第52話 ハンター、異世界でも依頼を受ける
シルヴェイク伯爵達の話によると、確かに厄介そうな状況だった。
事の始めは、一ヶ月ほど前のカオスウルフ騒動まで遡る。
なんとかカオスウルフを退けたリースヒルド侯爵の領地だったが、避難民対策でその財政は火の車。俺が献上した奴の魔石を売り払っても、まだ金欠気味な状態だった。
そんな時、領内の採掘坑で、高価な魔法金属であるミスリルの鉱床が見つかった。
今すぐにでも新しい稼ぎ口が欲しかった侯爵にとって、これは正に天の助けだった。
彼女はすぐに行動を起こし、ミスリル採掘のノウハウを持つ専門家として、友人であるシルヴェイク伯爵を招聘した。
採掘は順調に進み、二人で視察に訪れていた折、採掘坑と地下水脈が繋がる事故が生じてしまったのだ。
そして悪いことに、水脈には水棲の強力な魔物が生息していて、そいつらは大量の地下水と共に採掘坑へ雪崩れ込んできた。
慌てて採掘坑から撤退した侯爵達だったが、不幸は続く。
襲いくる魔物達を退けながら地上に逃れる際、伯爵が家宝の戦鎚を落としてしまったのだ。
不幸中の幸いとして、中にいた人員は鉱夫達も含めて全員脱出できたが、採掘坑は完全に水没してしまった。
普通ならここで諦めるところだが、希少なミスリル鉱床と家宝の戦鎚を捨て置くわけにはいかない。
なんとか採掘坑の奥まで進み、地下水脈に通じる穴を塞いで、中を満たす地下水と魔物達を排除する必要がある。
しかし、強力な水棲の魔物がひしめく中でそれを行えるのは、練達した水魔法使いを擁する手練れのパーティーだけだ。
そして、それを実行できそうな人員は商船の護衛等で出払っていて、このノルザルボルグに帰投するのは当分先の予定だった。
こうしている間にも魔物は流入し続けているので、日を追うごとに採掘坑奪還の難易度は上がっていく。
早く対処したいが今は待つしかない。そういう状況だった。
そんな中、一縷の望みをかけてフヴィートの里に遣いをやったところで、奇跡的に俺達が来ていたという訳だ。
結論として、侯爵と伯爵が俺たちに依頼したいことは二つ。
まずは第一に、採掘坑と地下水脈をつなぐ穴を埋めること。
そして第二に、可能であれば戦鎚の回収を行うことだ。
第一目標だけでもクリアできれば、あとは侯爵達だけでもなんとかなる。
一般的な腕前の水魔法使いを大量投入し、採掘坑内の水を全て抜けば、魔物の掃討と戦鎚の回収も容易という事だった。
「--ノルフィナ。この依頼、どう思う? 君の負担がかなり大きいように思うんだが……」
伯爵達の話を聞き終えた所で聞いてみると、彼女は難しい表情で唸った。
「そ、そうですね…… 負担に関しては、皆さんと一緒に潜るなら大丈夫だと思うんですが…… 聞いた感じ、往復で数日はかかってしまいそうな雰囲気です」
「数日かぁ。うーん、結構ギリギリだね」
「クゥーン……」
俺達はダンジョン庁の依頼を受けている最中なので、数日後には地球世界に戻る必要がある。
侯爵達の依頼に手間取って帰還が遅れてしまうと、長官や、一緒に依頼を受けているハンター達に迷惑を掛けてしまいかねない。結構悩ましい状況だ。
渋い顔をする俺達をみて、侯爵達は慌てた様子で口を開く。
「何やら予定があるようだな。しかし、そこを何とか頼めないだろうか……?
加えてその、心苦しいのだが、我が領には現金が心許ない状況でな……
受けてくれる場合、報酬はミスリルインゴットの現物で支払わせて欲しい。もちろん、相場より色は付けさせてもらう」
「俺からも頼む! 落としちまった戦鎚は俺んちの家宝なんだ! 礼ならいくらでも-- ん?
