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【1章終了】逃げ癖ハンターは立ち向かう 〜狩人の大精霊に憑依された底辺ハンターは魔物に溢れた現代で無双する〜  作者: 藤枝止木
2章 ハンター、都会へ行く

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第57話 ハンター、奪われる


「ノルフィナちゃん……! よがった、よがったよぉ〜……!」


「ワンワン! クゥーン……!」


 俺に続き、全員が涙ながらにノルフィナを抱擁する。


「--みなしゃん、気を付けてくらはい…… 空気のドームがくじゅれます…… あの戦鎚は危険れふ……」


 一方ノルフィナの方は、視線は定まらず、口調もふにゃふにゃだ。まだ意識が戻りきっていないらしい。

 彼女の体感時間は、空気のドームが崩れた瞬間で止まっていたのだ。


「ああ、そうだな。でも、もう大丈夫だ。敵は倒したし、俺達は助かったんだ…… シロ。念の為、ノルフィナにもう一度治癒魔法を頼む」


「ワォン!」


「あぁ、シロ。ケイブサハギンとあなたって、色がおんなじでれふよね。ごめんなしゃい、ご親戚を乱獲ひてひまって……

 カリヤマしゃんの照り焼きもおいひかったれすし、もひかして、シロもおいひいんれふかぁ……?」


「ク、クゥーン……」


 支離滅裂な事を言い始めるノルフィナを、シロが気遣わしげにペロペロと舐める。

 これは…… 回復には時間がかかりそうだ。地球世界に戻ったら、念の為精密検査を受けてもらおう。


「だが、ともかく命は助かった。よかった……」


 俺とトモミンは、治療の邪魔にならないようノルフィナから離れ、揃って腰を下ろした。


「うん、本当によかったよ…… ところで師匠、こっち向いて」


「ん? どうしたトモ--」


 呼ばれて振り返ると、トモミンは俺の顔を両手でガシッと掴んだ。

 何を…… そういう前に彼女の顔が迫り、激突するような勢いで俺とトモミンの唇が触れた。


「……!?」


 いきなりの口付け。自分の唇に触れるとんでもなく柔らかな感触。顔を包む手のひらのぬくもり。

 その優しい衝撃に、俺の思考と動作は完全に停止した。


「--ぷはっ! え、えへへ…… しちゃった……」


 一瞬のように感じた数秒後。ようやく口を離したトモミンは、真っ赤な顔を伏せながらそんな事を呟いた。


「ト、トモ…… なん…… どう……」


 一方、俺はまともに言葉を紡ぐことができなかった。

 なぜ、どうして、弟子に手を出してしまった。トモ友の信頼を裏切った。

 そんな困惑や不安、罪悪感が頭の中を埋め尽くそうとするが、それを遥かに上回る嬉しさが心の底から湧き上がってくる。

 心臓は早鐘のように打ち、顔が熱い。きっと今、俺は彼女と同じ顔の色をしている。


「だ、だって…… 師匠、ノルフィナちゃんとちゅーしたじゃん! 僕だけ仲間外れはやだもん!」


「ちゅーって…… あれはただの人工呼吸で、緊急事態だったわけだし……」


 そう言いつつ、俺はノルフィナを心肺蘇生した際の事を思い出してしまっていた。

 至近距離で見たノルフィナの整った顔や、冷え切った唇の感触、息を吹き返した彼女を抱きしめた時の深い安堵。

 あの時は無我夢中で、そんな事を気にしている余裕なんてなかったが、今はそれらが頭から離れない。

 ノルフィナとは、しばらくまともに目も合わせられないかもしれない…… いや、それはトモミンともなんだが……


「むー……! それはもちろんわかってるけど、こっちだって緊急事態だよ! 僕の方が先に…… だったのにぃ……!

