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第三十話『名もなき者と奪われた光』

「これが未来を暗示しているということですか?」


 預言の詩を見て俺は聞いた。


「ああ、ただ見ての通りなんなのかはわからないのさ」


「しかし言えることはこの預言は確実にこれから起こるということだ......」

 

 イオスさまの言葉を受け、厳しい顔でフィグルスさまがそう告げた。


「この、ひとつ、王の契りは増えゆきて、眠れる獣に新たな名を刻まんって王契将が増えるってことですよね」


 リシェが言うとイオスさまはお茶をのんだ。


「ああ、それはそうだろうね。 問題はあとの二つさ」


「ふたつ、空の裂け目は広がりて、世界の律は揺らぎ、根を失わん、みっつ、名もなき者、声を持たぬ者その手にて、光と闇の境を越えん...... か。 意味がわからないな」


「ああ、世界の律が揺らぐ、なにか大きなことが起こるのだろうね」


 イオスさまはそういった。


「それで、なぜ俺を呼んでわざわざこの話をするんですか?」


「そうだね...... この名もなき者、多分、現在、王や僕たち王契将ではないものだと思うんだ」


 そういうとイオスさまは俺の目を見た。


「まさか、俺だと?」


「フィグルスから聞いた話では、君は最近かなりの名をあげているそうだね」


「まあ...... でも俺は関係ないですよ」


「どうしてだい?」


「俺はリシェやリル、仲間を守りたいだけですから、そんな大事に関わるつもりはないです」


「ふむ、だがこの世界のなにかが狂えば、そのものたちも危険にさらされよう。 我ら王契将もそれゆえ苦心して王獣と契約しているのだ」

 

 フィグルスさまはそう俺の目を見据えていう。


「ナナミが王契将に......」


 リシェがそうつぶやく。


「わからないが私はその可能性を感じてはいる。 あくまで直感だがね」


 フィグルスさまはそう答えた。


(俺が王獣と...... あり得ない。 そんな力あるわけがないし、ほしいとも思わない。 今でも仕事に使えるほど持っている。 これ以上の力は持つと不幸になる気がする......)


「まあ、頭の片隅に置いておいてよ。 ただ...... ぼくには君の未来がよく見えない」


 そうイオスさまは今までになく真剣な顔で俺にいった。


「見えない......」


「ああ、こんなことは初めてでびっくりしてるよ。 ただ、近いことは見えることもある。 まああの預言は必ず起こる、そのことだけは覚えておいてね」


「......はい、お話は承りました」


 そのまま礼をいい、城をあとにした。


 俺たちは夜の町を帰る。


「あり得ないよな。 俺が王契将だなんて」


「そうかな。 私はあってもおかしくはないと思うよ」


 リシェにいわれて驚く。 


「リシェまで、そんな器じゃないのは知ってるだろ」


「でもナナミは他の誰にもできないことをやってのけてきた。 リルを救い、禁獣と戦い。 今は町を作ろうとしている」


「それはみんなを守ろうと」


「それって結局、他の人を守ることになるんじゃない」


「まあ、それはそうかもしれないけど......」


(俺が王契将...... 考えたこともなかったな。 ただ今は町を作りリルを安全に暮らさせるために力を尽くそう」


 そう星空が煌めく空を見ながら考えていた。



「ふむ、そんなことがあったのですね......」


 そうルエルがいう。


 リシェたちがショッピングに出掛けている間、俺はルエルと町を歩く。


「ああ、王獣ってそもそもなんなんだ?」


「......そうですね。 王獣も人間が決めた序列にすぎませんが、確かに深い領域にとてつもない力を持つものがいます......」


「そうか。 ルエルはここに来るまで無意識の世界で何をしていたんだ」


「私ですか? 私は...... よく覚えていません。 もしかしたらあなたの呼び掛けによって生まれたのかもしれませんね」


「呼び掛けによって?」


「元々無意識ではひとつの大きな存在なのです。 そこで小さな個が生まれます。 それが人や動物、そして我々界獣なのです」


「ということは、死ねば俺たちもそこに還るのか」


「ええ、そうなります。 そこで命は孵り、そこに還る、それが命の循環なのです」


「そうか。 何も知らなかったな。 知ろうともしなかったな......」


「......マスター、なにかきます!」


 その時、不意に後ろから声がした。


「お前の娘は預かった......」


 振り返ると、口に手を当てられたリルとゼグドがいた。

 

「リル!!」


「【レヘルの洞窟】に来い......」


 その時、リルの目が助けを求めるようにこちらを見ていた。 そして俺が手を伸ばすとゼグドの手鏡が輝き、その姿を消した。

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