なぁカリヤマ。お前さんが腰の曲刀、ちょっと見せてくれねぇか? こんな時になんだが、俺は武具に目がなくてな」
「え……? は、はい。どうぞ」
俺は戸惑いつつも、腰に差した日本刀を鞘ごとシルヴェイク伯爵に手渡した。
すると彼女は刀を鞘から抜き放ち、その刀身を見て息を呑んだ。
「な、何だこりゃあ…… 俺も曲刀はいくらか打ったことがあるが、こんなのは初めてだ……!
切り裂く事に特化したわずかな反り、ゆらめく炎のような刃紋、震えが来るほどに美しい……!
それにこの材質は何だ……!? ただの鉄とは思えねぇ魔素の含有率だ……!
--わり、ちょっと試させてくれ」
彼女は軽い感じでそう断ると、突然刀で自分の腕を浅く切り裂いた。
「伯爵様、何を!?」
「ワンワン!」
見た目幼女な彼女の自傷行為に、俺達は色めき立った。
しかし、彼女は俺達の声に取り合わず、さらに詳細に刀を観察した。その視線は正に熟練の職人のものだった。
「身体強化した俺の皮膚をあっさりと…… この鋭さと、この靱性……! 矛盾した特性を両立させてやがる……!
おい! こいつを打ったのは誰だ!? ドワーフの一級鍛治師でもなきゃこんなもんは作れねぇと思うが、俺達とは全く違う思想を感じる……! 一体誰なんだ!?」
刀を片手に身を乗り出してくる伯爵に、俺は仰け反りながら答えた。
「そ、その日本刀は俺が作ったものです。少々変わった、こんなふうな方法でですが」
俺は懐からダガーナイフを取り出すと、それを金属操作魔法で小太刀の形に変形させてみせた。
「……!? こ、こいつはたまげたぜ。同じような魔法は見たことがあるが、技量が段違いだ……!
--よし。カリヤマ。お前さんにはルーンの技を教えてやる。そいつが俺の報酬だ」
「何!? シルヴェイク、いいのか……!?」
伯爵の言葉に侯爵が目を見開く。どうやら破格の報酬らしい。
「なに、前にお前さんから聞いた話が本当なら、カリヤマ達はこの世界の人間じゃねぇんだろ? だったらいいだろ。あ、もちろん他には教えんなよ?」
「は、はぁ…… あの、伯爵様。私はあまりこの世界の技術に詳しくなく…… ルーンとは、どう言ったものなのでしょうか?」
異世界ユグドラシアは、俺達の知る北欧神話に似た部分がかなりある。
ルーンという言葉にも聞き覚えがあるが、俺が知るものと同じとは限らない。
「あー、簡単にいえば、武具に特殊な文字を掘り込んで、魔法を込める技術だ。
ノルフィナつったか? そいつの杖に使われてるような技術との大きな違いは、魔法使いじゃなくても効果を発動できるって所だな。
更に、属性魔法を込めたりするだけじゃなく、武器の切れ味上げたり、防具の強度を上げたりもできる。まぁ、ドワーフの秘伝ってやつだ」
「「……!」」
伯爵の言葉に、俺たちは息を呑んだ。
地球世界でも、ノルフィナの杖の劣化版のような技術は使われている。それでもその技術は秘匿されている部分が多く、俺には再現不可能だった。
今聞いた感じだと、ルーンの技術は完全に上位互換だ。是非とも習得したい。
「そ、それって、僕にも魔法が使えるようになるってこと!?」
前のめりで質問するトモミンの胸元を、伯爵が凝視する。
「お前に憑いてるのは…… 力の精霊か。そうだな。魔法使いほど器用には操れねぇが、使えるようになるぞ。
まぁ、カリヤマが上手くルーンを扱えればの話だが…… そのニホントウってやつを見る限り大丈夫だろ。全く、人間にしておくには惜しい腕だぜ」
なるほど…… 休暇期間を超過してしまうリスクを考えても、やはり十分すぎる報酬だ。
もし俺がルーンの技術をものにできれば、パーティー全体の戦闘力は跳ね上がるはずだ。そうすれば、ダンジョン庁の依頼もより早く解決できるだろう。
みんなの顔を見渡すと、全員が俺に頷き返してくれた。よし……!
「承知しました。その依頼、受けさせていただきます!」




