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王女は城を追い出されました  作者: 三国司


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おとり

 アイラはグレイストーン伯爵と食事をしながら、子どもたちを誘拐した犯人について話したが、やはり伯爵もまだ犯人が誰かは分からないようだった。


「グレイストーンは犯罪の少ない街です。うちの騎士たちにきちんと見回りをさせていますから。けれど人口が多くなり栄えると、どうしても影の部分が出てきてしまいます。犯罪者を見つければもちろん捕まえていますが、我々が把握してない犯罪者や、犯罪にならないぎりぎりの事をしていて捕まえられない組織もあります」

「そういう奴らが今回の誘拐事件を起こしたと?」

「ではないかと考えて調べているところです。けれど全く警戒していなかった人物が犯人かもしれません。まだ何も分かりません」

「使えない奴だ」


 アイラは食事を終えると、偉そうに言った。

 けれど悪人を痛めつけるのが趣味な伯爵を見て、慌てて「今のなし!」と付け加える。


「お前は使えなくない」

「変に気を遣わなくていいですよ」


 伯爵は葡萄酒を飲んで笑っている。アイラも葡萄酒を飲んでいたものの、三口飲んで満足したので、今はお子様仕様の林檎水を飲んでいた。

 アイラは林檎水の入ったグラスを置いて言う。


「山ほどいる犯人候補を一人ずつ調べていっても埒が明かない。こちらから犯人に近づくんじゃなく、犯人からこちらに近づいてくるように仕向けるんだ」

「どうやってです?」


 伯爵は楽しげだった。アイラは胸を張って答える。


「おとりを使うんだ。誰か子どもをおとりにして、近づいてきた犯人を捕まえる」


 アイラは自分の作戦に自信を持っているようだった。伯爵も「ふむ」と考えて、やがてこう言う。


「おとりを使うのはいいかもしれませんね。けれど子どもをおとりにするのは危険です」

「だけど子どもばかり誘拐されるんだから、子どもを使わないと犯人を捕まえられないだろ?」

「では、アイラ様におとりになってもらいましょう」

「私が!?」


 アイラの声が裏返る。

 一方、後ろでルルは心配そうにしていた。アイラでは到底伯爵に口で敵わない、きっと伯爵の意図する通りに話がまとまると思ったからだ。


「だけど私はもう子どもじゃない」

「十六歳はまだ子どもですよ。それに小柄ですし、実際より二つほど幼く見えるかもしれません」

「でも十四歳に見えるとしても、今まで攫われた子どもより大きい」

「そうですね、犯人も抵抗された時の事を考えて、あまり大きな子どもは狙おうとしないかもしれません。しかし――」


 伯爵はアイラを見て続ける。


「アイラ様が一人で歩いていれば、きっと狙われるでしょう。犯人の目的が何であれ、あなたほど綺麗な子どもはいませんから。必ず犯人の目を引くはずです」

「そうかな?」

「そうです。さて、そうと決まれば着替えましょうか。やはり身寄りのない孤独な子の方が狙われやすいでしょうから、もっと汚い服を着て、生活に困っているような雰囲気を出すんです」


 伯爵は立ち上がると、窓の外を見て続ける。


「ちょうどもう外は暗いですし、子どもが一人で街をうろつけば目立つ時間帯です」

「おい、待て。私、貧しい子どもの振りなんてしたくない」

「子どもたちを助けるためです。早くしないとあなたが探しているケビンたちも殺されてしまうかもしれませんよ」


 頑張りましょう、と伯爵がにっこり笑って言う。それは有無を言わさぬ笑顔だったので、アイラは仕方なく「分かった」と答えたのだった。



 アイラは『身寄りがなく貧しい子ども』の振りをしながら、グレイストーンのとある通りを歩いていた。

 伯爵に着せられた服はボロボロというほどではないが、薄汚れている。それに片方の靴には穴が空いてつま先が見えていた。

 おまけに髪に逆毛を立てたりして、手入れをしていない感じにされている。

 そうやって伯爵家の使用人が髪をボサボサにした時、いつも気を配ってアイラの髪を綺麗に整えているルルは嫌そうな顔をしていた。


『行方不明になっている子どもたちの多くは、この地区に住んでいたのです。そして家からそれほど離れていない場所でさらわれたと思われます』


 先ほど伯爵はそう言って、アイラを馬車から降ろした。大通りから一本入ったところにあるこの通りは、この地区の中でも治安の悪い場所だと言う。

 確かにアイラの他にも十六、七歳くらいの不良少年たちがちらほらいるし、瓶から直接酒を飲みながら道の端に座り込んでいる中年男もいる。また、通りの奥には肌を露出した女性たちも立っていた。


 今おとりのアイラは一人きりになってしまったが、伯爵は少し離れた場所でロンと共に馬車の中で待機しているし、伯爵家の騎士やルルも近くでこちらの様子をうかがっているはずだ。


