第59話 ハンター、紅い巨人と対峙する(1)
対策局の上級ハンターがほぼ全員殉職。
その衝撃から何とか立ち直った俺達は、すぐに東京へと走った。
一定以上のレベルを持つハンターにとって、最も高速な移動手段は己の足なのだ。
そうして車に混じって千葉の幹線道路を走るうち、山間の牧歌的な風景は高速で後ろに流れ、やがて大都市のそれへと変化していった。
「これは……!」
目に入ってきた光景に、俺達は誰ともなく道路の上で立ち止まった。
時刻は日没間近。あちこちで起こっている火災により、両脇に林立するビル群は赤く照らされていた。
黒煙はビル群より遥かに高く立ち上がり、焦げ臭い匂いがあたりに充満している。
そしてその向こう側、東京駅の方向から、大勢の人々が悲鳴をあげて走ってくるのが見えた。
そんな彼らの悲鳴や怒号も、そこら中から聞こえてくる破壊音にかき消された。
前回の襲撃より、はるかに襲撃の規模がでかい……!
「後藤秘書官の話では、今回の襲撃は東京駅周辺に集中しているらしい…… ともかく、片っ端から魔物を倒していこう!」
「「応!!」」
隊列を組み、事故でスタックした車を避けながら道路を走り、駅へと走る。
--ゴォォォォォォッ!
すると、避難する人々を追うように、異様な走行音が近づいてきた。
一抱えほどの転がる岩石…… ストーンボムの大群だ。さらにその背後に、ぴょんぴょんと飛び跳ねてくるラーヴァスライムの群れも見えた。
「またあいつらか……! ノルフィナ!」
「はい! 『過冷水流!』」
ノルフィナが放った過冷却水流が降り注ぎ、魔物の群れが氷の彫像と化す。
「しっ!」
「えーい!」
「ガゥ!」
ノルフィナが氷漬けにした魔物達を、俺の刀が、トモミンのモーニングスターが、シロの両刃剣が、すれ違いざまに打ち砕く。
立ち止まっている暇はない。俺達がまずすべきなのは、雑魚の掃討ではなく強敵の排除だ。
何せあの手練の火魔法使い、宮内氏すらがやられてしまった。
東京にはそれをなした強敵が潜んでいるのだ。そいつを取り除かないとどうしようもない。
「--ギャァァァァッ!?」
すると俺たちの向かう先、駅の方向から苦悶の声が聞こえてきた。
「あ…… 師匠! 悲鳴だよ!」
「ああ! 急ごう!」
走る速度を上げ、角を曲がる。すると。
ゴッ!
凄まじい熱風が、威圧感と共に吹きつけてきた。
気配の元を辿ると、大きな交差点のど真ん中。そこに大きな紅い人影があった。
「グォォォォォンッ!」
クルムゾンゴーレム。半透明なクリスタルの巨体を持つ、ゴーレムの上位種だ。
ダイヤモンド以上の強度と異様な膂力に加え、強力な火魔法まで操るA級の魔物である。
そいつが勝ち誇るように咆哮し、身体中の関節から炎を吹き上げている。
「あんなに強力で巨体な魔物が、こんなところに……!?」
前の襲撃の際にも、キングラーヴァスライムという巨体の魔物がいた。
だが、あの魔物は特殊な事例で、小型のラーヴァスライムが合体することであの姿になる。
なので、ラーヴァスライムが甲武信ヶ岳から川を下り、東京に到達してから合体したと考えれば、一応の説明はつく。
しかしこのクリムゾンゴーレムは、信号機の高さを優に超えるほどの巨体だ。こんなのが川をどんぶらこと下って来たとは、到底考えられない。
そう考えると、確かに後藤氏の言う通りなんだろう。魔物達の発生場所は、甲武信ヶ岳のダンジョンでは無かったのだ。
しかし、ならば一体どこから……? それに後藤氏のあの言い方…… もしかして、ダンジョン庁は知ってたのか?
「カリヤマさん! あそこを!」
「ワンワン!」
二人の声に視線を移すと、ゴーレムの側にいくつかの人影があった。
装備からして民間のハンター達だ。体中に酷い火傷を負い、ぐったりと横たわっている。
あれはもう…… そう思った時、彼らがぴくりと身じろぎした。
「まだ生きてる……! 討伐陣形! クリムゾンゴーレムを倒し、ハンターを救出する!」
俺の号令に、みんなが即座に身構える。
すると俺達に気づいたクリムゾンゴーレムが、のっそりとこちらを振り返った。
そして赤い魔力光を漲らせ、強烈な熱波と共に吼えた。
『ゴァァァァァッ!』
ゴゥッ!
奴が放ったのは極太の火炎放射。いや、まるでジェットエンジンのような超高速の燃焼ガスだった。
刹那の間に迫る灼熱の閃光。それを迎え撃つように、背後のノルフィナから青と緑の魔力光が迸った。
『風氷結界!』
彼女の魔法が発動し、俺達の前に烈風と氷の防壁が生成された。
そこへクリムゾンゴーレムの火線が突き刺さった。
ジュバァァァッ!
火線が風の防壁を吹き散らし、氷の防壁を溶かしていく。
その拮抗は数秒続き、火線の消失と共に防壁も破られた。
「くっ…… さすがA級ですね……!」
何とか敵の魔法を防ぎ切ったノルフィナが、悔しげに膝を突く。
瞬間的に大量の魔力を消費したせいだろう。俺は彼女の肩を叩きながら前に出た。
「ナイス、ノルフィナ! トモミン、シロは怪我人の退避と治療! 俺は奴が!」
「「応!」」
ノルフィナを残し、三人でクリムゾンゴーレムへと突貫する。
トモミンとシロの二人が途中で怪我人の方へ向かう中、俺は真っ直ぐに敵へと迫った。
そして刀を大上段に構え、遠間から振り下ろす。
「ぜぁっ!」
金属操作魔法によって伸長した刀身が、クリムゾンゴーレムの脳天へと迫る。
その瞬間、奴は頭上に両腕を交差させながら、自身の体を赤熱化させた。
遠間にも関わらず、強烈な光と熱が俺を襲う。
威嚇のつもりか……? そんなのにビビっていたら、ハンターなんてやってられない!
ギギィンッ!
構わず振り下ろした刃は、奴が頭上に構えた片腕を切り飛ばした。
しかし、そこまでだった。刀はもう片方の腕で止まり、奴の脳天には達さなかった。
「ゴァァァァァッ!?」
「なっ…… 止められたっ……!?」
クリムゾンゴーレムが痛みに悶える隙に、俺は刀身を引き戻した。
S級の膂力を持つ俺の斬撃を、A級の魔物が凌ぎ切った。
その事に驚きながら刃に目を落とすと、その理由が分かった。
「熱……!? これは……」
その熱さに、思わず刀を取り落としそうになる。
奴を切りつけた部分の刃が、溶けたように歪に変形していた。
恐らく、赤熱化した奴の熱に耐えられなかったのだ。これではタクアンすらまともに切れない。
ただの威嚇かと思ったが、効果的な防御姿勢だったわけだ。
このまま、切れ味のなくなった刀で殴り続けても勝てそうだが……
「試してみるか……!」
俺は金属操作魔法で刃の部分を直すと、刀身に手をかざし、さらに意識を集中させ始めた。




