救出に向かいます。
手鏡の中に飛び込んだ私は、高速犬かきで移動する。ようやく時計塔の部屋にある鏡の出口が見えてきて、勢いよく転がり出た。ドタッと床に墜落した私を見て、暢気にクッキーを頬張っていたジュード殿下が、「ウグッ」と喉を詰まらせたような声を漏らした。
「いきなり、出てくるなよ! 怖えぇよ!」
「で、殿下ぁ~~~~!」
私は這うように近付いて、ジュード殿下の脚にしがみつく。
「おい、なんだよ。だいたい、お前……演習に出てたんじゃないのか!?」
「そうなんですけど、緊急事態が発生して……そ、そうです。殿下、お願いです。ユーイン殿下を助けてください!!」
私は目を潤ませて、殿下を見上げる。
ジュード殿下は後ろに控えたルシアンさんと顔を見合わせていた。
「何があったんです?」
ルシアンさんが私のために紅茶をいれて、カップを差し出す。
それを受け取って、私はゴクゴクと一気に飲み干した。
ついでに、皿に盛られている大きなクッキーをつかんで口に押し込む。
お、おいしい! チョコチップとナッツが入ってる。
「おい、勝手に食うな。それは俺の……って、持ち帰ろうとすんじゃねぇ!」
残りのクッキーをポケットに押し込もうとしていると、猫みたいに首根っこをつかまれる。
私はポケットにクッキーを隠しながら首を竦めた。
「と、とにかくですね……ええっと、演習でダンジョンに入ったんですけど……骸骨が……骸骨がいっぱい現れて、ユーイン殿下がみんなを逃がしてくれたんですけど、通路が埋まって……そ、それで、私もユーイン殿下も、あと一人殿下の従者の人も、取り残されてしまったんです。そ、それで、骸骨の親玉が……」
私が早口で説明すると、ゴンッと頭にゲンコツが落ちてきた。
「落ち着け。何言ってんだか、さっぱり分かんねーよ」
「で、ですから、骸骨が……スケルトンの親玉が現れたんです!!」
私は必死にそう説明する。
ジュード殿下もルシアンさんも、驚きの表情になる。
「あのダンジョンは初級ダンジョンだろ? アンデット系の魔物は出ないはずだ。なんで、スケルトンなんかイレギュラーな魔物が現れるんだ?」
「わ、分からないですんけど……と、とにかく殿下が応戦していて、でももう魔力が付きそうで、急がないとユーイン殿下が死んでしまって、殿下まで骸骨に!!」
私はブルブル震えて、甲高い声を発する。
うるさいとばかりに、殿下が顔をしかめた。
お、落ち着いている場合じゃないのに!
「事情は分かったけどな……俺にはどうしようもねーよ。助けるのは教師の役目だろ」
殿下はソファーに凭れて、投げやりな口調で答える。
私は「そ、そんなぁ!」と、殿下の膝にすがりついた。
「ユーイン殿下はジュード殿下の弟じゃないですか!」
ジュード殿下はそれを訊いて、「ハッ!」と皮肉な笑みを浮かべた。
「あいつだって、俺を兄だなんて思ってやしねーよ。心の中じゃ、王族の恥さらしだと軽蔑してる」
「そ、そんな事ありません。ユーイン殿下はとっても優しいです……それに、あの……私、見たんです。骸骨の杖に黒い魔石? みたいなのがついているのを」
私が必死になって言うと、「なんだって?」とジュード殿下が顔色を変える。
ジュード殿下もルシアンさんも険しい表情になっていた。
「で、ですから……前に倉庫で、殿下が机に置いていた……」
「闇の魔石を見たのか!」
殿下が痛いほど強い力で私の両肩をつかんで、強い口調で尋ねる。
私はビクビクしながらも頷いた。
「ちょ、ちょっとだけ、見えてしまったんです!!」
ジュード殿下はチッと舌打ちして、前髪を手でクシャクシャにする。
もし、あの黒い魔石を使ったのが殿下なら……と、ほんの少しだけ不安があった。
でも、二人の驚きようからして違うみたいだ。私は密かにホッとする。
やっぱり、ジュード殿下がユーイン殿下を狙ったわけではない。
「あの、殿下? 闇の魔石って何です?」
おずおずと尋ねて見ると、「お前は知る必要ねーよ!」と睨まれた。
「闇の魔石が使われていたということは……人為的にアンデットを発生させたという事でしょうね」
ルシアンさんが考え込みながら呟く。
人為的? ということは、あの骸骨は誰かが発生させたもの?
