第四十四話『ザメルの意志──命を賭した贖罪』
「ここだ......」
ザメルがいう。 森から少しはなれた洞窟へとやって来た。
「どうやら魔力は感じませんね」
ルエルがいうように、俺のエフェネも反応しない。
(ザメルがあっさりと従うのは気になるが...... 魔力を感じないのは間違いない)
洞窟へとはいると鉄格子があり、その奥にクリエイスさまがいた。
「まさか、ナナミ君が来るとはな」
そう飄々とクリエイスさまは答えた。
「どうやら心配はいらないようですね」
「ああ、ザメル、彼はとらえられなかったようだな」
「............」
「クリエイスさま、俺たちと一緒に来てくれますか」
俺は事情を話した。
「......なるほど、それで私を...... かまわない、どうせこの国にいても殺されるだけだしな」
「では行きますか」
「......クリエイスさま、なぜ容易く捕らえられたのですか。 あなたが戦えば、つき従うものもいたでしょう......」
俺たちが行こうとすると、後ろからザメルはクリエイスさまを見据えていった。
「そうなれば、この国は割れ混乱する。 グランバルトは帝国と通じていたからな。 その隙をついて帝国が侵攻してくる。 そうなればとても守りきれん。 グランバルトがこの国を治めるなら、少なくともすぐに蹂躙されることはないだろう」
「国のため、だが私たちは......」
「お前たちを救えなかったのは確かだ。 領主や軍を維持するにも...... それを権力者から奪い、拙速に弱者に使おうとすれば、このように王座を追われることになったがな」
(それでグランバルトに協力する貴族や軍もいたのか......)
「............」
ザメルは静かに聞いている。
「まあ、後からならいくらでも言えるな...... どちらにせよ、私は失敗した。 すまなかったなお前との約束を守れなくて......」
そうクリエイスさまが謝り歩きだすとザメルは走る、その懐から光るものを出した。
「クリエイスさま!」
俺が前にでようとするが、その瞬間。
ドスッ!!
「うっ......」
クリエイスさまの前にでたザメルは何かに貫かれ倒れた。 その服が赤く血に染まっていく。
「くっ、はずしたか!」
どこからか男の声がして、角のついた魚のようなものが旋回してくる。
「シェリー!!」
「ぐあっ!!」
うちだした光が隠れていた男を魚ごと撃ち抜いた。
「まるで感じませんでした!」
「おそらく、魔力を隠蔽できる界獣の類いでしょう」
「ザメル!! しっかりしろ!」
クリエイスさまはザメルを抱き抱えていた。
「......クリエイスさま」
「なぜ俺をかばった! お前は刺客のことを知っていたのだろう!」
「......私は待てなかった、あなたを...... 信じきれずに...... すみません」
「そんなことは...... いい、今は」
「いつか、この国に...... 戻って...... みんなを......」
そういうとザメルは息を引き取った。
「くっ......」
「クリエイスさま......」
「俺はめかけの子としてスラムで生まれ、幼い頃、雨の中で震えていた子供に何もできなかった──その記憶が今も胸に残っている。 だから王になったら、それらを救うと心に決めた...... しかし、結果は......」
そうクリエイスさまは唇をかんだ。
(この人は後悔していたのか、そして自分に罰を与えるために捕らえられたのかもしれない。 ただ...... ザメルは最後に信じたかったのだろう)
「非情で申し訳ありません。 でも今はザメルの意志を抱いて、生きねばなりません。 刺客やザメルからの連絡がなければ、刺客がここにやって来ます」
俺は拳を握り、歯を噛み締め自分にいい聞かせるようにそう言った。
(今はそうするしかない...... このまま死ぬわけにはいかない)
ルエルとシェイネスも目を伏せている。
「......そうだな。 ただ、すまぬギュラで焼いてもらえないか。 このままにはしておけない」
「わかりました」
俺は外でザメルの遺体を焼いた。 眠ったような穏やかな顔のザメルは、揺らめく炎の中にゆっくりと消えていった。




