第三十一話『ヘイル洞窟の罠と黒き覚醒』
「ここがヘイル洞窟です。 とても威圧感のある魔力を感じます...... これは罠ですよ」
町から離れた薄暗い洞窟の前でルエルは不安そうにいった。
「......わかっている。 それでもいくしかない。 リルの命がかかっている」
「......そうですね。 行きましょう」
(リル、必ず助け出すから待っててくれ......)
俺たちは暗い洞窟へ覚悟を決め進む。
あっさりとゼグドは洞窟の奥にいた。 リルは後ろ手に縛られ短剣をつきつけられている。
「おっとそれ以上は近づくな。 お前はなにか策を労するからな」
「......その子は関係ないだろう。 解放してやってくれ」
「そうだな。 まだまだこいつは使えるが...... お前次第では解放してもいい」
「どうすればいい」
「お前には死んでもらう...... 邪魔になるからな。 俺はただ召喚士はすべて死ねばいいと思っているだけだがな」
(邪魔...... 盗賊の、いや違う...... 誰かの意図だな。 でも今はそんなことはどうでもいい)
「いい、ルエル、わかったが...... その子の解放を見届けてからだ。 でなければ応じられない。 お前のことは信用できない。 俺が死んだあとリルを無事に返すかはわからないからだ」
「......いいのか。 それならこいつをここで殺すぞ」
そういって短剣怯えるリルのほほにつけた。
「やめろ...... もしそんなことをすれば、絶対にお前を許さない...... 地のはてまで追い詰めて殺す......」
「おお、怖いな...... そんな目で見るなよ。 なにか策でもあるのかと思っただけだ」
「交渉や作戦などもない...... ただリルだけは返してくれ」
「お前が死ぬなら返すさ」
そういって、リルを突き飛ばした。
「リル! こっちへ!」
よろけながらこちらに来るリルの瞳が揺れ、何かを言おうと口を開いた瞬間、服が赤く染まっていく。 そのままゆっくりと倒れたリルの背中に短剣が深々と刺さっていた。
「リル!!!」
「ふははははっ!!」
そう下卑た声で笑ったゼグドは手鏡を懐からだした。
「リル!!!!」
俺はリルのもとへ夢中で走った。
心のなかに今まで感じたことのない感情が沸き立っていた。 目の前から色がなくなり、なにかが壊れる音が頭に響いた。
「マスター感情を抑えて......」
そばに走るルエルが叫ぶ声が感情にかき消された。
その瞬間、爆発するような空間の歪みが起こり、俺もゼグドは壁に吹き飛ばされた。
「り、リル......」
「愚か者が......」
そばには見たことがない漆黒のドレスの女性がたっていた。 黒いヴェールをまとうそれは悪魔のようでもあり、女神のようでもあった。
「いや、それよりリル......」
「あれをよく見よ」
女性に言われてリルを見ると、その姿は泥のように溶けた。
「に、偽物」
「貴様のその不快な感情ゆえ、わらわは目が覚めてしまったぞ...... この失態どう償うつもりだ」
「なにを...... 誰なんだ」
「......貴様、頭が高いわ」
その時凄まじい圧迫感で地面に叩きつけられた。
「ぐはっ......」
(なんだこいつ、とてつもないプレッシャー...... ただ命じられただけなのに、体が拒否できないなんて)
少し頭が冷静になってきた。 周囲を見るとルエルがいない。
「ルエル...... いない。 まさか、お前がルエルなのか」
「......貴様の感情の揺れで目が覚めた。 不快ゆえ、このまま消してしまおうか」
その目からこれが冗談ではないことがわかった。
(くっ、死ぬ......)
「ちっ、こやつが邪魔をしておる...... 助かったな。 わらわは眠る、下らぬことで起こすな......」
そういうと、その姿は丸く光となり、その場には倒れたルエルがいた。
「私から女性が......」
ルエルが言葉を失っている。 今さっき、おこったことをルエルに話したからだ。
「あれはとてつもない力を持っていた。 立っているのもやっとだ......」
「私も意識を失うまえに、途方もないものが内から沸き上がってくるのを感じました...... あれは王獣」
「王獣...... あれはとても従えさせられそうにない。 殺されるところだった」
「私の中にいるよう...... いえ私の半身なのでしょう。 ですが制御もできません、すみません」
落ち込むようにルエルがいう。
「いや、仕方ない。 でも助かった...... リルが無事ならそれで全ていい、あいつも捕らえられたしな」
俺は気絶しているゼグドをみた。