「なんで……そんな事……」
「決まってんだろ。あいつの命を誰かが狙って仕掛けたって事だ。ダンジョン内で死んだとしても、事故か不運で片付けられるだろ」
ジュード殿下が冷たい声で言う。
そんな……あんないい人のユーイン殿下を殺そうとする人がいるなんて。何のためにだろう。
殿下は恨みを買うような事をする人には見えない。
でも、人が人を殺そうとする動機は、恨みだけじゃない事も知っている。
「と、とにかく、早く助けないと……」
私は顔を上げて焦るように言う。
「俺には無理だ。お前はもう戻るな。戻ったってどうせ役に立たないんだ」
「い、嫌です。そんな見捨てるような事……」
私が急いで言うと、ジュード殿下が怪訝そうな顔をして私を見る。
「なんだ? お前……あいつに気でもあるのか?」
そう聞かれて、ボッと火が着いたように顔が熱くなった。
「ち、違いますよ! 全然違いますよ!! わ、私なんかが……そんなわけありません。でも、殿下はバケットサンドを分けてくれたから……その恩義を感じているだけです」
殿下に私が懸想するなんて、烏滸がましすぎる。ただ、一緒にお昼を食べてくれる人は他にいなかったから……。ちょっとだけ、それが嬉しかったのだ。それだけの事だ。
それに、ユーイン殿下にもしもの事があれば、多くの人が悲しむ事になる。
彼は私なんかと違って人気者で、多くの人に必要とされている人だから。
「だいたい……お前は忘れてるかもしれないが、鏡の中を移動できるのはお前だけだろ? 俺が今から馬や馬車を走らせてダンジョンに向かったって、通路も塞がれてるなら間に合わねーよ。それなら、教師に任せる方がマシだ。運が良ければ死なずに済むさ」
「そ、それなんですけども……もしかしたら、私以外の人も移動させられるかもしれません」
私はモジモジしながら口を開いた。
「なんだって?」
元いたホラーゲームでも、プレイヤーを背後から襲って鏡の中に引きずりこんだ事がある。
「まさか、その方法を隠してたんじゃないだろうな?」
「ち、違います、違います。私も試してみていなかったので……できるかどうか分からなかったんです」
私は詰め寄られて、プルプルと首を振る。繋がれた縄を持っているだけじゃダメだった。
「で、その方法は!?」
「それが……み、密着していれば……?」
「………………は?」
ジュード殿下がひどく嫌そうに顔をしかめた。
「で、ですから、私とピッタリくっついている事が、鏡を通り抜けられる条件なんだと思うんです! や、やってみた事はないけど……その方法なら、うまくいくかもしれません!!」
「お前と密着……?」
「そ、そうです。こう、ギュッと熱く抱擁する感じで」
「熱く抱擁する感じで……」
殿下の顔が言うたびに険しくなっていく。
ゴンッと拳が振ってきて、「ひえっ」と首を竦めた。
「死んでもお断りだ!!!!」
「そんなぁ~~~~!!」
これはユーイン殿下の命がかかっている事なのに!!
◇◇◇
「で、殿下……もっと密着してくれないと離ればなれになっちゃうかもしれませんよ?」
「うるさい! これでも我慢しているんだ。さっさと行け」
後ろから私を抱き締めている殿下に、ベシッと頭を叩かれる。
「私も一緒に行きましょう」
「はあ!? お前も!? というか、くっつくなーっ。暑苦しい!!」
騒がしい二人を振り返ってみれば、ジュード殿下にルシアンさんまでギュッと抱きついている。
本当に大丈夫なのか不安になってくるけれど、今は躊躇っている場合じゃない。
ユーイン殿下、今、助けに行きますからね!