 そ、それとも何!? 嫌だったの!? 嫌だったんならそう言ってよ! 謝るから! あや、謝るからぁ…… ぐすっ……」


 突然怒ったかと思ったら、今度は俯いて涙ぐむトモミン。俺は慌てて弁解した。


「ち、違う! 嫌なわけが無いだろう! ただ驚いただけで…… けど、師匠としての立場とか、大人としての責任を考えると、その……」


「ほ、ほんと……!? ヤじゃなかったの!? えへ、えへへへへ…… も、もう! 師匠は素直じゃないんだからー! うふふ!」


 ごにょごにょと呟く俺に対し、途端に機嫌を持ち直したトモミンが太陽のように笑う。めちゃくちゃ嬉しそうだ。

 その顔を見てしまうと、もう何も言えない。この子は本当に、眩しいくらいに真っ直ぐだ。

 それに対して俺は…… トモミンの笑顔から目が離せないのに、ノルフィナとの事も頭から離れない。控えめに言ってクズ野郎なのでは……


「わ、わぁ……」


 小さな声に振り返ると、ノルフィナが定まった視線で俺達を凝視していた。

 よかった……! 正気に戻ったらしい。けど、なぜだろう。彼女の顔も赤い…… も、もしかして、さっきの見られてたのか……!?


「ノ、ノルフィナ! こ、これは……!」


「あ、あの、えと…… お構いなく……! わ、私はシロと魔法談義でもしておきますので!

 シロ! ナビエ・ストークス方程式の水魔法への応用について、あなたはどう思いますか……!?」


「ワ、ワフ……!?」


 混乱した様子でシロを抱え込むノルフィナ。直ぐに彼女の元へトモミンが走り、再び抱擁した。


「ノルフィナちゃん! だいじょーぶ? 痛いとこ、ない……?」


「えっと…… はい、大丈夫です。ご心配をおかけしました…… あの、空気ドームが崩壊してから何があったんですか? キングサハギンや戦鎚の回収は……?」


 ノルフィナが不安げな様子で訊ねてくる。どうやら、俺が彼女を心肺蘇生した事も覚えていないようだ。

 ど、どうする……? 話すべきだと頭では分かっているが、どんな反応が返ってくるかが怖すぎる……


「--崩壊後、君は水圧で重傷を負ってしまったんだ。そのままキングサハギンと戦闘になったんだが、奴は無事仕留める事ができた。戦鎚の回収はまだだが…… 俺達の足元に沈んでるはずだ。

 その後は全員でこの空気溜りに避難して…… その、何とか君を蘇生できたんだ。シロが何度も治癒魔法をかけてくれたお陰だな。うん……」


「そうだったんですか…… 皆さん、本当にありがとうございました。私はまた、命を救って頂いたんですね……」


 笑顔で礼を言ってくれるノルフィナに、罪悪感が刺激される。

 結局心肺蘇生の事を言えなかった…… 言うならこのタイミングが一番のはずなのに、どうして俺と言う奴は……


「お互い様だ。気にしないでくれ…… それで体調はどうだ? 何せさっきまで死にかけていたんだ。少しでも不調を感じたら教えてくれ」


「体調に関しては問題なさそうです。その、強いて言えば顔が熱いです……」


「そ、そうか…… なら、体調が落ち着くまでもう少し休もう。依頼完了までもう一息だ」


 その後、しばしの休憩を挟んだ俺達は、空気溜まりから再び水中へと突入した。


 ボスが討たれたせいか、すでにサハギン達の姿は無く、戦鎚は水底に放置されていた。

 また魔法消失効果を作動されては敵わないので、その大きな金属塊は慎重に回収し、そっと暗黒異空間(ブラックボックス)の中に収納した。


 地下水脈につながる大穴については、その辺に埋まっていた鉄鉱石を集めてきて埋めた。

 金属操作魔法を使って強固に固定しておいたので、余程のことがなければ崩れないだろう。

 これでこの採掘坑(さいくつこう)での仕事は完了だ。俺達は最下層を後にし、領都ノルザルボルグへと帰還した。


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