第63話 ハンター、開示する
「あ、あのー、色々聞いてびっくりしちゃったんですけど…… 今の話だと、長官さんは悪くないよね……?
だって、最初は僕らにも手伝ってもらう予定だったんでしょ?」
「ワフン」
話を聞き終え、率直な反応を示すトモミンに、シロが同意するように頷く。
そんな二人に、岩崎長官も表情を緩めた。
「ありがとうございます。ですが、私がこの大災害を防げなかったのは事実です。近日中に職を辞することになるでしょう。
そして、今はまだ私が長官です。この国のため、出来る限りのことをせねば……」
長官は再び表情を引き締めると、会議室に居並ぶハンター達を見回した。
この会議室には、俺達も含めて五つのパーティーが集まっている。いずれもS級からA級に相当する手練達だ。
対策局の上級ハンターがごっそり居なくなった今、東京周辺の最高戦力は間違いなく俺達だろう。となれば……
「皆様…… 東京駅地下に発生したS級ダンジョン、仮称『炎獄』。これの討伐を、どうか皆様に依頼できませんでしょうか……?」
再び深々と頭を下げた長官に、会議室が小さくざわめいた。
やっぱりそうくるか。
「まぁ、わたくし達くらいしか頼める相手がいませんものね…… それで、報酬はいかほどですの?」
「はい。今回は私の権限の上限いっぱいまで使って、一人あたりこれくらいを想定しております」
すぐに声を上げたレイ氏に、長官が指で金額を提示した。
思わずギョッとしてしまうような高額報酬だが……
「むぅ…… 中々魅力的な金額ですわねぇ。けれど、命よりは安いですわぁ……」
眉を顰めて唸るレイ氏に、何人かのハンターが同意するように頷く。
それを受けて別のハンターが挙手した。
「岩崎長官、確認です。仮称炎獄のボス、インフェルノ・ラーヴァドラゴンについてですが、情報はあの動画だけなのでしょうか?
あの映像だけでも、ボスが圧倒的な戦闘力を持つ事は理解できましたが、あれがその力の全てとも思えません」
「残念ながらあの動画だけです。国内外のデータベースを当たりましたが、過去に同様の魔物が観測されたという報告もありませんでした。
ご指摘の通り、まだ手札を隠している可能性は十分にあります。本来ならもっと慎重に討伐計画を立てるところですが……
もし炎獄がダンジョン暴走を起こせば、この国は終わります。あの炎獄は、一刻も早く討伐する必要があるのです」
「おいおい。あの化け物が守るダンジョンを、なる早で討伐しろってのか? 長官さんよ、そりゃあ無茶って話だぜ」
また別のハンターから上がった声に、長官が重苦しく頷く。
「はい、無茶は重々承知しております。その上で、どうかお願いしたい。もう皆様に頼るより他にないのです。どうか……!」
頭を下げ続ける長官に、みんなが悩ましげに唸る。しかし、明確にNOという人もいない。
人々を助けたいが、どう考えてもあのボスには勝てない。自殺行為だ。だが……
きっとそんなふうに葛藤しているのだ。
特段愛国心が強くない俺の心中にも、似たような感情が燻っているのを感じる。
以前から話には聞いていて、覚醒してからやっと実感できた学説がある。
それは、覚醒者は非覚醒者に対し、本能的に庇護欲を感じてしまうという説だ。大人が小さい子供に向けるような、あの感覚だ。
だからだろう。強大な力を持つ覚醒者は、意外にもその犯罪率は低く、そのお陰でこの国はまだ秩序を保っていられる。
もちろんゼロではなく、覚醒者による犯罪は時として国が傾くほどの事態に発展する。
普段は対策局がその取り締まりを行っているのだが…… 今はそれを担っていた戦力がごっそり消えている。そう考えると、治安面でもピンチな状況だ。
--さておき、問題は俺達がどうするかだ。
正直、わずかながら勝てそうなプランはある。けど、それには色々と情報を開示する必要があるし、そもそもトモミン達の了解がいる。
「みんな、ちょっと顔を寄せてくれ…… その…… この依頼、みんなさえ良ければ受けようと思うんだが……」
小声でそう切り出すと、トモミンとシロが、そんな事分かっているとばかりに頷いてくれた。
「うん、知ってる。だって師匠、動画見ながら目ぇキラキラさせてたもん! 僕は賛成! 東京の人達を助けたいし!」
「そ、そうか。ありがとう。 --けど俺、そんなに分かりやすかったか……?」
「うん、すっごく!」
「ワフフン!」
「そ、そうか……」
急に恥ずかしくなり、俺は二人から目を逸らした。
すると、何か考え込んでいる様子のノルフィナと目が合った。
「あの、私も賛成です。カリヤマさんの事ですから、何か作戦があるんですよね? 多分、例の技術を使った……
私も考えてみたんですが、あれを活用できれば、あのボスに対しても有効な戦術を取れると思います」
「ああ。恐らく君の考えている通りだ。よし、なら決まりだな……」
俺は内緒話を止めると、長官に向き直った。
「岩崎長官。炎獄討伐に関して、一つ作戦を提案してもいいでしょうか?
ただ全員で突っ込むより、遥かに勝率は高くなると思うのですが……」
「おぉ……! 是非、お聞かせ下さい!」
長官だけでなく、会議室にいる全員が俺を見る。
俺はそれに頷き返すと、机の上に置いていた片手を僅かに浮かせた。
そして、机の上に落ちた影に目掛け、もう片方の手を突っ込んだ。
ズズッ……
「「……!?」」
影の中に俺の片手が沈み込んだのを見て、全員が息を呑む。
この暗黒空間は、いわゆるアイテムボックスのスキルだ。
便利すぎるので、これが使えることは開示したくなかったのだが…… この状況では仕方ないだろう。
俺は目的のものを探し当てると、影の中から手を引き抜いた。手には、一本のダガーが握られていた。
「ア、アイテムボックスのスキルですか……!?」
「へぇ! 噂で聞いたことはあったが、実物は初めて見たぜ!」
「カリヤマさん……! あなたのスキルって、金属操作だったのではなくて!?」
他のパーティーのハンター達が一斉に色めき立つ。ちょっと怖いくらいだ。
「あー…… まぁ、諸事情で色々出来るんです。今から説明する魔法もその一つなんですが……
ともかく、これを使えば俺達にも勝機があるかもしれません」
俺はルーン文字が刻まれたダガーを掲げると、作戦を説明し始めた。