「それじゃあ、絶対に離れないでくださいね!!」
私はそう言って息を深く吸い込み、プールに飛び込むように鏡の中にダイブする。
ユーイン殿下が、「うわああっ!」と悲鳴を上げていた。
転がり出た先は、ダンジョン内に残してきた私の手鏡だ。三人一緒に出るには出口が狭すぎる。
まずは私が「よいしょっ!」と抜け出してから、後の二人を引きずり出した。
う、牛の出産みたいだわ……。
ジュード殿下もルシアンさんも、ぐったりしてひどく気分が悪そうだ。
「さ、最悪だ……」
「空間移動できるのは素晴らしいですが……そう頻繁には利用したくないですね」
「だ、大丈夫です?」
「大丈夫じゃねーよ! けど……マジでダンジョン内だな」
殿下は額は押さえて立ち上がり、瓦礫が散乱している通路内を見回す。
「ユーイン殿下はこっちです!」
私は急いで通路を進み、ユーイン殿下が戦っていた広間のような部屋に急ぐ。
部屋の中を覗こうとすると、ジュード殿下に首根っこをつかまれてグイッと後ろに引っ張られた。
「危ねーだろ。うかつに顔出すな!」
「で、でも、殿下が!」
私が焦って口を開く。
ユーイン殿下はすでに倒れていて、光の防御壁も消えてしまっていた。
まだ殺されていないという事は、寸前まで耐えていたのだろう。
あの骸骨の親玉が、杖を変化させた大きな黒い鎌を振り下ろそうとしている。
その咆哮にゾッとした。周りは多数の骸骨兵に囲まれていて、近づけない。
ジュード殿下がチッと舌打ちして飛び出し、火炎魔法を骸骨の親玉に放つ。かなりの威力の炎だ。
「す、すごい……!」
私は思わず目を見張って呟いた。炎が部屋いっぱいに広がって、骸骨の親玉が後ろに下がる。
周りにいた骸骨兵は炎に巻かれて崩れるように倒れていた。
「いいえ、無理ですね……スケルトンは火炎魔法では倒せません」
私の後ろから部屋を覗いていたルシアンさんが小声で言う。
アンデット系の魔物に、もっともダメージを与えられるのは光属性魔法だ。
けれど、それが使えるユーイン殿下は魔力が尽きて、意識を失っている。
「回収しますよ」
ルシアンさんは私に言うと、躊躇なく部屋に飛び込む。私は慌てて後に続いた。
ルシアンは上着のポケットから取り出した小瓶を、集まってくる骸骨兵に投げつける。
その途端、骸骨兵から焦げたような匂いの煙が立ち上る。
骸骨兵はバラバラの骨に分解されて、そのまま砂と化してしまった。
びっくりしている私を振り返り、ルシアンさんが小瓶を私に放り投げる。
「教会御用達の聖水です。親玉には効きませんが、雑魚くらいは追い払えるでしょう」
「せ、せ、聖水!?」
私はあたふたして、落としそうになった小瓶をキャッチする。
ひいいいいっ、聖水なんて持ったら、私まで浄化されてしまうかもしれないわ!
