第三十五話『分裂する蛇──霧の湖の異形』
「ここか湖か」
「鬱陶しい霧だな。 よく見えん」
湖まで着くと、濃い霧が立ち込めていた。
「それでそのモンスターとやらは、どこにいる?」
シャガはそう聞いた。
「......あれだな」
湖のほとりで群れるようにいる青い蛇がみえた。
「あの蛇か? 数は多いが大きさも普通のより少し大きい程度、もしかして猛毒を持っているのか?」
「いや、毒性は大したことはないらしい。 体がしびれる程度だという話だ」
「なら俺が......」
「待て」
剣を抜き向かおうとするシャガを俺は止めた。
「なんだよ」
「見てろ。 シェリー」
光となったシェリーは蛇の一体を貫いた。
「弱いじゃねーか。 ん?」
貫かれた蛇の胴体から頭が生え、ちぎれた体から頭が生えようとしていた。
「なんだ...... 数が増えたのか!?」
「ああ、あれは切ると分裂して増えるらしい」
「なんだそのモンスター!? 聞いたことがないぞ!」
「......だから、シェルディオさまは俺に頼んだのはそういうことだ。 今まで何度か討伐に向かったそうだが、増える一方だから魔力の霧を発生させる魔巧具で、ここに隔離しているらしいな」
「魔巧具は周囲の魔力を集めて作動しますが、これほどの広さだと、交換しないと長くは持ちませんね」
ルエルはそういった。
「それじゃ、いつか霧もはれちまうのか。 だがどうする? 切れないぞ」
「いろいろ俺たちで試すしかないだろう」
クアトの衝撃波、ギュラの炎、シャガの白猿、ジアルガで潰してみたが、その蛇は再生力もすさまじく、炎や衝撃波にも耐える。
「くそっ! 再生力が高すぎてジアルガじゃ倒せねえ!」
「ああ、俺の手持ちじゃ切らずに倒せない。 ティモシーの界獣も...... リシェのミリエラの氷なら止められるかな」
「......いえ、氷も使い続けないとだめでしょうから、無理だと思います」
そうルエルがいう。
「おい、お前も界獣を使えるんだろ。 あいつをなんとかできないのか。 監視とはいえ協力するなとはいわれてないだろ」
そうシャガはシェイネスに言った。
「......ええ、確かに監視が目的ですので、協力もやぶさかではありませんが、私の【マジェルク】、は地面に穴を掘ること、【ビヨス】は液を吐いた場所を石化させることです...... 使えますか?」
そう淡々とシェイネスは答えた。
「くそっ...... 二体も操れるのかよ」
シャガはちょっとショックを受けている。
「だったら石化させればいいか。 頼めるか」
「正直、一体、二体なら石化させられますが、複数は無理です。 そこまで広範囲に連発できません」
「それなら穴に落とすのは有効かもな。 攻撃しなければ増えないからな。 やってみるか」
「それなら、お前らは穴を掘れ、俺が奴らを集めてくる」
そういうシャガに囮を任せ、俺とシェイネスは穴を掘りに向かった。
「頼めるか」
「ええ、マジェルク」
シェイネスが呼ぶと、地面から大きなもぐらが現れた。 そして地面に大きな穴を掘り進めていく。
「シェイネス、少しいいか」
「はい、なにか?」
「ガルグルムさまに長く仕えているのか?」
「......私の住んでいた村はモンスターに滅ぼされました。 そこでガルグルムさまに拾われ、界獣を使役する才能があったため仕えたのです」
そう静かに話し出した。
「なるほど、フィグルスさまのシャガのように、ガルグルムさまは恩人と言うわけだ」
「そうなりますね......」
そのとき、瞼が動き、少し表情に動きがあったように見えた。
「一体、なぜガルグルムさまはあれほど俺を管理したがったんだ? すこし神経質すぎるように感じたんだが」
俺の問いにシェイネスは少し躊躇するように見えた。
「......あの方は、あなたが思われているほど冷酷でもありません。 強いものの管理はやむを得ないことなのです」
無表情ではあるが、感情を圧し殺しているようにも見えた。
「なにか理由でもあるというのか?」
「......かつて、あの方には友がいました。 力あるその者は道を踏み外し、その力で、ガルグルムさまの故郷でもあった国を滅ぼしたのです」
(友......)
「その性質を知りながら止められなかった後悔から、あの方は厳格な力の監視こそ必要だと感じられているのです」
そう目を閉じ、シェイネスは言葉を止めた。
(......なるほど、そんなことがあったのか)
「掘り終わりました......」
そう穴を掘り終えたシェイネスは、元の無表情な顔に戻りそう伝えた。




