第十話『慈善の仮面──デュラード男爵の地下室』
「俺たちの界獣はいなかったな」
俺たちは協会に捕まえた男を引き渡した。 その次の日、俺は宿でリシェと話す。
「そうだね。 協会に寄って聞いて来たけど、あの男、元ハンターの【ルカー】からは何も情報を得られてないんだ。 あの建物から界獣は保護したけど、ルベン商会との関係も見つからないみたい......」
リシェは失望したように言葉をしぼりだした。
「ルベン商会が界獣の販売に関わってるのがわかった。 リシェ、他にやつらのアジトは知らないのか?」
「いくつかは知ってるけど...... 私が調べた中にはそれらしい場所はないよ」
「ということは、別に大がかりな保管場所があるのかもな...... 人が近づかないような大きな建物かなにかが」
「......貴族【デュラード男爵】がルベン商会と繋がってるっていう噂があるの。 でもデュラード男爵はこの国でも有数の慈善事業家でもあるし...... 私もただのやっかみだと思ってた」
「貴族で慈善事業家か...... 悪人の隠れ蓑には都合がいいな。 そいつを調べてみよう」
俺たちはデュラードの領地で城のある【バラニーク】という町へと向かった。
「本当に調べるの? デュラード男爵は税も軽く、施しや仕事の斡旋などで、民衆に支持される珍しい貴族よ」
躊躇するようにリシェがいう。
「その金の出所は?」
「えっ? それは領地の税収なんじゃない?」
「こんなところで、それほどもうけられると思わないがな」
見たところ小さな町で田畑などが少しあるだけだった。 ただ町は人も多く活気もある。
(税が軽いから商業は賑わってるのか...... ただそれだけで領地を賄えるのか)
「とりあえず、エフェネを使う」
町の小高い丘まで行くとエフェネを飛ばした。 エフェネは分裂しながら、町の空を飛んでいく。
「これで界獣を探せるはずだ。 いやあれは?」
エフェネの群れが遠くにみえる城の方に向かっていく。
「あれはデュラード男爵の城だよ。 とても信じられないけど......」
リシェのクリエで姿を隠して城へと近づく。
「やはり、ここにいるな......」
エフェネが旋回している。
「よし、入ろう」
屋敷には少数の人しかいなかった。 それらをかわしながら屋敷を進む。
「領主の城に不法侵入なんて見つかったら処刑よ」
リシェの小声で緊張が伝わる。
「しかたない。 何かをやってるのは間違いない。 ほら......」
エフェネはひとつに戻り、城のなかを飛んでいる。
「界獣を取り返したいんだろ......」
そう俺が聞くとリシェは無言でうなづいた。
エフェネが飛ぶ姿を追うとある部屋へと向かう。
「ルカーが捕まった......」
その時、ある部屋の前でそんな声が聞こえてきた。 リシェと顔を見合わせた。
少し開け、中の様子をうかがう。
そこには長身の貴族風の若い男と話す人相の悪い小太りの中年男がいた。
「そうです。 デュラードさま」
小太りの男は貴族を見ながら卑屈な顔で答えた。
「あれ、ルベンよ」
リシェがそういった。 その言葉から驚きと失望の響きが込められている。
(......あれがルベンとデュラードか)
「それで界獣は」
「それが全てハンターどもに差し押さえられて...... かなり荒事になりますが、取り返しますか」
「いやかまわない。 必要な界獣はあらかた回収済みだ。 君はそのまま界獣の確保を続けてくれ」
「わかりました......」
俺たちはすぐその場から離れる。
「まさか、デュラード男爵がルベンと本当に結託していたなんて......」
リシェはそういうと、拳を握りしめていた。
「人は表向きとはちがう面の顔を持つからな。 それよりこれで確定した、早く界獣たちを探そう。 この城にいるはずだ」
エフェネの追跡を再開すると、ある部屋の前で旋回している。
「この部屋か......」
中には入ると暖炉以外にはなにもない。
「なにもないね」
「いや......」
エフェネは暖炉のなかには入っていった。
覗き込むと、暖炉の奥に穴がありそこを進むと、地下へと続く階段があった。
「ずいぶん念入りだな」
「界獣の捕獲は国際法でかなり厳しいから、貴族といえど容易くおかせないのよ」
「なぜだ? モンスターじゃないなら、ただの動物と変わらないだろ」
「知らないの...... 遥か昔、界獣たちを乱獲して界獣の怒りを買い、多くの国が滅んだとされるの。 それで人は界獣を守るようになったんだ」
「......そんなことがあったのか」
(界獣は意識世界の存在。 何かあってもおかしくはないか......)
そんなことを考えながら、仄かな灯りが照らす暗い無機質な階段をおりる。