小瓶を持つ手がブルブル震える。
だ、大丈夫。
今の私はただの人間なのだから、聖水がかかってもちょっと皮膚に穴が開くくらいのはずだ。
襲いかかってきた骸骨兵に、急いで小瓶を投げつける。
聖水をかぶった骸骨兵が絶叫して、ガシャンッと地面に倒れた。
聖水、効いたわ! す、すごいわ……。
私は砂と化す骸骨を慌てて避ける。
「さっさとしろ!」
ジュード殿下が、骸骨の親玉の大きな鎌を剣で受け止めながら叫ぶ。
ルシアンさんがユーイン殿下を助け起こしているから、私は倒れているダニエルさんの元へと走る。
大柄な男子を担ぐなんて無理で、ダニエルさんの両腕をつかんで引きずるようにして通路へと運び出した。ダニエルさんはまだ息はあるけれど、肩の傷が深いみたいで血が溢れている。
通路に戻ってきたルシアンさんも、担いでいたユーイン殿下を下ろした。
殿下の額から血が流れていて、顔色も蒼白だ。
「ユーイン殿下!」
私は動揺してしまい、どうしていいのかわからない。
こういう時にはハンカチで止血するものだと思い出して、ポケットを探したけれど、入ってるのはジュード殿下の部屋から強奪したクッキーだけだ。
「ど、ど、ど、どうしよう~~!!」
「うるさいです。応急処置くらいはできますよ」
ルシアンさんがピシャリと言って、ポケットから次々に小瓶を取り出す。
その一つを取って蓋を外すと、遠慮なくユーイン殿下の額にぶっかけていた。
臭い緑色の液体には見覚えがある。
私の膝の傷を治した時の治療薬だ。ルシアンさんは、もう一つを私の方に投げてきた。
それを急いで受け取り、蓋を外してダニエルさんの肩の傷にぶっかける。
手が震えてしまって、小瓶を落としてしまった。けれど、その薬のおかげで血が止まったようだ。
ルシアンさんは、やっぱり保健委員みたいだわ!
私はホッとする。けれど、部屋の中ではジュード殿下が一人で骸骨の相手をしているのだ。
火炎魔法と剣で応戦しているけれど、苦戦しているのは見て取れる。
親玉だけではなく、いくら倒しても骸骨兵が湧き出してくるから切りがない。
杖が変化した大鎌の先に、あの黒い魔石がついていて、そこから瘴気のような黒い靄が流れ出ている。
「あの、ノース先輩……あの魔石から出ている黒い靄はなんです?」
「闇の魔力ですよ。あれが、スケルトンを生み出しているのでしょうね。何とかして奪うか破壊しない限りは切りがありません」
「や、闇の魔力……」
私は呟いて自分の手を見る。私の魔力は闇属性だ。も、もしかしたら……。
「あ、あの、あの魔石の魔力を私が吸い取る事はできませんかね?」
おずおずと尋ねてみると、ルシアンさんが「は?」と訊く。
いったい、何を言っているのかさっぱり理解できないという顔だ。
「私、闇魔法の適性があるみたいですから……それに、アンデット系の魔物に闇魔法を使うと、逆に元気にさせてしまうと聞いたんです」
注ぐことができるなら、反対に吸い取る事もできるんじゃないか……なんて、安直に考えてみました。
私は冷や汗をタラタラ垂らして、考え込んでいるルシアンさんの顔色を伺う。
「聞いた事も見た事もありませんが……できそうなんです?」
真顔で尋ねるルシアンさんに、私は必死に頷いてみせた。
「それなら、お任せします。私はこの二人の治療がありますから手は貸せませんよ」
「は、はいっ。お任せください!」
私は胸を張り、急いで立ち上がる。
ジュード殿下が、振り下ろされる鎌を飛び退いて避ける。
けれど、すぐに骸骨兵が囲んで剣で襲いかかっていた。
殿下はそれを剣で薙ぎ払うと、骸骨の親玉に火炎魔法を連続で叩き込む。
かなり魔力を消費しているのだろう。
それでもこれだけのアンデットを相手に一人で奮戦するのだから、やっぱりジュード殿下はすごい。
私も、ま、負けていられない……!
私は拳を握って、勇気を奮い起こす。
怖じ気づいてなんていられない。
骸骨の親玉の鎌についている闇の魔石に向けて、両手を向けて集中する。
あの黒いモヤモヤを吸収するイメージで……。
わずかに、魔石の周りの黒いモヤモヤが揺らいだ気がした。けれど、それだけだ。
やっぱり吸引なんてできないのかも……!