「おい、お前。見ない顔だな」

「やめとけよ。こいつ金なんて持ってなさそうだ」


 すれ違った若い男二人組に絡まれそうになったものの、彼らはそう言って勝手に離れていく。

 その後も売春目的の男や、たまに女にも絡まれたりしたが、アイラは何とか魔力を使わずに彼らを追い払って、また一人で歩いた。

 通りを一往復した後、ちょっと疲れて、他人の家の前にあった木箱に座り込む。


「犯人め、早く現われろ」


 ただうろうろしているだけでは暇だ。

 しかしその言葉を発した途端にアイラの前を通りかかったのは、望んだ人物ではなかった。


「この辺りは治安が悪そうだな」

「だが、こういうところに潜んでいるのかもしれない」


 狭い通りに入ってきたのは、馬に乗った二人組の騎士だった。しかもあの白い制服を見るに、彼らは伯爵家の騎士ではない。アイラを探しているはずの王都の騎士だ。

 彼らは二人でこんな会話をしている。


「王女様がこんなところにいるって? もしいたら憐れというか……王族がここまで落ちぶれるとは」

「見つかれば処刑されるかもしれないんだ。王女も必死になるだろう」

 

 やばい、とアイラは思ったが、アイラから騎士たちが見えているのと同じように、すでに騎士たちは自分を視界に入れているだろう。ここで慌てて逃げたら怪しいと思って追いかけてくるかもしれない。


 そこでアイラは木箱に座ったまま少しうつむいて、騎士たちをやり過ごす事にした。

 今の自分は髪色も髪型も王女だった時とは違うし、見るからに貧しく貧相な子どもだ。きっと騎士たちはちらりとこちらを見るだけで通り過ぎるはず。


(暗くてはっきりとは見えなかったが、私はあの騎士たちの顔に見覚えがないし)


 少なくともアイラたち王族の近衛をやっていた騎士ではないはず。だから相手もアイラの顔をはっきりと認識していないかもしれない。

 しかし騎士たちはアイラがいる前まで歩いてくると、その前でぴたりと止まった。


(なんだ?)


 うつむいているアイラの視界には、茶色と黒の馬の足が映っている。


(バレたか?)


 力を使えば騎士二人くらい倒せるが、騒ぎになるとおとり作戦が続けられなくなる。どうしようかとアイラが迷っていると、


「君、いくつだ?」


 騎士の一人がそう尋ねてきた。アイラは仕方なく、わずかに顔を上げた。


「十……四」


 十六歳だと素直に答えそうになったが、そうすると『王女アイラ』との共通点が出てしまうので二歳誤魔化す。


「親はどこにいる? 家はどこだ?」


 どうやら騎士たちはアイラの事を心配して声をかけてきたようだった。


「親はいない。家はあるけど帰りたくない。叔母さんが怖いから」


 伯爵と決めた設定を話す。すると事情を察した騎士が、二人とも馬から降りてきた。

 そしてアイラの顔を覗き込んで言う。


「もう夜遅いから、家に戻ろう。送っていくよ」

「君の叔母さんとも話をしてあげるから。穴の空いていない新しい靴も買ってもらえるよう頼んであげよう」


 おせっかいだが良い奴らだな、とアイラは思った。自分がまだ王女だったら褒美の一つでもやっていたところだ。

 でも今は邪魔だった。彼らがいると、もしも犯人が近くにいたとしても寄ってこなくなる。


 するとそこで状況を見守っていた伯爵家の騎士たちがやって来て、王都の騎士に話しかけ、「自分たちが代わりに家に送ります」と申し出た。


「この街の事は我々に任せてください」

「では、そうします」


 あまり出しゃばって関係が悪くなってもこれからこの街でアイラを探しにくいと思ったのか、王都の騎士たちはあっさりと引き下がった。

 再び馬に乗ると、こんな事を話しながらここから遠ざかって行く。


「身なりは貧しいが、驚くほど綺麗な子だったな。青い瞳で、色が白くて、人形みたいだった」

「何だかもったいないな。どこか良いところの家に養子に貰われるといいんだが」

 

 彼らが角を曲がって見えなくなると、伯爵の騎士たちは「大丈夫ですか?」とアイラに声をかけ、アイラが頷くと彼らも去って行く。犯人が近づいて来やすいよう、また隠れるのだ。

 伯爵家の一部の使用人も騎士たちも、アイラの正体に気づいているようだった。もしかしたら伯爵が教えたのかもしれない。

 けれど伯爵がアイラを追っ手に引き渡すつもりがないから、忠誠心の高い彼らも主人に従っている。


 アイラの周囲はまた静かになり、それから一時間以上が経った。

 しばらく野良猫とたわむれていたがその猫もどこかへ行ってしまい、アイラが一人でうとうとし始めたところで、やっと目当ての人物が現れた。


「こんなところに上玉がいたとは。少しでかいが問題ないだろう」


 アイラを見下ろしてそう言った男は、髪が短く無精髭を生やしていた。腕には入れ墨があり、堅気ではない雰囲気だ。

 男に仲間はおらず、一人のようだった。

 

「お前、親は?」

「いない」


 男の質問に、アイラはなるべく暗い声を出して答える。

 すると男はニヤッと笑ってこう続けた。


「見たところ、ろくに服も買えない生活みたいだな。腹は減ってないか? 金は欲しくないか?」

「……金をくれるのか?」


 貧しい子どもの振りは難しい。お前のような者から金を貰う必要はない、と答えてしまうところだった。

 男は頷いて言う。


「こんな薄汚いところでいつまでも惨めな生活をしたくないなら、俺について来い」


 この男が子どもを誘拐していた犯人なのかはまだ分からない。けれどその可能性はあると思って、アイラは男について行った。おそらくルルたちも少し離れて後をつけて来ているだろう。

 

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