトモミンが行かなくたって……”
昨日の報道を見て待機していたのだろう。トモ友らしきコメントが目立つ。
今回は事が事だけに、彼女を心配する声も多い。
”大丈夫って…… な、何が大丈夫なんだ……?”
”目を合わせたら友達にされてしまうって新しいな”
”え、この子もS級ダンジョン討伐に参加するの? なんでメイド服……? なんか犬もいるし……”
”トモミンか…… なんか俺、この子と友達だった気がしてきた”
”メイドの子の後ろにいる、なんか暗い奴。 こいつもS級なん?”
”いや、そいつよりその隣の超絶美人のエルフさんが気になる”
一方トモミンを初めて見るらしい人達は、彼女の出会って五秒で友達宣言に戸惑っているようだ。
あと客観的に見て、やはり俺達は色物パーティーらしい。なんか暗い奴ってのは、間違いなく俺だろうな……
ダンジョン配信をするようになってから、色々な暴言に遭遇してきたが、やはり真実が人を一番傷つけるらしい。ちょっと凹んでしまった……
さておき、今回の炎獄討伐は、その様子をダンジョン庁の公式チャンネルで配信することになっている。
てっきり配信禁止かと思っていたのだけれど、岩崎長官から是非にと依頼されたのだ。
首都のど真ん中にS級ダンジョンが出現し、すでに多くの死傷者が出ていて、体制側の最高戦力が全滅している……
そんな状況下でも希望が存在している事を、国民に知らせたいのだそうだ。
あとは、すでに世間では政府の隠蔽体質への批判がかなり高まっているので、それを緩和する目的もあるようだ。
配信の是非についてもかなり揉めたそうだが、長官が全ての責任を負うという形で断行したらしい。
さらに彼は、特例でトモミン達をA級に昇級させてくれた。S級ダンジョンに認定された炎獄には、制度上、A級以上でないと潜れないのだ。
この措置のおかげで、俺はいつもの面子と一緒に攻略に臨む事ができる。
「お、みんな、ちゃんとニュース見てるねぇ。そーなの! 今から僕ら討伐隊で、後ろにあるでっかいS級ダンジョンをぶっ壊しにいきまーす!
ちなみにこの討伐隊、すっごく豪華なんだよ! 何たって、S級パーティー五個の合同チームだからね! もう、最強オブ最強!
だからみんな…… 炎獄は僕らに任せて、安心して待っててね!」
”トモミン…… 本当に大きくなって……”
”推しがデカくなりすぎて感情が追いつかない”
”トモちゃん…… 絶対、絶対死なないでね!”
カメラに向かって励ますように語り掛けるトモミンに、感動した様子のコメントが連投される。
俺も何だか感慨深い。この子、最初は魔物にビビって漏ら…… おっと、この辺でやめておこう。
「そうだ! 時間無いけど、それぞれのパーティーを軽く紹介しちゃおっかな。うん、そうしよ!
じゃあまずは僕ら! どーも、『ヘイムファレンダ』です! メイドとエルフとワンちゃんがいる、楽しいパーティーだよ!
そしてリーダーはこの人! とっても料理上手で、今回の討伐隊の隊長も務めちゃう、カリヤマ師匠だー!
師匠! 一言お願いしまーす!」
ト、トモミン……? そんなの打合せで聞いてないぞ……!?
余計な事を考えていたせいでバチが当たったらしい。やばい。何も用意してなかった。
「--あー…… どうも、カリヤマです。炎獄のボスは強力だが、策はある。
必ずボスを倒し、ダンジョン核を破壊して帰ってくる。任せてくれ」
”相変わらず硬いなぁw”
”カリヤマ師匠。あんたならやってくれると信じてる”
”カリヤマ氏、トモミン達を頼む……!”
”ところで、カリヤマパーティーっていつの間に名前決まったの?”
”確かに。『ヘイムファレンダ』ってどういう意味?”
俺のコメントに質問が飛んでくる。そう言えば、配信では初だしだったかもしれない。
「パーティー名は、昨日みんなで決めたんだ。他のパーティーと一緒に仕事するのに、無いと不便だったからな。
由来はノルフィナの故郷の言葉で…… 世界を渡る者、だったよな?」
「へ……? は、はい! その通りです! ですよね、シロ!?」
「ワフ? ワフワフ」
ノルフィナに話を振ると、彼女は顔を真っ赤にして高速で頷き、シロに同意を求めた。最近この流れをよく見る気がする。
しかし彼女…… 昨晩もちょっと様子がおかしかったけど、今日は輪をかけて変だ。
昨日の夜、何かあったんだろうか……?
「うふふ…… はーい、ありがと! じゃーお次は、お揃いの白い甲冑姿がかっこいい『白百合騎士団』!
リーダーはこの人! 『姫百合の騎士』こと、レイちゃん!」
「ええ、よろしくですわぁ。わたくしが行くからには、この討伐作戦は成功したも同然。
この国に生きる五千万人の女子達…… あなた達は、このわたくしが守りましてよ」
続いて紹介されたレイ氏が、耽美な所作で投げキッスをした。すると……
”キャアアアア!”
”うぉー、レイ様ー!”
”ヤバい、顔が良過ぎる……”
”嘘…… 鼻血出ちゃった……”
レイ氏を讃えるコメントが爆速で流れ始めた。
流石はレイ氏。何というか、こう、怖いくらいの人気ぶりだ。
「ひゅぅっ! レイちゃんかっこいい! それじゃあ次は--」
その後、トモミンは残り三つのパーティーも紹介した。
全員が現役研究者兼魔法使いという学術系パーティー、『探究のサバト』。
全員が男の前衛職という武道系パーティー、『練武会』。
全員が一発芸を持つお笑い系パーティー、『風が吹けば俺らが儲かる』。略して『カゼオレ』
--最後の一つだけちょっと毛色が違うが…… ともかく、どのパーティーもS級に相応しい実力を持つ手練達だ。
俺は、覚醒する以前から、彼らのダンジョン攻略動画を見ていた。人の身で強大な魔物と渡り合う、神話の英雄のような彼らを。
今から、その彼らと肩を並べてダンジョンを攻略する…… 少しの不安はあるが、それを遥かに上回る高揚感に全身の血が沸騰するようだ……!
「はーい、みんなありがとー! これで紹介完了だね! それじゃあ師匠…… 号令よろしく!」
「ああ、行こう……! 炎獄討伐隊、出発!」
「「応!!」」
俺達はカメラに背を向けると、大穴の底、青い光の渦目掛けてダイブした。
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