ジュード殿下も必死に戦ってくれているのに、諦めるわけにはいかない。
なんだかんだ言いながら、あの人は弟のためにここまで来てくれたのだ。
こうなったら――。
私はテレビの通販番組で売られている強力な掃除機を思い浮かべる。
掃除機で、吸引するイメージ!!
その瞬間、闇の魔石から生み出されていた黒い靄が、急速に私の手の中に吸い込まれていく。
「できたぁあああ!! で、でも、気持ち悪い~~~!!」
私は悲鳴を上げながらも必死に我慢する。
「はぁ!? な、何やってんだ――!!」
殿下が振り返って仰天したように声を上げた。
闇の魔石から次々溢れる黒い靄が、勢いよく私の手の中に吸い込まれていくのだ。まさに掃除機!
骸骨の親玉が動揺したように咆哮を上げて、私の方に向かってくる。
どうやら、「こいつはヤバいヤツ」と認識されてしまったらしい。
「ひいいっ、こっちに来る!!」
「てめぇの相手は俺だろうが!!」
ジュード殿下が私の前に飛び出してきて、ガンッと剣で鎌をはね除けた。
相当疲労しているのか、汗だくで息も乱れている。
そんなジュード殿下の背中を、私はへたりこんだまま見上げた。
「ジュード殿下…………」
呟いた声が震えて、涙が滲みそうになる。
「さっさと立て!!」
怒鳴られて、涙を拭って急いで立ち上がる。まだ終わっていないのだ。
私はもう一度両手を魔石に向けて、残りの魔力も吸収する。
魔石の色が透明に変わった瞬間、部屋に残っていた骸骨兵の姿が消えた。
ジュード殿下がその隙を逃さず、地面を蹴って飛び出す。
炎をまとった殿下の剣が狙ったのは、骸骨の親玉の頭蓋骨だ。
殿下が剣を叩き込むと、頭蓋骨が砕ける。そのまま、殿下は渾身の力で火炎魔法を叩き込んでいた。
ジュード殿下が飛び退いて着地すると、全身炎に焼かれた骸骨の親玉が断末魔の悲鳴を上げる。
炎の中で黒く焼け焦げた骨が脆くも崩れていくのが見えた。魔石の魔力がないから復活もできない。
息を切らしていたジュード殿下が、脚から力が抜けたようにふらつく。
「で、殿下ぁ!!」
私は急いで駆け寄って、倒れそうになる殿下を支えた。
「……クソ……なんで、俺がこんなに働かなきゃならねーんだ……」
うんざりしたように呟いた殿下が、疲れたように私にもたれてきた。
私は「うぇ……えぐ……」と、顔をクシャクシャにして泣く。
ひどくみっともない顔になってしまっていた。
そんな私の顔を見て、殿下はさらにげんなりした表情を浮かべる。
「空になった魔石……回収しとけよ……」
「は、はいっ!」
涙を拭って立ち上がり、炎が消えた後に残されている透明な魔石に手を伸ばす。
魔力を使い切ると、魔石は水晶みたいに透明になるらしい。
私は煤を拭って、殿下の元に引き返す。
「こちらの二人は一応、応急処置しておきました。どうします?」
「だったらいい。後は教師が何とかする。俺らがここにいる方がマズい。とっとと帰るぞ」
膝に手をついて立ち上がった殿下が、疲れたような口調で言った。
「では、戻りますか。あの方法で」
ルシアンさんが言うと、殿下は「また、あれか……」と溜息を吐いていた。
二人とも、嫌そうな顔をして私を見る。
そんな顔をされましても……。
手鏡を持った私の腰に、殿下が渋々後ろから腕を回す。
さらにジュード殿下に、ルシアンさんがピッタリと抱きついていた。
「では、戻ります! ご乗車の際はお足元にお気を付けて~~」
「くそっ、これだけは絶対改良させる!!」
「そうですか? 慣れれば別に……」
「お前とこいつに挟まれた俺が暑苦しいんだよ!!」
私はジュード殿下とルシアンさんを引き連れて、「えいっ!」と鏡の中にダイブした。




