第十八話『森の咆哮──自然と人の対立』
「バッカ!!」
リシェが怒鳴った。
「そんなところ買ってどうするのよ! 町から遠いし、モンスターも出る有名なところじゃない!」
「い、いや、でも安かったし! なあルエル!」
「そ、そうです! 果実も取り放題ですよ!」
「もう! ルエルまでついて行ってなにしてるの! お金なくなっちゃってるじゃない!」
二人とも怒られ、宿から追い出された。
「がっつり怒られたな...... 仕事してきなさいだって」
「まあ、お金もなくなっちゃいましたし...... 確かに今後の生活を考えると、怒られてもしかたないですね」
「......リシェは結婚すると尻にしくタイプだな」
そう話ながら協会にむかった。
「ああ、ナナミさま。 聞きましたよ、子供ができたんですって」
ミーシャさんが開口一番そういった。
「いっ! 誰がそんなこと!」
「噂になっています。 スーパールーキー家族ができるって! おめでとうございます!」
「いや、違う! 違わないけど......」
「じゃあ、頑張らないとですね! お父さんとしては!」
勘違いしているミーシャさんが話を進めた。
「完全に勘違いしていますね......」
「もう訂正する気力もない...... 掲示板を探そう」
掲示板をみていると、一枚の古い依頼書を見つけた。
「これ古いな。 期限無し...... めちゃくちゃ高額な報酬だ。 うん? これって......」
「これ、マスターが買った土地の近くですよ!」
「本当だ! 近くにいるのかよ。 それでこのグラントレントってのについている【禁獣】ってなんだ?」
「禁獣とは、界獣でありながら、モンスターのように人間を敵視する存在ですね。 かなり高位の霊獣、法獣クラスでとても強い力を持ちます」
「界獣なのか。 それでなんで人間に敵意を持つんだ?」
「高位の界獣ほど、知能が高いので人間たちの思想や行動に嫌悪感を持つものもいなくはないです。 大半の界獣は人間に好意的ですけど......」
(それじゃデュエットがいっていた家族を殺したってのは禁獣なのか......)
「まあ、生き物だから好き嫌いはあるか...... そっとしておいた方がいいのか」
「いえ、その場にとどまっているようですが、倒した方がいいかも知れません」
「どうしてだ?」
「敵意を持てば界獣も猛獣と変わりません。 人間だって犯罪者は捕まえるでしょう。 界獣とて悪意や害意がないとはいえません」
そう真剣な眼差しでルエルはいった。
(人間との共存を望むルエルにとっても、人間へ敵意のある禁獣は危険だと考えているのか)
「......そうだな。 家からも近いし、排除しておくか」
俺たちはその依頼を受け、グラントレントと戦うことにした。
「でも、禁獣はかなり強いですよ。 戦うならリシェさんに協力してもらっては......」
ルエルが不安そうにいった。 俺たちは依頼書の地図を見ながら森へと入っていた。
「ああ、でもリルを一人にはしておけない。 俺たちでなんとかやろう。 危なくなったらトゥエロで逃げればいい。 それより魔力は?」
「魔力はそこかしこで感じますが、精々精獣クラス。 とても禁獣とは思えません。 ただこの森から妙な魔力は感じています」
(俺も森に入ってから誰かに見られているような感覚を覚えている。 ただ敵意はない感じなんだよな)
「この森ではギュラは使えない。 他の界獣たちで戦うしかないな」
(そろそろ新しい界獣を試して呼んでもいいか...... ただトゥエロの消費が激しい。 そうそう多重には使えない)
「マスター...... います。 でもこの魔力、広い...... 伸びてきてる!?」
地面が盛り上がると丸太のような根っこが飛び出してきた。
「くっ! こういうことか! シェリー!!」
シェリーが光となって根っこを貫いた。
何本もの根っこが地面から持ち上がる。
「人間め......」
遠くから声がする。 遠くに見えるそれは巨大な樹木だった。
「お前がグラントレントか。 どうして人間を敵視する」
「お前たちはこの自然の素晴らしさがわかっていない...... かつて私と契約したものも森を焼き払った。 人間はこの美しい自然をただやみくもに破壊するだけ...... 滅びろ」
空に持ち上がった根っこが叩きつけられる。
「ルエル! 木々には攻撃してこない、木々の裏に隠れろ」
「はい!」
俺は他の木々の後ろに隠れた。
(こいつ、この世界の環境保護原理主義者かよ!)
ゆらゆらと木の根っこが俺を探している。
「話ができるなら対話しよう......」
「......人間が理解できるとは思っていない。 お前たちは壊して奪うだけだ」
目の前の地面から根っこが飛び出てくる。 なんとかかわした。
(くそっ! 確かにそのとおりだよ! 木々が盾になってくれてるが、地面から狙われる。 クアトではあの巨大な幹にダメージを与えられない。 一か八かでギュラを使うか......)
その時木の蔓が上から伸びてきて俺をからめとった。 隣を見るとルエルも捕まっている。
「ぐっ! 木の根だけじゃなかったのか!」
(もう延焼覚悟で燃やすしかない!)
「ミリエラ!!」
蔓が突然凍りつき引っ張るときれた。
突然リシェが現れる。 そのとなりにはリルもいる。
「リシェ、どうしてここに!?」
「話はあと! 今はこいつを倒すよ!」
「わかった!」
ミリエラの氷で木々の動きが鈍る。
(やはり植物化した界獣だけに氷にも弱い...... ただ俺の手持ちじゃ、致命傷は与えられない。 ここは......)
俺は集中して念じる。
「こい...... 俺の声に答えてくれ!!!!」
空間が歪むと、つむじ風が起こり、緑の毛並みの狼が姿を現した。
「ザッファ......」
「ザッファ!! 頼むあいつをとめてくれ! やれるか!」
ザッファと名乗った狼は、木の根を俊敏な動きでかわしながら、風のような早さで近づいていく。
「リシェ! ミリエラに幹を攻撃させてくれ」
「ミリエラ!」
ミリエラが放った氷の息が、グラントレントの幹を凍らせた
「ガアアアア!!」
そうザッファが咆哮すると、その体が一陣の風となってグラントレントの凍った部分を貫き、その巨大な幹に穴を空けた。
「ぐあああっ......」
大きな穴から幹に亀裂がはいると、その巨体を支えられず、グラントレントは折れて地面に倒れた。
「ぐぅっ...... 人間に与する...... 愚かな同胞よ......」
「......我々は人間を、好きなんです。 同胞とて傷つけることは許しません」
ルエルが悲しげにそういうと、グラントレントは物言わぬただの木となった。




